自分だけ取り残されたように感じるとき

導入文

久しぶりにSNSを開くと、同級生の結婚報告が流れてきた。

別の友人は昇進し、資格を取り、新しい土地で暮らしている。親戚の子どもは進学し、近所では同年代の人が毎朝仕事へ向かっている。

その瞬間、自分の時間だけが止まったように感じる。

「みんなは前へ進んでいるのに、自分は何も変わっていない」

「今から始めても、もう追いつけない」

そんな思いが強くなると、誰かの幸せを素直に喜べない自分まで責めてしまうことがあります。

ひきこもり状態にある人が感じる「取り残された感覚」は、単なる焦りではありません。

学校や仕事から離れている時間、説明しにくい空白期間、家族への申し訳なさ、将来への不安などが重なり、自分の人生だけが社会の流れから外れたように感じることがあります。

今回は、取り残されたように感じる理由と、本人、家族、支援者、社会ができることを考えます。

1.取り残された感覚は「人生の比較」から生まれる

人は、自分の現在地を知るために周囲と比べることがあります。

年齢が近い人は、どこまで進んでいるのか。

同級生は働いているのか。

兄弟は自立しているのか。

自分と似た人が何をしているのか。

比較すること自体が悪いわけではありません。

ただ、ひきこもり状態が続いている時は、相手の「できている部分」と、自分の「できていない部分」だけを比べ、自分を責めやすくなります。

友人にも悩みや失敗はありますが、外から見えるのは、就職や結婚、資格取得などの結果が中心です。

そのため、自分だけが立ち止まり、ほかの人は迷わず進んでいるように見えることがあります。

2.年齢を意識する言葉が苦しさを強める

「普通なら、もう働いている年齢」

「この年齢なら、結婚していてもおかしくない」

「若いうちに動かないと手遅れになる」

社会には、年齢ごとの理想的な生き方を示す言葉が数多くあります。

こうした言葉を聞くたびに、本人は自分が予定から遅れているように感じます。

しかし、体調、障害、家族の介護、人間関係、経済状況によって、選べる道や必要な時間は異なります。

同じ年齢だから、同じ場所にいなければならないわけではありません。
取り残された感覚を本人だけの考え方の問題にせず、年齢で人生を評価する社会の側も見直す必要があります。

3.SNSでは他人の「進んだ場面」が目に入りやすい

SNSには、合格、就職、結婚、旅行など、生活の節目が多く投稿されます。

心が疲れている時にそれらを続けて見ると、自分以外の人が次々と前へ進んでいるように感じることがあります。

自分は今日も部屋から出られなかった。

連絡への返信もできなかった。

生活リズムも整わなかった。

その一日と、誰かが選んで投稿した人生の節目を比べれば、自分が小さく見えてしまうのは無理もありません。

SNSを見た後に苦しくなるなら、利用時間を短くする、特定の投稿を一時的に表示しない、朝起きてすぐには見ないなど、距離を調整しても構いません。

4.「何もしていない時間」に見えてしまう

ひきこもり状態の期間を、本人も家族も「失われた時間」と考えることがあります。

学校へ行っていない。

働いていない。

資格を取っていない。

目に見える成果がない。

そのため、「この数年間、自分は何もしていなかった」と感じてしまいます。

しかし実際には、毎日を生きるだけで精いっぱいだったかもしれません。

強い不安に耐えていた。

傷ついた経験を整理しようとしていた。

家族との関係を壊さないようにしていた。

外へ出る方法を何度も考えていた。

生活を維持しながら、心や体が回復するのを待っていた。

社会から見えにくい努力は、履歴書や経歴には残りません。

それでも、その時間まで無意味になるわけではありません。

「何を達成したか」だけでなく、「どのような状態を生き延びてきたか」という見方も必要です。

5.不登校の若者が感じる取り残される怖さ

不登校の状態にある若者は、学年や進路によって時間を強く意識します。

同級生が進級する。

受験の話が始まる。

卒業式が近づく。

友人が高校や大学、就職先を決める。

学校へ行けない苦しさに加えて、「同じ時期に同じ進路を選べない」という焦りが生まれます。

本人が最も不安を感じている時に、周囲が卒業や進学を急がせると、考える力まで失ってしまうことがあります。
学校以外の施設で相談や指導を受けることも、社会的な自立に向けた努力として評価され得ます。文部科学省も、一定の要件を満たす学校外での学びや支援を、学校として評価する仕組みを示しています。(文部科学省⁠)

在籍している学校と同じ方法で進めないとしても、学ぶことや人とつながることまで終わるわけではありません。

本人に合った時期と方法で進路を考える余地を残すことが大切です。

6.中高年では「もう間に合わない」という思いが強くなる

中高年のひきこもりでは、同年代との比較に加え、親の高齢化が重なります。

友人は管理職になっている。

住宅を購入している。

子どもが成人している。

一方、自分は親の収入や年金に支えられている。

こうした違いを意識すると、「今さら人生を立て直せない」と感じることがあります。

8050問題を本人の就労だけに絞ると、かえって相談しにくくなります。

生活費、住まい、医療、親の介護、行政手続きなどを一つずつ整理することが必要です。

何年ひきこもっていたとしても、相談を始めるのに遅すぎる年齢はありません。

一度に人生全体を変えるのではなく、今後の生活で不安なことを一項目ずつ確認することから始められます。

7.家族の何気ない言葉が比較を深めることがある

家族は本人の将来を心配しています。

そのため、

「同級生の〇〇さんは働いているよ」

「弟は自分で生活しているのに」

「このまま年齢だけ重ねてどうするの」

と言ってしまうことがあります。

家族としては、現実を見て動いてほしいのかもしれません。

しかし本人は、すでに自分と周囲を何度も比べています。

そこへ身近な家族から比較されると、「家族にとっても自分は遅れた存在なのだ」と感じる場合があります。

家族が心配を伝える時は、他人との比較ではなく、具体的な困りごとを話すことが大切です。

「将来のお金について、家族だけで抱えず相談してみたい」

「今すぐ働く話ではなく、使える制度を一緒に知りたい」

このように、本人の価値と生活上の課題を分けて話します。

家族自身も孤立しやすく、疲れや不眠、強い不安を抱える場合があります。厚生労働省のガイドラインでも、本人だけでなく家族の居場所や相談先を確保する重要性が示されています。(厚生労働省⁠)

8.支援の場でも競争をつくらない
居場所や相談機関につながった後も、比較が起きることがあります。

ほかの利用者が先に働き始め、自分だけ通う回数を増やせない。

支援する側が「次は就労」と同じ段階を求めると、本人はここでも遅れていると感じます。

支援では、ほかの利用者との比較ではなく、本人の以前の状態との違いを見る必要があります。

相談のメールを送れた。

決めた時間に起きられた。

居場所の前まで行けた。

苦しくなった時に帰ると伝えられた。

一見小さな変化でも、本人にとっては大きな一歩かもしれません。

支援の目的は、誰かに追いつかせることではなく、本人が安心して生活や社会とのつながりをつくれるようにすることです。

9.焦りが強い時ほど、大きすぎる目標を立ててしまう

取り戻したい気持ちが強くなると、本人は一度に多くを変えようとすることがあります。

明日から毎朝早く起きる。

すぐに週5日の仕事を探す。

資格の勉強も始める。

人間関係も作り直す。

しかし、目標が大きすぎると、少しできなかっただけで「やはり自分には無理だ」と感じてしまいます。

遅れを一気に取り戻そうとせず、現在の負担に合う大きさへ分けることが大切です。

朝ではなく、まず起きる時間を30分だけ早める。

求人へ応募する前に、希望する条件を書き出す。

相談へ行く前に、相談窓口のページを読む。

人と会う前に、短いメッセージを送る。

小さな目標は、低い目標ではありません。

続けられる形に調整した、現実的な一歩です。

10.過去の自分と比べて苦しくなることもある

比較の相手は、他人だけではありません。

以前は学校へ通い、働き、友人とも出かけていた。

過去の自分と現在を比べ、「前はできたのに」と苦しくなることがあります。

家族も、元気だった頃の本人を知っているため、以前の状態へ戻ることを願うでしょう。

しかし、回復は必ずしも過去と同じ状態に戻ることではありません。

以前より疲れにくい働き方を選ぶ。

付き合う人を少なくする。

助けを求めながら生活する。

新しい方法で学び直す。

今の自分に合った生活を作り直すことも回復です。

過去の自分を基準にせず、現在の体調や経験を踏まえて新しい形を探してよいのです。

11.自分の時間を見える形にする
取り残された感覚が強い時は、自分の変化が見えなくなっています。

そのため、結果ではなく過程を記録する方法があります。

今日はカーテンを開けた。

家族に返事ができた。

食事を一回取れた。

相談先を検索した。

つらくなる前にSNSを閉じられた。

できたことだけでなく、「今日は休む必要があると判断できた」と書いても構いません。

毎日書く必要もありません。

一週間や一か月後に振り返ると、止まっているように見えた時間にも、小さな変化があったと気づくことがあります。

他人の大きな節目ではなく、自分の生活に起きた小さな変化を基準にすることが大切です。

12.社会参加は一つの道だけではない

社会参加と聞くと、通学や就職を想像する人が多いでしょう。

しかし、社会とのつながり方はそれだけではありません。

オンラインの集まりで文章を読む。

趣味の作品を投稿する。

家族以外の人と短く話す。

地域の居場所で同じ空間を過ごす。

家の中で役割を持つ。

支援者へ自分の希望を伝える。

どれも社会との接点です。

ひきこもり支援では、本人や家族の孤立を防ぎ、つながりを回復する視点が求められています。厚生労働省の支援資料でも、「ひきこもり」という言葉だけで本人を捉えず、家族全体の複合的な課題を見ながら支える必要性が示されています。(厚生労働省⁠)

就労を希望する人には、その実現に必要な条件を一緒に探す。

今は就労を考えられない人には、安心できる生活や居場所から始める。

本人の希望に合った社会参加を選べることが重要です。

13.取り残されたと感じた時にできること

苦しさが強い時、無理に前向きになる必要はありません。

まず、「今、自分は比較してつらくなっている」と気づくだけでも構いません。

次に、SNSを閉じる、進路や就職の話を今日はしないと伝えるなど、苦しくさせる情報から少し距離を取ります。

その上で、今日の生活でできる最小のことを一つ選びます。

水分を取る。

薬を飲む。

窓を開ける。

相談先を保存する。

家族へ「今日はつらい」と伝える。

眠れない、食べられない、自分を責め続ける状態が続く時は、精神的な不調が重なっている可能性もあります。
本人が相談しにくい時は、家族から地域の相談窓口へ状況を伝えることもできます。孤独感は一部の人だけの問題ではなく、国の全国調査でも広く見られることが示されています。(内閣府⁠)

14.本人へ伝えたいこと

もし今、「自分だけが取り残された」と感じているなら、周囲と同じ速さで進めない自分を責め続けなくてよいのです。

あなたが止まっていたように見える時間にも、苦しさに耐え、今日まで生活をつないできた時間があります。

誰かの就職や結婚が、あなたの人生の失敗を証明するわけではありません。

同じ年齢でも、置かれている環境、心身の状態、使える支援、背負っているものは異なります。

今日できることが小さくても構いません。

連絡を読む。

食事を取る。

苦しくなる情報から離れる。

「今は難しい」と伝える。

その一歩は、他人から見えなくても、あなたの時間を確かに進めています。

追いつくことより、自分が壊れずに続けられる道を探してよいのです。

15.まとめ

自分だけ取り残されたように感じる背景には、同年代との比較、年齢への焦り、SNSに映る他人の節目、空白期間への否定的な見方、家族の期待、将来への不安などがあります。

若年層では進級、卒業、進学が時間の区切りになります。

中高年では仕事、収入、親の高齢化、8050問題が重なります。

置かれている状況は違っても、「みんなは進んでいるのに、自分だけが止まっている」という苦しさは共通することがあります。

必要なのは、一気に遅れを取り戻すことではありません。

他人の結果ではなく、自分の小さな変化を見ること。

苦しくなる情報との距離を調整すること。

本人の価値と生活上の課題を分けて考えること。

就労だけに限らない社会とのつながりを持つこと。

家族も一人で抱え込まず、相談先を持つこと。

人生には、全員が守らなければならない同じ時刻表はありません。

止まる時間があっても、道を変えても、支援を受けながら進んでも構いません。

本人の歩幅を尊重し、遅れではなく違いとして受け止められる社会は、誰もが生き方を選び直せる共生社会につながります。

あなたは、自分だけ取り残されたように感じた時、どのような言葉や関わりに救われましたか。
反対に、苦しさを強めた言葉があれば、無理のない範囲でコメントに残していただければと思います。

次回は、若者の生きづらさシリーズのSNS・デジタル社会編「いいねの数が気になってしまう理由」について解説します。

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