将来への不安とどう向き合うか
導入文
夜、布団に入ってから考えてしまう。
「このまま学校へ行けなかったら、どうなるのだろう」
勉強についていけなくなるかもしれない。
進学できないかもしれない。
高校を卒業できないかもしれない。
仕事に就けないかもしれない。
一人で生活できないかもしれない。
まだ何年も先のことなのに、一度考え始めると、不安が止まらなくなることがあります。
昼間は好きな動画を見たり、家族と普通に話したりできていても、夜になると急に将来が怖くなる。
同級生の進路の話を聞いただけで焦る。
家族から「これからどうする?」と聞かれても、答えが出ない。
本当は自分自身が一番考えているのに、何も考えていないように見られることもあります。
不登校の状態にある子どもや若者にとって、将来への不安はとても大きなものです。
現在の学校生活だけでなく、その先にある進学、就職、生活、人間関係まで一気に想像してしまうからです。
保護者も同じです。
「このままで大丈夫なのだろうか」
「今休ませることで、将来困らないだろうか」
心配するほど、早く進路を決めたくなることがあります。
しかし、将来への不安が強いときほど、何年も先まで一度に答えを出そうとすると、本人も家族も苦しくなります。
今回は、不登校シリーズ第24回として、「将来への不安とどう向き合うか」について考えていきます。
不安をなくす方法ではなく、不安に飲み込まれず、今できることを少しずつ見つけるための考え方を整理していきます。
1.不登校になると将来まで悪く見えてしまうことがある
学校へ行けない状態が続くと、今困っていることだけでなく、将来まで悪い方向へ考えてしまうことがあります。
「今日学校へ行けなかった」
という事実から、
「このままずっと行けないかもしれない」
「進学できないかもしれない」
「仕事もできないかもしれない」
「人生がうまくいかないかもしれない」
と、一気に何年も先まで想像してしまいます。
しかし、今日学校へ行けなかったことと、何年後の人生が決まっていることは同じではありません。
今の状態から見える未来は、あくまで今の自分が想像している未来です。
体調が変わることもあります。
環境が変わることもあります。
自分に合う学校や学び方が見つかることもあります。
今は知らない選択肢と出会うこともあります。
将来が分からないことは、不登校の人だけの問題ではありません。
ただ、不安が強いと「分からない」が「きっと悪くなる」に変わってしまいやすいのです。
2.本人は「将来を考えていない」のではない
不登校の子どもが進路の話を避けたり、「分からない」と答えたりすると、周囲からは将来を考えていないように見えることがあります。
しかし、実際には逆の場合があります。
考えすぎて苦しくなっている。
何を選んでも失敗する気がする。
答えを出せない自分が怖い。
だから、話題そのものを避けていることがあります。
例えば、
「高校はどうするの?」
と聞かれても、本人の頭の中では、
「今の勉強の遅れで受験できるのか」
「高校でもまた行けなくなったらどうしよう」
「友達を作れるのか」
「毎朝通えるのか」
という何十もの不安が同時に浮かんでいるかもしれません。
答えられないからといって、何も考えていないとは限りません。
むしろ、考えることに疲れている可能性があります。
3.不安は「まだ起きていないこと」を先に苦しむ感情でもある
将来への不安の難しさは、まだ起きていないことでも、今の苦しさとして感じてしまうことです。
受験に失敗したわけではない。
就職できなかったわけでもない。
一人で生活できないと決まったわけでもない。
それでも、頭の中で最悪の未来を繰り返し想像すると、本当にその出来事を経験しているような怖さを感じることがあります。
すると、今できることにも手がつかなくなります。
勉強しなければと思う。
でも、「どうせ追いつけない」と考えて教科書を開けない。
進路を調べた方がよいと思う。
でも、「自分には無理だ」と感じて検索することもできない。
不安をなくしてから動くのではなく、不安があってもできる小さな行動を探すことが大切です。
4.小学生の将来不安は大人の反応から生まれることもある
小学生は、高校や就職まで具体的に想像していない場合もあります。
しかし、大人の反応から「学校へ行けないことは大変なことなのだ」と感じ取ることがあります。
保護者が毎朝焦っている。
先生から何度も連絡が来る。
親族から「このままで大丈夫?」と言われる。
そうした様子を見て、
「自分は大変なことをしているのかもしれない」
と不安になる場合があります。
小学生には、何年も先の将来を説明するより、今安心できる生活を整えることが重要です。
今日はどのように過ごすか。
誰なら安心して話せるか。
どんな学び方なら負担が少ないか。
まず目の前の生活を支えることが、その先の将来にもつながります。
5.中学生は受験という具体的な不安を抱えやすい
中学生になると、将来への不安が急に現実的になります。
高校受験があるからです。
同級生が志望校について話し始める。
塾へ通う人が増える。
模試や成績の話が出る。
先生との進路面談が始まる。
不登校の本人は、
「欠席が多くても高校へ行けるのか」
「授業についていけていない」
「受験勉強を始める以前の問題なのではないか」
と焦ることがあります。
しかし、高校の学び方は一つではありません。
大切なのは、最初から一つの進路だけを正解にしないことです。
本人の体調、現在の学習状況、通学できる範囲、本人の希望などを確認しながら、選択肢を少しずつ調べていくことが必要です。
「高校を決めなければ」と考えるより、まず「どんな学び方なら続けやすいか」を考えることで、見え方が変わることがあります。
6.高校生は卒業とその先を同時に考えてしまう
高校生の不登校では、さらに現実的な不安が増えます。
単位。
進級。
卒業。
大学や専門学校。
就職。
周囲からも将来を決めることを求められやすくなります。
本人は、
「まず高校を卒業できるのか」
という不安を抱えながら、
「卒業した後はどうするのか」
まで考えなければならないように感じます。
しかし、二つを同時に決める必要はありません。
まず現在の学校でできることを確認する。
必要なら別の学び方について情報を集める。
その後に、進学や仕事について考える。
問題を順番に分けることが大切です。
将来への不安は、いくつもの問題を一度に抱えたときに特に大きくなります。
7.「学校へ行けない=働けない」ではない
不登校になると、
「学校へ行けないのだから、将来仕事にも行けないのではないか」
と考えることがあります。
保護者も同じ不安を抱くことがあります。
しかし、学校生活と働く環境は同じではありません。
学校では、一つの教室に大勢の人がいることがあります。
決められた時間割があります。
苦手な教科にも参加します。
一方、仕事では職種や職場によって環境が大きく違います。
少人数の職場が合う人もいます。
一人で集中する作業が得意な人もいます。
人と関わる仕事で力を発揮する人もいます。
働く時間や方法について配慮を受けながら働く人もいます。
学校で困った経験だけで、自分の仕事の可能性まで決める必要はありません。
8.発達特性がある場合は「合う環境」を考えることが大切
発達特性がある子どもや若者の場合、将来への不安を考えるときに「何ができないか」だけを見ると苦しくなります。
音や人の多い場所が苦手。
急な予定変更が負担。
複数のことを同時に管理することが難しい。
一方で、
一つのことに集中しやすい。
好きな分野を深く調べられる。
決まった手順の作業が得意。
文章やパソコンなど、特定の方法なら力を発揮しやすい。
このような特徴がある人もいます。
大切なのは、「どんな場所でも頑張れる人になること」ではありません。
自分が力を出しやすい環境を知ることです。
学校で困った経験は、自分に合わない環境を知る材料になる場合もあります。
9.精神的な不調が強いと未来を悲観しやすくなる
不安や落ち込みが強いときには、将来を必要以上に悪く考えてしまうことがあります。
「何をしても無理」
「もう遅い」
「自分には何もできない」
そのような考えが何度も浮かぶことがあります。
この場合、進路について考えることだけを急ぐより、まず心身の状態を整えることが必要な場合があります。
眠れているか。
食事が取れているか。
日常生活を送れているか。
強い自己否定が続いていないか。
状態によっては、学校の相談機関や医療機関など、専門家へ相談することも選択肢です。
未来について冷静に考えるためにも、今の心と体を支えることが必要です。
10.保護者が将来を心配するのは当然のこと
保護者は、子どもより長い人生経験があります。
そのため、学校を休んでいる現在だけではなく、その先まで想像します。
進学できるのか。
働けるのか。
生活できるのか。
自分が支えられなくなった後はどうなるのか。
こうした不安を持つことは自然です。
問題は、不安そのものではありません。
その不安を、すべて今の子どもへ渡してしまうことです。
保護者が十年先まで心配しているとき、子どもは今日一日を過ごすだけで精いっぱいかもしれません。
時間の距離が違うのです。
保護者自身の不安は、学校、相談機関、支援者などと話しながら整理することも大切です。
11.「将来どうするの?」が答えられない理由
大人は心配すると、
「これからどうしたい?」
「将来は何になりたい?」
と聞きたくなります。
しかし、不登校で心身が疲れているときに、この質問はとても大きく感じられることがあります。
今日の夜をどう過ごすかも分からない。
明日学校へ行けるかも分からない。
その状態で、数年後の職業を聞かれても答えられません。
将来の夢がないことが問題なのではありません。
今は、将来を想像できるだけの余裕がない場合があります。
質問を小さくすることが大切です。
「今、少し興味があるものはある?」
「家でなら何をしている時間が楽?」
「どんな場所なら過ごしやすそう?」
そこから将来につながる手がかりが見えることがあります。
12.将来を一つの道として考えない
将来への不安が大きくなる理由の一つに、
「この道から外れたら終わり」
という思い込みがあります。
学校へ毎日通う。
高校へ進学する。
卒業する。
大学や専門学校へ行く。
就職する。
この流れが合う人もいます。
しかし、すべての人が同じ順番や速度で進む必要はありません。
途中で学校を変える人もいます。
学び方を変える人もいます。
一度休む人もいます。
働いてから学び直す人もいます。
将来は一本の線ではなく、途中で方向を変えられる道だと考えることで、不安が少し軽くなることがあります。
13.学校以外の学び方を知ることが安心につながる
「今の学校へ戻れなかったら終わり」と思うと、不安は大きくなります。
しかし、学校以外を含め、学び方にはさまざまな選択肢があります。
教育支援センター。
フリースクール。
自宅での学習。
オンラインを活用した学習。
高校生であれば、通信制や定時制など、異なる仕組みで学べる学校もあります。
大切なのは、「今すぐここへ移ろう」と決めることではありません。
選択肢があると知ることです。
逃げ道が一つあるだけでも、人は落ち着いて今の状況を考えやすくなります。
「ここが無理なら全部終わり」から、「ほかにも方法がある」に変わることが、安心につながります。
14.将来を考えるときは「情報収集」と「決断」を分ける
進路について調べ始めると、
「調べたら、そこへ行かなければならない」
と感じる人がいます。
しかし、情報を見ることと、決めることは別です。
通信制高校について資料を見る。
フリースクールのホームページを見る。
相談窓口について調べる。
働き方について知る。
まずはそれだけでかまいません。
見学したから入らなければならないわけでもありません。
相談したから進路を変更しなければならないわけでもありません。
「決断するため」ではなく、「知らないものを少し減らすため」に情報を集める。
その考え方なら、将来を見る怖さが少し小さくなることがあります。
15.将来を一年単位ではなく「次の一歩」で考える
不安が強いときに、
「一年後どうなっていたい?」
と聞かれても答えにくいことがあります。
その場合は、もっと短く考えてもよいのです。
今日は学校からの連絡を確認する。
今週は一度外へ出る。
今月は相談できる場所を一つ調べる。
興味がある学校の資料を一つ見る。
大きな将来は、小さな現在の積み重ねから作られます。
今できることが小さくても、それが何年後の可能性につながることがあります。
将来をすべて決めるのではなく、次の一歩だけを決める。
それでも十分です。
16.「できないこと」だけで将来を予想しない
不登校になると、本人も周囲も「できなくなったこと」に注目しやすくなります。
学校へ行けない。
朝起きられない。
勉強できない。
人と会えない。
しかし、その人にはそれ以外の面もあります。
好きなことなら長く集中できる。
インターネットで詳しく調べられる。
家族には優しくできる。
文章を書くのが得意。
ゲームの中では人と関われる。
料理には興味がある。
今の困りごとだけで、その人の将来全部を予想することはできません。
将来を考えるときには、困りごとと同時に、「何ならできるのか」「何に興味があるのか」を見ることも大切です。
17.社会とのつながりは学校だけではない
不登校になると、
「このまま社会から離れてしまうのではないか」
と不安になることがあります。
しかし、社会とのつながりは学校だけではありません。
家族以外の人と話す。
地域の居場所へ行く。
趣味の活動に参加する。
オンラインで人と関わる。
ボランティアを経験する。
年齢が上がれば、短い時間の仕事を経験することもあります。
すぐに大きな社会参加を目指す必要はありません。
本人が安心できる小さなつながりから始めることができます。
18.本人に伝えたいこと
将来が怖いとき、
「大丈夫」
と言われても、大丈夫だと思えないかもしれません。
無理に安心しなくてもよいと思います。
未来が分からないのは事実です。
でも、「悪くなる」と決まっているわけでもありません。
今の学校へ戻るかもしれない。
違う場所で学ぶかもしれない。
一度休んでから動くかもしれない。
今は想像していない仕事に出会うかもしれない。
まだ決まっていないということは、悪い未来が決定したということではなく、これから選べる部分が残っているということでもあります。
今日、人生全部を決める必要はありません。
19.私自身が感じる「分からない未来」との向き合い方
私は視覚障害当事者として、何か新しいことを始めるときに、
「自分にできるのだろうか」
と考えることがあります。
見えないことで、移動や情報収集など、事前に考えなければならないこともあります。
将来のすべてが最初から見えているわけではありません。
だからこそ、私は「できるか、できないか」だけで最初から決めるのではなく、
どんな方法ならできそうか。
誰に相談できるか。
何があれば参加できるか。
と考えることがあります。
不登校についても同じだと思います。
「普通の道を進めるか」だけで考えるのではなく、「自分にはどんな方法が合うのか」を探すことが大切です。
遠回りに見える方法が、その人にとって一番続けやすい道になることもあります。
20.共生社会とは、やり直せる社会でもある
共生社会に必要なのは、一度決めた道を最後まで進める人だけを評価することではありません。
学校を休んでもいい。
進路を変更してもいい。
学び直してもいい。
支援を利用してもいい。
体調を整えてから社会参加してもいい。
何度でも選び直せることが大切です。
誰にでも、病気、障害、家庭の事情、人間関係などで立ち止まる可能性があります。
そのときに、
「一度外れたら戻れない」
社会なのか、
「ここから別の道を探せる」
社会なのか。
その違いは、とても大きいと思います。
21.まとめ
不登校になると、学校へ行けない現在だけでなく、何年も先の将来まで不安になることがあります。
進学できるのか。
卒業できるのか。
働けるのか。
一人で生活できるのか。
考え始めると、すべてを今すぐ解決しなければならないように感じます。
しかし、将来への不安と向き合うために必要なのは、未来の答えを今日すべて出すことではありません。
まず、今困っていることと、まだ先の問題を分けることです。
今日学校へ行けないこと。
来年の進路。
何年後かの仕事。
これらを全部一つの問題にすると、あまりにも大きくなってしまいます。
一つずつ考えてよいのです。
今は休む。
次に相談する。
その後に学び方を調べる。
必要になったときに進路を考える。
順番は人によって違ってかまいません。
学校以外にも学べる場所があります。
今の学校とは違う環境が合う人もいます。
少し休んでから動き始める人もいます。
学校以外の場所から社会とのつながりを作る人もいます。
一つの道が難しかったからといって、将来そのものがなくなるわけではありません。
保護者も、不安を一人で抱え込む必要はありません。
学校、教育相談、福祉関係者、医療機関など、相談できる場所があります。
本人の将来を心配する気持ちと、今の本人を急がせないことは両立できます。
そして本人も、今すぐ将来の夢を決めなくてかまいません。
分からないなら、分からないままでよい時期もあります。
まず今日を過ごす。
少し元気になったら情報を見る。
興味があるものが見つかったら、一歩近づいてみる。
それを繰り返しながら、将来は少しずつ形になっていきます。
未来が見えないことは、未来がないことではありません。
まだ決まっていないからこそ、これから選べる道があります。
立ち止まった人が、何度でも学び直し、選び直し、自分に合った形で社会とつながれること。
そのような社会が、不登校の子どもや若者だけでなく、誰もが安心して生きられる共生社会につながっていきます。
次回は、ひきこもりシリーズの当事者編「昼夜逆転してしまう背景とは」について解説します。
