『任せるコツ』を読んで
はじめに
ここ数年で後輩が増え、人を指導する場面が確実に増えた。
自分の研究だけに集中していればよかった頃とは違い、今は「どう任せるか」「どう育てるか」が日常的な課題になっている。
とはいえ、自分はもともと人に任せるのが得意なタイプではない。
「自分でやったほうが早い」と考えてきた。
説明し、途中で確認し、修正し、最終責任を持つ。
それなら最初から自分でやったほうが総合的な時間は短いし、余計な衝突も生まれにくい。
自分が少し我慢すれば、周囲が嫌な思いをせずに済む。
そう考えていた。
それでも、組織を回す立場にいる以上、育成は避けて通れない役割であることも理解している。
配慮や気遣いが必要で、正直ストレスもあるが、それを担わなければチームは先細りする。
その葛藤の中で手に取ったのが、任せる技術である。
本書を通して、自分の姿勢を見直すきっかけを得た。
任せることへの抵抗
日々多くの業務を抱える中で、後輩の証明を見て「このままでは筋が通らない」と感じることはよくある。
その瞬間、自分はほぼ反射的に手を入れてしまう。
構成を直し、表現を変え、論点を整理する。
気づけば、自分の仕事になっている。
そこには、「自分のやり方のほうが確実だ」という前提があるのだろう。
成果を出さなければならない、期限を守らなければならない。
その責任感が、介入を正当化してきた。
しかし本書を読んで、その姿勢が本当に最善なのか疑問を持つようになった。
任せるとは、単に仕事を振ることではない。
責任を押し付けることでもない。
本書は、「任せる」と「丸投げ」を明確に区別し、前者は相手の成長を見据えた設計行為であると説く。
目的を共有し、挑戦の余地を残し、フォローを前提に任せる。
それが本来の意味での委譲だという。
振り返れば、自分は短期的な効率を優先し、長期的な育成を後回しにしていたのかもしれない。
自分の基準に照らして修正することは、その場では正解に見える。
しかし、それは相手の思考の機会を奪い、「自分で考える力」を育てる機会を減らしている可能性がある。
一方で、成果を出す責任も事実として存在する。
理想論だけでは組織は動かない。
だからこそ、任せることと質を担保することのバランスが重要になる。
本書は、その両立を前提に議論している点で現実的だと感じた。
任せ方は技術であり、姿勢である
本書では、効果的な依頼の仕方が具体的に整理されている。
相手の意欲をどう引き出すか。
目的をどこまで明確にするか。
負担への配慮をどう示すか。
選択肢をどう提示するか。
伝え方一つで、仕事は「やらされる作業」にも「挑戦」にもなる。
例えば、「この仕事をお願いしたい」ではなく、「あなたの強みが活きる場面だ」と意味づけを加えることで、受け手の姿勢は変わる。
依頼は情報伝達ではなく、動機づけの行為でもあるという視点は新鮮だった。
また、「誰に任せるか」という観点も示唆に富む。
単に能力の高い人に集中させるのではなく、意欲や適性を見極めて配置する。
不得意を無理に克服させるより、得意を伸ばし、チーム全体で補完し合うほうが結果的に強い組織になる。
個人競技ではなく団体競技だという考え方は、これまで自分が抱え込みがちだった姿勢と対照的だった。
さらに、本書は「任せた後」が重要だと強調する。
面談やフィードバックを通じて振り返りを促し、過程を評価し、具体的に褒める。
叱責よりも承認を軸に置くことで、挑戦を継続できる土壌をつくる。
任せることはゴールではなく、成長の起点であるという考え方が一貫している。
VUCA (Volatility Uncertainty Complexity Ambiguity) と呼ばれる変化の激しい時代において、トップダウンで指示を出すだけでは対応しきれない。
個々が自律的に動ける組織こそが強い。
本書は、その前提に立ったマネジメントの在り方を示している。
おわりに
本書を読んだからといって、すぐに上手く任せられるようになるわけではないと思う。
むしろ、自分に足りない点を痛感した。
待つことの難しさ。
失敗を許容する度量。
自分の正しさを一度脇に置く柔軟さ。
どれも十分とは言えない。
それでも、「任せることは勇気のいる行為だ」という自覚を持てたことは大きい。
自分で抱え込むほうが楽な場面はこれからもあるだろう。
しかし、その選択を続ければ、チームは育たない。
成果と育成は対立するものではなく、両立を模索すべき課題である。
そのバランスを探り続けることこそが、指導する立場にある者の責任なのだと思う。
今後は、すぐに手を出す前に一度問いかけたい。
「どう考えたのか」
「何を目指しているのか」
任せることは簡単ではないが、挑戦する価値があるように思う。
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