「東京少年」 僕らの美しい言葉
「美しいことばって、なんだろう」
今朝見た、Xでフォローしている方の、そんな投稿がずっと心に残っている。
自分でプロフに書いててあれだけど、「美しいことば」ってなんだろう。
— さよなら (@sayonara_note) July 30, 2025
ただ描写がきれいなだけじゃない。
どうしても書きたい、書かずにはいられない、そういうこころの絞りかすみたいなものを美しいと思ってしまう
その言葉に、私はスマホを片手に 夜勤明けのボーっとした頭でしばらく固まってしまった。 そして、自分にとっての「美しい言葉」って、一体なんだろう?と また 固まったかのように微動だにせず。ただただ 胸の中の小さな炎に似た揺らめきを 感じながら それについて考えていた。
そしてまさに、このことについて、どうしても書きたい、書かずにはいられない。その衝動にかられてしまった。
上手いとか、正しいとか、そういう物差しでは測れない。 私にとっての美しい言葉とは、たぶん「自分の記憶と、勝手にリンクしてくるもの」なのだと思う。普段は心の奥底に沈んでいて、自分ではもう意図的に開けることもない記憶の宝箱。 そんな、忘れかけていた感情の蓋を、ふいにこじ開けてしまう言葉。
それに触れた瞬間、過去の希望や不安、どうしようもなかった想いが「どわーっ!」と流れ込んできて、胸の奥がチリリと疼く。 その、甘くて、少し痛くて、どうしようもなく愛おしい疼き。 その疼きを連れてきてくれた言葉を、私は「美しい」と感じて、何度も何度も見返したくなるのだ。
私にとって、そのすべてを体現しているのが、GOING STEADYの「東京少年」という歌だ。 もちろん、あの頃みんなで叫ぶように歌った歌は、どれもこれも美しいのだけれど。
この歌が特別なのは、それが、ある日々の記憶と分かちがたく結びついているからだ。
あのころ。 私と、 今でも親友の女友達がシェアしていた、家と呼ぶには少しばかりカオスなアパートには、毎日のように仲間が集まっていた。仕事から帰ると知らない人に「おかえりー」と出迎えられることも日常茶飯事。熱を出して寝込んでいたら、話したこともない顔見知りのイケメンが隣に寝転がり、私のプレステで遊んでいたことさえあった。 そんな、今では信じられないくらい、無防備で、無頓着で、どうしようもなく大らかな時代だった。
その輪の中には、いつもギターとベースを弾いて歌う男友達たちがいた。
ボロンボロンと鳴る重低音のベースと、何が正解だかよくわからない音色の歪んだエレキギター。彼らが控えめに弾き語る「東京少年」を、カオスなアパートで みんなで一緒に控えめに歌った。
週に3回は通っていたカラオケでは、誰かが必ずこの歌を入れた。マイクなんて、もはやただの飾りだ。私たちなりに気を使って控えめにしていた鬱憤を見事に晴らすのはこの6畳ほどのカラオケルーム。どれだけ騒いでも、ここだけは許される。
「指先に止まった 赤とんぼー!!どこへ帰るの 赤とんぼー!!!」
喉が張り裂けんばかりに、みんなで叫んだ。
「僕らは若くて 心が歪んだ! 叫ぼう!叫ぼう!僕らは此処だ!!!」
何がそんなに歪んでいたのか、今となってはよく分からない。でも、何か得体の知れないエネルギーを持て余し、ただ叫ぶことでしか、自分たちが「此処」にいることを証明できなかった。そんな、不器用な若さだった。
スプリングのバネがバカになったソファに みんなで飛び乗り ジャンプしながら叫んだ。
ギイギイと軋む 割れた合皮張りのソファの音なんか 飲み込まれて 誰も気にすることなんてないし、大きな叫びと、湿気と、熱が部屋中に充満していた。あの瞬間も、どの瞬間も、僕らも、ソファも、若くて、歪んでいて、ひとつだった。 本当に、退屈なんて言葉を知らない、キラキラした青くて汗臭い、無敵な毎日だった。
だから、この歌の歌詞は、私にとって単なる言葉の集まりじゃない。 あの情景があったからこそ、歌詞の一字一句が、友達の笑い声になり、あの部屋の匂いになり、未来への漠然とした希望そのものになったのだ。
今、みんなそれぞれ違う場所で、違う毎日を生きている。 それでも、ふとこの歌を聴くと、一瞬であの日に帰れる。 「叫ぼう!叫ぼう!僕らは此処だ!!!」という、あの不器用な叫びが耳に届くたびに、私の心の中、誰にも揺るがすことのできない聖域のような場所で、あの日の熱気が、今も変わらず私を温めてくれる。
いつまでも色褪せない、なんて月並みな言葉だけど、本当なんだ。 あれは、私たち(とソファ)の、青春そのものだったのだから。
思い出した瞬間に私は「私」ではなく、完全に無敵だった「僕ら」にいつでも戻れる。
青くて汗臭くて、少し湿って熱っぽくて、綺麗事ばかりじゃなかったけれど、今思い返すとなぜだかたまらなく輝いている、あの頃の空気。 それを思い起こさせてくれる言葉との出会いを、きっと、美しいと、わたしは思うんだろうなあ。
こんな大切なことに改めて気づくきっかけをくれた、あの素敵なポストに、心からのありがとうを。
こちらは殿堂入りの、「僕らの美しい言葉」たち。(歌ですが。)
