ショートショート 『おしゃべりキッチン』 ①掃除当番
女が三人寄れば、かしましい——そんなふうに言われていたのも、今は昔。
とはいえ、現代も変わらず、女性が三人集まれば、それなりに賑やかになるもので——……
律子、美咲、千恵の三人は月に一度の恒例行事として、ランチタイムに女子会を開いていた。美咲の嫁ぎ先では、義母が月に一度通院する日がある。そこを狙って集まっていた。
気になるお店のテイクアウトを持ち寄ったり、デパ地下スイーツやお弁当の時もある。選ぶのは、その日の気分次第。
今日は律子のリクエストで「崎陽軒のシウマイ弁当」。炒飯弁当や、ピラフ弁当も並んだ。
「たまに食べたくなるのよね〜」
「わかる。昔はかわいい醤油入れ、あったよね」
「ひょうちゃんでしょ?あれはシウマイの箱に入ってるのよ」
「うちも集めてた。実家を探せば、出てくるんじゃないかな。どこいったかな〜?」
一通り試食会が落ち着いた頃、「ねえ、ちょっと、聞いてよ〜」と、律子がいつもの調子で口火を切った。
「春から入った新人くんが、また厄介な提案をしてくれちゃってさ」
「へえ〜?」と、美咲と千恵がハモる。
「うちの会社って、掃除は新人の仕事って決まってたのよ。先輩が本業に集中してる間に、新人がゴミ捨てとかさ、トイレ掃除とか」
「あ〜、私もやってたわ」と千恵。
隣では美咲も、うんうんとうなづいていた。
「それがさ、新人くんが『掃除はみんなでするものじゃないですか?』って言い出して」
「へぇ〜」
「で、社長も単純だから『いいこと言うね!』とか言っちゃってさ……。それで、当番表を作ることになったんよ」
「掃除当番表!?」
「うわ〜、子どもの頃みたい!」
二人が笑い出し、律子はそれを横目に、シュウマイをひとつ口に放り込んだ。
「まさに、それ!うちらが小学校のときにやってたような、紙をくるくる回す、丸いヤツ!あれを寺井が面白がって作っちゃって。ホワイトボードにドーンと」
律子のあからさまに嫌そうな表情を見て、美咲と千恵はまた吹き出した。
律子の性格上、そんな見た目のダサい当番表は受け入れられないことを、二人はよく知っている。
「手描きの当番表なんて、今どき子どもでもやらないよね?ほんと、頼むからエクセルで作ってくれよ〜」
「律子がチャチャって作っちゃえば?上手いんだから」
「……そりゃ私が作れば、ちょっとはマシになるけど。問題はそこじゃない」
「上司から反発とかないの?」
「あるに決まってんじゃん。掃除は大切だけど、そのせいでうちら、仕事終わったあとに残業してまで掃除してんの」
「ありゃ、まあ」
「それってどうなのって感じでしょ?だから、いま元に戻そうかって話してるところ」
「業務には直接関係ないけど、人間関係には影響出そうなテーマね」
「まったく、余計なことをしてくれるわ……」
千恵が、何かを思い出したように「あっ」と声を上げた。
「掃除で思い出したんだけどさ、トイレ掃除って、男女で認識のズレがあると思わない?」
「あるある!絶対、ある!」
「わかる〜!」と律子と美咲が即座に同調した。
「あれさ、便器にスタンプを押すやつ。うちの旦那が急に買ってきて、『これがあれば掃除しなくていい』って言い出してさ。そんなわけあるか!って大喧嘩よ」
「トイレって、便器しかないと思ってるね」
「端っこの汚れとか、便座フタの裏とか、結局、ちゃんと掃除しなきゃダメじゃんね」
「床とか壁に飛び散ったやつも、自然にキレイになると思ってんのかしら?」
「無理無理!トイレ全体を掃除しなくっちゃ!」
さらに話は、「トイレマットを敷くか、敷かないか?」へと発展。
三人の会話は止まらない。
そんなあんなで、ひとしきり盛り上がった頃、律子が美咲を見て言った。
「で、本日の美咲の感想は?」
これまでずっとニコニコと笑顔で話を聞いていた美咲が、急に表情を変えた。
一瞬で険しい真顔になり、低く言い放つ。
「掃除は当番表なんかじゃなくて、時間を決めて一斉にやるべき。新人くんはゴミ捨て、休憩室、トイレ掃除を交代制で。……関係ないけど、あの“やっこくてフワフワ”したトイレブラシ、水切れが悪いからキライ」
美咲の圧力に押されて、律子と千恵が小さくうなずいた。
「……うん、そうだね」
「明日、社長に言ってみるわ……」
こうして、今回のごはん会はこれにて終了。
次回の開催はまた来月——ということで。
