小栗忠順の子孫が、ジャンプギャグ漫画家になったワケ⑤『衝撃のバイオレンス劇画巨匠のアシ修行とあの因縁のギャグ漫画家との意外な初対面』
前回、担当Mさんから「連載を本気で目指すなら、アシスタントは一度経験しておいた方が良いよ」と言われ、アシの仕事場を探してもらいました。
その結果、僕は『ドーベルマン刑事』『ブラックエンジェルズ』『マーダーライセンス牙』などで知られるバイオレンス劇画の巨匠、平松伸二先生の元でアシスタントをさせて頂く事になったのです。
◾️待ち合わせ場所に現れたのは「雪藤」!?
初めての顔合わせの日。僕は待ち合わせ場所の柴又駅、寅さん像の前に一人立っていました。
正直いって、めちゃくちゃビビっていました。
なぜなら、平松先生の作品は元々大好きで一読者として読んでいたため、「こういうバイオレンスな漫画を描く巨匠は、絶対にめちゃくちゃ怖い人に決まっている!」と思い込んでいたからです。コミックスのそでにある著者の写真を見ても、薄いサングラスをしてタバコを咥えている、ザ・昭和のコワモテルックス。(失礼!)
そしてもう一つの心配は、自分の画力の無さでした。どう考えても僕の絵と全く違う、リアルな劇画タッチの絵柄……。
僕があまりにも仕事が出来なくて、
「テメエ漫画家なめてんのか?地獄へ堕ちろぉぉ〜〜!!」と、雪藤のスポークみたいにペン軸をこめかみに突き刺されたらどうしよう……。
そんな事を想像して震えながら、「迎えに来る先輩アシさんまだかな?」と待っていると、向こうからシャーッと一台のロードレーサー(スポーツ型自転車)が近づいて来ました。そして、目の前でキッと止まり
「……ん?キミが小栗くん?」
「は、はい…。あっ!」
ロードレーサーに乗り、颯爽と現れたその人こそが、平松伸二先生でした。
なんと、平松先生直々に迎えに来てくれたのです!
そして同時に僕は思いました。「乗ってる自転車、雪藤と同じだ!!」と。
そう、その自転車は『ブラックエンジェルズ』の主人公、雪藤洋士が乗っているロードレーサーと同じ物だったのです。雪藤の自転車は車輪のスポークが取り外せる仕様になっており、それを武器にして悪人を刺し殺します。
(雪藤と同じ自転車で来たという事は…。ハッ!も、もしかしてこれは、僕をスポークで突き刺す伏線か…!?)と、さらにビビる僕。
すると平松先生はニコリと爽やかに笑い、「じゃあ、仕事場行こうか」。
「えっ?…は、はい!」(あれ?優しそうな笑顔!)
仕事場に向かう道中、柔らかい語り口で僕の事を色々聞いてきてくれる平松先生に、僕は次第に「こ、これはもしかしたら、そんなに怖い先生じゃない…?」と、徐々に安心していったのを覚えています。(当たり前ですが、ロードレーサーもただの平松先生の私物でした 笑)。
先に書いてしまいますが、僕は平松先生に怒られた事は、ほぼありません。
一度だけ、森の背景を描いて見せたら「何を参考にして描いたの?」と言われて、テンパって参考にしてない画像を指差し「こ、これです…」と言ったら
ムッとして「嘘ついたらダメだよ。全然違うじゃん!」と強めに言われた事ぐらいです。(スミマセン、怒られエピソードとしては激弱です…)
そう、よく考えたら、平松先生の漫画は倫理を冒涜する悪党を成敗する漫画。その成敗の仕方がバイオレンス過ぎるので、漫画ファンからは怖いイメージを持たれがちですが、倒す側のヒーローは常に真っ当な倫理観を持っています。
なので、平松先生ご本人は嘘や暴言暴力を嫌う、誰に対しても丁寧低姿勢のめちゃくちゃ常識的な倫理観を持った漫画家なのです。(太字にしました)
第4回のエッセイでも書きましたが、とにかく理不尽で、先祖が偉い事を鼻にかけ、他人にも不遜な態度をとる実の父の忠人とは、ある意味真逆の人間といえます。平松先生に会い、僕は尊敬出来る大人に初めて出会った気がしました。
◾️職人スタイルの現場と、実力派の先輩アシスタント
仕事の面でも、心配はありませんでした。なぜなら、僕が仕事場で最初に任されたのは絵を描く事ではなく、Gペンで枠線を描いたり、丸ペンでスピード線を描く練習だったからです。伝統ある平松プロは、アシスタントを基本からじっくり育てるという、昔ながらの職人スタイルの仕事場でした。
それともう一点意外だったのは、新入りのアシスタントは僕一人ではなく、他にもう一人いた事です。
その人は僕より4歳ぐらい年上のHさん。Hさんは、ジャンプの『ボンボン坂高校演劇部』の高橋ゆたか先生の元で、すでにアシスタント経験があり、手塚賞の佳作も受賞している実力者でした。
正直いって、こちらは完全な即戦力。僕とは画力のレベルが違います。なので、どっちにしろこの仕事場での「新人」は、実質的に僕一人でした。
◾️プロの凄まじさと、深夜の平松プロの裏技
当時、平松先生は『スーパージャンプ』という集英社の青年漫画誌で『愛修羅 ザ レジェンド』という漫画を連載していました。

(※この作品の時、平松伸二先生は名前を平松伸士に変えていました)
家族愛とバイオレンスが融合した平松作品の中でも異色作です
スーパージャンプは隔週誌なので、アシスタントもほぼ隔週で呼ばれます。一週間泊まり込みで仕事に入り、一週間は休み。週刊少年ジャンプの研究生として定期的に連載ネームを提出しないといけない僕にとっては、月の半分休みがもらえるのは理想的なスケジュールでした。
しかし仕事に入ると、プロの漫画家の凄まじさを目の当たりにする事になります。
最初の衝撃は、原稿の綺麗さでした。
「プロの生の原稿って、こんなに綺麗なのか!」と。ペンの線の美しさが僕とは全く違うのです。(当たり前だ!)
毎回、ベタ塗りやスクリーントーン貼りで、僕の所に原稿が回ってくる度、「うおおお!平松伸二の生原稿だあああ!!」と、ただのファンとして感動していました。
そして別のベクトルで衝撃だったのが、平松先生の睡眠時間の少なさです。
僕達アシスタントは大体朝7時半時頃に起床し、夜12時に就寝します。寝る前に1時間ぐらいアシスタント部屋で自分のネームを描いたり雑務をしたりしますが、それでも睡眠時間は最低6時間は確保されていました。
でも、平松先生はアシスタントが部屋に戻ってからも一人、仕事場で黙々と原稿を描き続けているのです。どう考えても睡眠時間は3〜4時間。それが一週間続きます。
とても僕には耐えられません。
「そうか、平松先生はかつて週刊少年ジャンプで連載していたんだ。週刊連載というのは、体力も超人的に必要な仕事なんだな……」と思い知らされました。

このページのゾウは僕が描きました
(動物は結構得意でした)

この男の子の持っているボールに
よく見ると僕のキャラ親切くんが(笑)
当時先生には多分バレてました
仕事も終盤になると締め切りが迫り、アシスタントも睡眠時間が3〜4時間になっていきます。皆、仕事をしながらもウトウトしがちです。
すると、平松プロならではの「睡眠予防の裏技」が発動するのが慣例でした。
それは、録画しておいたエッチな深夜番組のビデオを流す事です。
チーフと助っ人アシさんを入れて、まだ若い成人男子4人が一週間泊まり込み。そこにエッチな番組は効果てきめんでした(笑)。(逆効果としては、TV画面を見過ぎて作業の手が止まる事が良くありましたが。)
そんな感じで毎回、仕事の終わった後は眠気と性欲とでフラフラになりながら帰宅していました。でも、チームで漫画を完成させる充実感というのも、体験してみて初めてわかった事でした。漫画の技術は勿論、漫画家のスケジュール管理、アシの使い方、漫画家としての振る舞い(平松先生はどんなに歳下の編集者にも敬語を使っていました。僕も真似してます。)とにかく平松プロでアシスタントをした事で、漫画家として学ぶ事が多かったです。
◾️そして、あの因縁のギャグ漫画家との出会い
そんな日々を過ごしていたある日、Hさんから「今度新人漫画家で飲むから、小栗くんも来る?」と誘われました。
僕も毎回ジャンプの新人増刊号はチェックしていて、そこに載っている新進気鋭の新人漫画家さん達には会ってみたいと常々思っていたので、参加させてもらう事にしました。
その飲み会に行くと、同世代の、よく増刊号で名前を見る新人漫画家さんが5〜6人。ただ、参加者の中に一人、僕らよりもあきらかに年上の、落ち着いた雰囲気の人がいました。
僕が自己紹介すると、「ああ、小栗かずまたさん?この間増刊号に載ってた『親切くん』面白かったです。」と言ってくれました。僕は「漫画を褒めてくれた!良い人だなぁ。」と嬉しくなりました。
そしてその人こそが、最近週刊少年ジャンプで連載が始まったばかりの、話題のギャグ漫画『幕張』の作者、木多康昭先生だったのです。

ジャンプ漫画史上おそらくNo.1の問題作です(笑)

さらにこの飲み会で僕は、木多先生にある事を言われました。そこから、僕と木多先生の因縁が始まったのです…。
(つづく)
※今後の連載を見逃さないように、ぜひnoteのフォローをお願いします!それと
スクロールして下の方にある『スキ』ボタンを押したり、一言でもコメントを頂けると執筆の活力になります!
僕のデビュー作で、赤塚賞準入選作『トウフノカド』を限定公開中(¥100)ご興味のある方はぜひ。エッセイ連載の応援としても、よろしくお願いします!↓😄
(オマケでエッセイに書かなかった、手塚赤塚受賞パーティの裏話も載せています)
そして、最近発売された、僕の児童書『にげだせ!ジョニー ちょうのうりょくけいむしょ』を宣伝させてください。(電子版限定)
脱獄王ジョニーが、毎回恐ろしい刑務所から知恵と勇気で脱獄する、ハラハラドキドキの児童書シリーズ第二弾です。電子図書館まなびライブラリーで、一巻が月間3位を獲得した、子供達に大人気のシリーズです!ぜひ、お子さんと一緒に!😄↓
一巻もよろしくお願いします!↓
いいなと思ったら応援しよう!
僕の記事が面白い!これからも、もっと読みたい!と思ってくれた方、チップを執筆のエネルギーに変えて頑張りますので、応援よろしくお願いします‼️