小学生が旅を計画したら、目的地はマサイ族の村だった(その4)
第3話はコチラ↑です。
やがて搭乗が始まりました。
ボーディングブリッジを歩きながら窓の外を見ると、上海まで私たちを運んでくれる飛行機が見えます。

「思ったより小さいね。」
長女がぽつり。
確かに、いつも羽田や成田で見かける国際線の大型機とは違います。
上海まで約3時間。 距離を考えれば十分なのですが、これからドーハ、ナイロビへと続く長旅の幕開けとしては、どこか心細いような、不思議な感覚です。
座席に着いて周囲を見渡します。
聞こえてくるのは中国語ばかり。
客室乗務員さん同士の会話も中国語。
隣の席のご家族も中国語。
機内誌も中国語。
日本人らしき乗客は本当に少数です。
普段から海外旅行には慣れているつもりでした。
英語圏も行きましたし、中東経由も経験しています。
でも、今回の感覚は少し違います。
まだ日本を飛び立ったばかりなのに、完全に「アウェイ」。
サッカーのアウェイ戦で戦う選手って、きっとこんな感じなんだろうなと思いました。
やがて飛行機は静岡空港を離陸。
富士山が小さく見えたかと思うと、飛行機は雲の上へと上がっていきます。
すると長男が、
「次に地面を見るときは中国?」
と聞いてきました。
そう言われると、なんだか不思議な気分です。
数時間前まで家で普通に朝食を食べていたのに、今は中国へ向かう飛行機の中。
そして数日後にはアフリカのサバンナにいる予定なのです。
子どもたちの適応力、なかなか侮れません。
しばらくすると機内食の時間になりました。
配られてきたのは、中国らしい点心中心のメニュー。
小籠包のようなものや蒸し餃子が並びます。
正直なところ、普段の日本の航空会社の機内食とはだいぶ雰囲気が違います。
しかし、それがまた旅らしくて面白い。
「もう中国だね。」
夫が言います。手には青島ビールを持ちながら。まったく、いつの間に手に入れたのか。抜かりない。
まだ上海にも着いていないのですが、気分はすっかり中国です。
そして次女の前に置かれた子ども用機内食を見て、家族全員が思わず笑いました。
パンダです。
デザートもパンダ。
スプーンの袋までパンダ。
これでもかというくらいパンダ。
次女は大喜びです。
予防接種の日に泣いていた子と同一人物とは思えません。
写真を撮りながら、
「かわいい!」
を連発しています。
すると飲み物サービスが始まりました。
客室乗務員さんが近づいてきます。
私は何を頼もうか考えていたのですが、その前に次女が口を開きました。
「オレンジジュース。」
……ではありません。
何やら中国語らしき発音です。
すると客室乗務員さんが笑顔でうなずき、オレンジジュースを渡してくれました。

通じている。
完全に通じている。
私と長女は顔を見合わせました。
「今、何て言ったの?」
と聞くと、
「中国語。」
と得意顔。
すると夫が笑いながら白状しました。
どうやら搭乗前、こっそり飲み物の注文だけ教えていたらしいのです。
しかも勉強したわけではありません。
耳で聞いて、そのまま真似しただけ。
それなのにちゃんと通じているのです。
大人になると、間違えたら恥ずかしいとか、発音が悪かったらどうしようとか考えてしまいます。
でも子どもは違います。
まず言ってみる。
通じたら嬉しい。
通じなかったらもう一回。
そのシンプルさが強いのです。
そういえば今回の旅行も同じでした。
親なら、
「アフリカは遠いしなあ」
「乗り継ぎ大変だしなあ」
「予防接種もあるしなあ」
と考えてしまいます。
でも子どもたちは、
「マサイ族に会いたい。」
ただそれだけ。
だから行動できるのかもしれません。
窓の外には雲海が広がっています。
上海まであと少し。
まさに、旅して学ぶ。 親が教える側だと思っていたのに、実は子どもたちだけで学んでいる。
旅は生きた教材であり、親子で学びを深めている。
この旅。
きっと親が想像している以上に、子どもたちが成長する旅になる。
そして同時に、親の常識が何度もひっくり返される旅になる。
そんな予感を抱きながら、私たちは最初の目的地、上海へ向かっていました。
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