助産師母娘が『母』と『ばあば』になった日」
このシリーズは、初孫へ贈る記録です。待ち焦がれて、迎えた命。いつかあなたが大きくなったとき、読んでくれたら嬉しいです。おばあちゃんより
第1話:妊娠がわかった日から ──助産師の私が、ただの「母」になった日 助産師として何百というお産に立ち会ってきた私が、娘の妊娠報告
に、ただの母になった日のこと。――――――――――――――――――
電話が来た
一昨年の12月、長女から電話が来た。
「まだまだ初期やけど…5週くらいかな。」
うれしい。でも同時に、心配がよぎった。
赤ちゃんの心拍が確認できるまでの流産率は十数パーセント・・・
助産師として、その数字を知っているからこそ、喜びすぎることができない。残念なことになったとき、どうしようと——。
「お父さんには内緒ね。旦那には誰にも言ってないことになってるから」
娘も助産師だ。同じことを考えているのだろう。
無事に育ちますように。
それだけを、静かに願った。
こんぴら参り
お正月、娘夫婦が帰省した。
初詣 我が家恒例のこんぴら参りに、一緒に行くという。
人混みと、780段あまりの階段。
「大丈夫なん?行くの?家にいたら?」
私の心配をよそに、娘はドンドン駆け上がった。
本堂の神殿でお札とお守りを買って、祈祷していただいた。
ふと見ると、娘の旦那さんがこっそり安産守りを買っていた。
私も知らない体で通す。
聞いてるのになぁ~ まあいいか…
なんだかくすっとしながら、でもその背中が嬉しかった。
インフルエンザ
東京へ戻った娘から、1月中旬に電話が来た。
「あのあとインフルエンザになってて。熱高くてしんどかった。
インフルエンザってわからなくて、妊娠中だから薬も飲めんくて…」
妊娠初期の赤ちゃんにとって、高熱は危険だ。
やっぱり人混みはやめさせればよかった。
後悔しても仕方ない。ほんと元気に育ちますようにと、願うしかない。
ちょっと待てよ…
しばらくして、つわりの報告とともにLINEでエコー写真が送られてきた。
「気持ち悪いけど食べれてるねん」
エコーに 赤ちゃんの横顔 「まあ可愛い…」
そう思った次の瞬間、助産師の目が動いた。
ちょっと待てよ… 首の後ろ、太くない?
首の後ろの厚み(NT)で、先天性の病気がわかることがある。急いで教科書を広げ、ネットで正常値を調べた。物差しで何度も測った。
見え方かな? う~ん、もっとちゃんと勉強しとけばよかった。
知識のなさがもどかしい。
娘夫婦に心配をかけたくない。
でも、もし病気だとわかれば、育てる準備も違ってくる。
そして何より——命の選別、ということを考えてしまった。
病気だからといって、いのちを選別することはどうなんだ。
でも…やっぱりそうだったら…ううん…。
答えの出ない問いが、ぐるぐると頭を回った。
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「するよ。みんなしてるから」
悩んだ末、娘にそれとなく聞いてみた。
「遺伝子検査って流行ってるらしいけど、するの?」
娘はあっけらかんと答えた。「うん、するよ。みんなしてるから」
いらんことと思いながらも、ついこう言ってしまった。
「結果わかってから、みんなに言いよ。まだ初期だしね」
結果が悪かったときの予防線を張る私。
「そうやね。そうするわ(笑)」
またあっけらかんと答える娘。この親子、どこか似ている。
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異常なし
結果は「異常なし」。ほっと胸をなでおろした。
でも同時に、心の中でリフレインするものがあった。
病気といのちの選別、ということ。
これまでたくさんの病気の新生児を見てきた。そのご家族の顔が、
様子が、ふっと目に浮かぶ。
異常なしで、よかった。でも「よかった」と思う自分は、
あのご家族に対して何か申し訳ないような——。
答えの出ない問いが、静かに胸の中に残った。
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それでも命は、続いていく。
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