小栗忠順の子孫がジャンプギャグ漫画家になったワケ⑰『衝撃のアニメ最終回、忘れられない遊戯王事件──そして初代担当Mさんとの別れ』
週刊連載も約2年が経ち、僕の体力もかなり限界に近づいていました。
しかし、休載は許されず……。
そんな頃、約1年間続いたアニメ『花さか天使テンテンくん』が、最終回を迎えることになりました。
◾️衝撃のアニメ最終回
アニメが終了すると知った時、僕は正直、複雑な気持ちになりました。
「テンテンくんは『ドラえもん』のような、長年愛されるアニメ作品にはなれなかったのか……」
というガッカリした気持ち。
その一方で、
「原作とは違う、過度な下ネタとドタバタギャグのイメージを、これ以上広められずに済む……」
という、少しホッとした気持ちもありました。
そして、もう一つ気になっていたのが、
「原作では、ヒデユキくんの才能探しはまだ終わっていない。アニメは一体、どういう決着をつけるつもりなんだろう?」
ということでした。
期待と不安が入り混じった気持ちで、僕は最終回を観ました。
そして、何とも言えない衝撃を受けることになるのです。
最終回放送当日。ドキドキしながら、僕はTVの前でスタンバイしました。
「コッチンコッチン」とオープニング曲が終わり、いつものようにタイトルが表示されます。
「涙、涙の最終回!さよならテンテン君」
「ん? テンテン君……?」
僕は、この時点で少し引っかかりました。
漫画でもアニメでも、これまで一度もそんな表記はしていません。
テンテンくんは、ずっと「テンテンくん」です。
『おぼっちゃま君』
『忍者ハットリ君』
と書かれていたら何か違和感があるのと同じで、『テンテン君』は原作者からすると普通におかしいのです。
なぜ、よりによって最終回で『君』なのか?
誰も気づかなかったのか?
僕は「この感じ……何か嫌な予感がするな……」と、いきなりモヤモヤした気持ちになりました。

※ここからは、アニメ最終回のストーリーを追いながら、当時の僕の率直な感想を再現していきます。原作者の僕と一緒に最終回を観ているような感覚で、お楽しみください。
そして本編が始まると、いきなりテンテンくんの局部のドアップ。
局部には顔まで描いてあり、
「こんにちは、みんなの新しいお友達、チンチンくんだよ」
と言ったあと、テンテンくんがオナラをブーッと放ちます。
僕「こ……これが最終回の始まりか……。まあ、これがアニメ版テンテンくんらしさなんだろうな……」
場面は学校へ。
体育の授業で野球をしているヒデユキくんのところへ、突然テンテンくんが現れ、サイダネを飲ませます。
ビリヤードの才能でヒットを放ったヒデユキくんは、百合川さんから惚れられます。そしてそのまま百合川さんの両手をつかみ、二人でグルグル回転。
なぜか巨大なドリルとなって地面を掘り進み、地下水が噴水のように噴き出します。
その周囲では、浮き輪をつけてブーメランパンツ一丁の校長先生が、カツラを取って走り回っています。
ちなみにアニメでは、松沢先生と校長先生はなぜか頻繁にほぼ裸になっていました。
僕「……相変わらずだなぁ」


そして、テンテンくんが急にサイダネ探しを始めた理由が明らかになります。
神様が地上へやって来て、
「サイダネ探しには締め切りがある。それは残り24時間。それまでに見つけられなければ、二度と天の国には帰れない」
と告げたからでした。
僕「う〜ん。随分急な設定だけど、まあ最終回を盛り上げるためには仕方ないか……」
ところがテンテンくんは、それでもなかなか真面目にサイダネを探しません。
すると再び神様が現れ、あることを告げます。
それを聞いたテンテンくんは突然ものすごく焦り始め、寝ているヒデユキくんに何個ものサイダネを一気に飲ませます。
結果、ヒデユキくんの頭には大量の才能花が同時に開花。
その中の一つ、「ダンガーのサイダネ」で、ヒデユキくんは20メートルはある巨人になり、泥棒を捕まえます。
(※ダンガーを調べると、おそらくウルトラマンに登場する怪獣?でした)
僕「アニメでも、サイダネは一個ずつ使うのがルールじゃなかったのか……。何かいっぱい頭に花が咲いてるのキモいな。ていうかサイダネって、人間に与えられる“才能”だから、実在しそうな才能というのもルールでは?才能で20メートルの巨人になるって、ちょっとめちゃくちゃ過ぎじゃ……」

そんな中、突然テンテンくんの体調が悪化します。
「オイラは人魚姫のように、天の国に帰れないと泡になって消えるんだ……」
そう言って倒れ、額の「天」の文字まで消えてしまうのです。
僕「うわっ!テンテンくん、いきなり瀕死になったぞ!? ここからどうするんだろう…?」
ヒデユキくんは助けを求めて、空に向かってジャックくんを呼びますが、返事がありません。
するとテンテンくんを背負い、突然近所の山へ向かい、必死に登り始めます。
僕「……ん?なぜ山に!?」

山を登る途中、ヒデユキくんの脳内には、同級生たちとの過去の会話が次々と聞こえてきます。
映像はなく、声だけです。
僕「恐らく、山登りで苦しんでいるヒデユキくんを、同級生のみんなが励ましている感じにしたいんだろうな。でも、最終回ならテンテンくんとの思い出を流した方が、二人の絆を再確認できて感動的なんじゃ……」
そして再び歩き始めたヒデユキくんの頭に、なんと突然、小さな才能花が生えます。
僕「えっ!? サイダネ見つかった……?
瀕死のテンテンくんを必死に助けようとしている最中に生えたということは──。
ヒデユキくんの才能は“優しさ”だったっていうこと?」

山頂に到着したヒデユキくんは、
「テンテンくんを助けて!」
と、ジャック、キューピ、ベンテン、デモモの名前を空に向かって叫びます。
ヒデユキくんが山へ登った理由は、少しでも空に近い場所から呼べば、天使たちに声が届くと思ったからでした。
そして、本当にみんなが現れます。
デモモだけ、なぜかモグラみたいに地中から。
ベンテンの天辞苑で調べると、実は「天の国に帰れなければ泡になって消える」などということはありませんでした。
さらに、天力を充電すればテンテンくんは元気になることも判明。
ジャックが機械で天力を充電すると、テンテンくんはすぐに復活します。
僕「…………あ…あっさり治るんだ」
そして舞台は天の国へ。
そこで、今回の事件の真相が明かされます。
神様が、
「サイダネ探しの締め切りは残り24時間」
「天の国へ帰らないと泡になって消える」
というウソをテンテンくんに教えていたのです。
理由は、サイダネ探しを真面目にやらせるため。しかも神様は、この最終回のシナリオまで自分で書いていました。(メタ展開)
怒ったテンテンくんとデモモは、
「エンマ様に、神様がウソをついたことを言いつけるぞ!」と迫ります。
すると神様は、
「それを黙っていてくれれば、何でもできて、人類が危機に陥った時には世界を救うほどの、ものすごいサイダネをやろう」
と言い出します。
その名も、
「黄金のサイダネ」。
僕「えっ?そんなサイダネあったの!?」

それをヒデユキくんが飲めば、一瞬で最高の才能の持ち主になれるというのです。
テンテンくんは喜んで、ヒデユキくんに飲ませようとします。
しかし、ヒデユキくんは断ります。
「自分の本当のサイダネは、自分の力で探したい。それに、サイダネが見つかったらテンテンくんと別れることになる。だから飲みたくない」
僕「うん。それなら分かる。そんなサイダネの見つけ方なら、“最初から神様がそれを出せばいいじゃん”って話になるし……。
……あれ? というか、さっきヒデユキくんの頭には、もう才能花が生えてたよね? じゃあ、サイダネは見つかったんじゃないの? あれは幻? ちょっとよく分からない……」
ところがテンテンくんが、
「天の国に帰っても、別にヒデユキくんの家には遊びに来るけど」
と言うと、
「じゃあ、ボクやっぱり黄金のサイダネ飲む!」
と、ヒデユキくん。
僕「何ィィ〜〜!?さっき“自分の力で才能を探したい”って言ってたよね……?ヒデユキくんらしいと思ったのに…。キャラがブレすぎじゃ……」
しかし今度は、神様が急に黄金のサイダネをあげるのが惜しくなり、持って逃走。
大臣は、最終回の台本を神様が燃やしたことを録画していた、キューピちゃんのビデオカメラを「証拠隠滅!」と取り上げます。
一同で大臣と神様を追いかける大騒ぎになります。
その追跡の途中、ヒデユキくんは雲の隙間から地上へ落下。
テンテンくんとデモモが助けようとズボンをつかむものの、そのズボンが脱げてしまいます。
ヒデユキくんは下半身丸出しのまま、デパート屋上のバルーンの上へ落下。
そこには偶然、同級生の女子たちもいて、
「キャ〜〜〜!!」とドン引き。
一方、神様は逃げる途中で、黄金のサイダネを地上へ落としてしまいます。
それを偶然、カラスのカー坊が飲み込んでしまう。
するとカー坊は、黄金の鳥フェニックスへと生まれ変わり、大空へ飛んでいきます。
一同、それを見送ります。


そして最後。
黒バックに「完」の文字。
その前にヒデユキくん、テンテンくん、デモモが立ち、一言
「こういう終わり方、あり?」
すると突然、ヒデユキくんのシャツに描かれている黒猫マークが、
「みんな、またね〜!」
としゃべります。
一同驚き
「しゃべった〜〜〜!!」
終わり。

僕「………………。」
僕は、しばらく呆然としていました。
「今までもカオスな回は沢山あったけど、
最終回が一番カオスでシュールだった……」
そして、この最終回には、ある意味でアニメ版『テンテンくん』のすべてが詰まっていたような気もしました。
「アニメだけを観ていた人には、テンテンくんって、ド下ネタ、ドタバタ、シュールでカオスな漫画だと思われるんだろうなぁ……。
多分もう、担当のMさんも観てないんだろうな……」
実際、Mさんからアニメ版『テンテンくん』についての感想を聞いたことは、ほとんどありませんでした。
もちろん、ここまで書いたことは、今だから話せる、当時の「原作者としての戸惑い」です。
アニメ版テンテンくんファンの方も沢山いると思います。僕自身もアニメ版ならではの感心した部分も、いくつもありました。(エッセイ15回参照)
そして、アニメ制作に関わってくださったスタッフや声優の皆さんへの感謝とは、まったく別の話です。
この場を借りて、
アニメを制作してくださった皆さん、本当にありがとうございました。
こうして、アニメ版『花さか天使テンテンくん』は約1年で終了を迎えました。
◾️アニメの打ち上げパーティでの衝撃
最終回の数週間前。
すでに制作を終えていたアニメの打ち上げパーティに呼ばれ、僕も原作者として出席しました。
アニメの内容には複雑な感情もありました。
それでも、スタッフや声優の皆さんが作品のために本当に頑張ってくださったことに変わりはありません。
僕は皆さんの前で挨拶をして、心からお礼を伝えたことを覚えています。
ただ、このパーティで一番印象に残った出来事は、実はアニメとは別のことでした。
出席しているはずの副編集長Tさんの姿がありません。
理由を聞くと、「今、東京ドームに行っている」とのこと。
ある漫画のイベントに人が集まりすぎてパニックが起き、その対応のため、打ち上げには来られなくなったというのです。
その漫画とは──
『遊☆戯☆王』でした。
(※この遊戯王の東京ドームでの騒動は、今でも検索すると出てきます)
「ゆ…遊戯王って、そんなに人気なの!?」
『テンテンくん』が始まった頃の『遊☆戯☆王』は、正直に言うと、いつ打ち切られてもおかしくないほど、人気としては下位グループの漫画でした。
『幕張』の作者の木多康昭先生曰く、
「オレがもし『幕張』を自分から急に終わらせて、連載枠を一つ空けなかったら、『遊☆戯☆王』は間違いなく打ち切られていた」
とのことです。(エッセイ第10回参照)
ところがカードゲームバトルを始めてから、徐々に人気に火がつきます。
そしてこの頃には、人が集まりすぎてパニックが起きるほどの社会現象になっていました。
僕はアニメ『テンテンくん』の打ち上げ会場で、その話を聞きながら思いました。
「アニメが終わる漫画と、これから社会現象になっていく漫画か……」
ほんの一年前はテンテンくんは
アニメが始まり、ジャンプの子供人気を担う、期待の漫画。一方、遊戯王は打ち切りを心配される漫画。
それが今は、まったく違う場所に立っている。
僕はその場で、残酷なまでの漫画界の下剋上を感じたのでした。

◾️突然の初代担当Mさんとの別れ
それは、次のネームの打ち合わせ日程を決める電話だったと思います。
打ち合わせ日を決めると、Mさんがいつもの調子で軽く言いました。
「あっ、オレ次からテンテンくんの担当じゃなくなるんで。だから打ち合わせには、次の担当のHくんも引き継ぎとして連れていくから」
「………えっ?」
本当に、それくらい突然でした。
後に何度も経験して分かることですが、漫画には、担当編集者が交代しやすいタイミングというものがあります。
担当編集者が別の新連載を立ち上げた時。
あるいは、作品として一つの区切りを迎えた時です。
アニメが終了するということは、作品にとって大きな節目でもあります。
場合によっては、「人気のピークを越えた」と判断されるタイミングでもあります。
こういう時期に、担当編集者が交代することは珍しくありません。
さらにMさんは、少し前に『ROOKIES』(森田まさのり先生)を立ち上げていました。
そちらも軌道に乗り始め、以前よりずっと忙しくなっていたのだと思います。
商業誌の漫画家と編集者は、一生ずっと一緒に仕事をする事はほぼありません。いつかは必ず別れが来る。
勿論、理屈では分かります。
でも、新人時代から自分の漫画を読んでもらい、一緒に作品を作ってきた「初代担当編集者」は、漫画家にとって『漫画の先生』の様な、特別な存在です。
Mさんは正直、担当編集とは思えない様な、無責任な態度の時もありました。
(エッセイ第7回、第10回、第13回参照)
それでも、『テンテンくん』という漫画を僕と一緒に立ち上げた編集者です。
僕の漫画を一番理解し、評価してくれた人でもありました。
連載が始まってから、苦しい時も、うれしい時も、『テンテンくん』について話す相手はずっとMさんでした。
その人が突然いなくなる……。
当時の僕には、『テンテンくん』という作品の一部まで失ってしまうような感覚がありました。
アニメが終わった。
初代担当もいなくなった。
体力は、とっくに限界に近づいている。
「これからは、本当に僕一人の戦いになるのか……。
でも、まだ『テンテンくん』は終わらせたくない。
休みが欲しいとも、もう言える立場じゃないか…」
とはいえ、
相変わらず寝起きには目の前が真っ白になり、左のまぶたは痙攣していました。
「……でもまあ、まだ描ける。
というか、描くしかない!!」
こうしてMさんとも別れた僕は、さらに窮地へ追い込まれていきます。
そして気がつくと──
今度は仕事場でも、ある異変が起こり始めていました。
さらにこの頃、僕は赤塚賞の審査員になりました。その審査会場と僕の先祖との間に、思いもよらない繋がりがあったことを、後に知るのです…!
つづく
今後の連載を見逃さないように、ぜひnoteのフォローをお願いします!😄
それと、スクロール一番下の『スキ』ボタンを押したり、
一言でも良いので
感想のコメントよろしくお願いします🙏
この連載は『無料記事』なので、皆さんの感想が一番の楽しみです。
『感想』を頂ければ、このエッセイ連載は続きます‼︎
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(オマケでエッセイに書かなかった、手塚赤塚受賞パーティの裏話も載せています)
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