中国発「フェンタニル」密輸団について具体的に追ってみた
米国を揺るがす合成麻薬「フェンタニル」の密輸問題が、日本にも波及している。中国を拠点とする犯罪組織が日本に活動拠点を構え、フェンタニルの原料を米国に不正輸出していた疑いが浮上した。この「新アヘン戦争」とも称される国際的な麻薬密輸の新たな局面を追う。
逮捕された中国籍の女
「私は無実です」。米国の法廷で、陳依依(チェン・イーイー)は短く答えた。中国・武漢の化学品メーカー「Hubei Amarvel Biotech」の元幹部である陳は、同社リーダーの王慶周(ワン・チンゾウ)の通訳や違法薬物販売サイトの設計に関与。2024年、米麻薬取締局(DEA)の摘発により、南太平洋のフィジーで王とともに逮捕された。罪状は、フェンタニル原料の米国への不法流入だ。
米当局によると、陳らはトン単位の危険物質をニューヨークへ送り込む計画を明かし、メキシコの麻薬カルテルをも利用しようとしていた。検察は冷酷な人物像を描いたが、実際の陳は「平凡な若い女性」で、裁判では怯えた様子だったという。2025年1月、陪審団は陳らに有罪評決を下した。
巧妙な密輸手口
Amarvel Biotechはフェンタニル密輸で中心的な役割を果たした。同社の過去のウェブサイトやSNSからは、巧妙な手口が垣間見える。
「100%ステルス配送」を謳い、ドッグフードやナッツ、エンジンオイルなど合法商品を装って発送。税関を欺くため、中国から経由地を経て発送元情報を偽装し、「米国の税関は99%通過可能」と豪語していた。メキシコや米国に中継地点を設け、DEAのおとり捜査にもその存在を明かしていた。
日本との深い関わり
日本経済新聞の調査で、Amarvelが日本を含む日米中に複数の関連会社を持つことが判明。名古屋に登記された「FIRSKY株式会社」が組織の司令塔だった可能性が浮上した。米裁判資料には「日本に另一のボスがいる」との記載があり、陳の証言で「夏奉志(Xia Fengzhi)」という人物が責任者とされた。
夏は沖縄県那覇市在住の中国人男性で、SNS分析から武漢の高層ビル写真を投稿していたことがわかった。中国の企業データベースでは、夏が武漢の「富仕凱貿易」など16社の株主で、Amarvelの登記上の社長とも深い関係にあることが判明。富仕凱はAmarvelの王慶周と同姓同名の人物が監査役を務め、裁判時期に退任、事業内容も変更していた。
日本のブランド力を悪用
FIRSKYは「日本から発送」と強調し、日本製品の信頼性を利用。化学品通販サイトではAmarvel製薬物を販売し、工場写真も使い回していた。欧州の調査機関ベリングキャットは、FIRSKYとAmarvelが人的・資本的に同一組織と指摘。夏は日本を拠点に活動し、自身の存在を隠す「フィクサー」だった。
日本が選ばれた理由は、フェンタニル関連犯罪が少なく、税関の警戒が緩いためだ。日本の化学品商社との接触では、夏が大手企業との関係を誇張し、信頼を得ようとした形跡もある。
終わらない「新アヘン戦争」
フェンタニル危機は米中対立を背景に拡大し、日本もそのネットワークに巻き込まれている。夏のような人物が暗躍する中、国際的な連携が急務だ。日本のブランド力を悪用する犯罪にどう立ち向かうか、監視の目が試されている。
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