資産が多いのになぜ苦しいのか|流動・固定の4分類で読む貸借対照表
第1章 決算書を見ても何も分からなかった理由
数字は並んでいるのに意味が見えない
税理士から決算書を渡されたとき、どんな気持ちになりますか。
「ありがとうございます」と受け取って、ざっと眺めて、棚にしまう。
そういう方、実はとても多いです。
数字は並んでいます。合計も出ています。
でも、それが自分の会社の何を意味しているのか、よく分からない。
この感覚を持つこと自体は、おかしくありません。
決算書は「報告書」として作られていて、「経営判断のための道具」として設計されていないからです。
分からない本当の原因
決算書が読めない理由は、読む力がないからではありません。
見るべき構造を教わっていないからです。
貸借対照表(バランスシート)に並んでいる数字も、
4つのグループに分けて見る視点を持つだけで、読み方が一変します。
そのグループとは、
流動資産・固定資産・流動負債・固定負債の4つです。
第2章 資産は「すぐ使えるか」で分ける
流動資産とは何か
資産は大きく2つに分かれます。
分け方の基準は「1年以内に現金に換わるかどうか」です。
流動資産とは、比較的短期間で現金に換わる資産のことです。
代表的なものを挙げると、
現金・預金
売掛金(請求済みでまだ回収していないお金)
棚卸資産(在庫)
売掛金は「まだ手元にないけれど近いうちに入ってくるお金」です。
棚卸資産は「売れれば現金になる在庫」です。
いずれも、時間が経てば現金に変わる性質を持っています。
固定資産とは何か
一方、固定資産はすぐには現金に換わらない資産です。
建物・土地
機械・車両
ソフトウェア・特許などの無形資産
これらは事業を続けるために持っているものであって、
売って現金にすることを前提としていません。
土地や建物を持っていても、それは「明日使えるお金」ではない。
ここが重要です。
2つの違いが経営判断に直結する理由
「資産が多い会社は安心」という感覚を持っている方がいますが、
資産の中身を見ないと、その感覚は危うい。
固定資産ばかりで流動資産が少ない会社は、
帳簿上は資産が豊富でも、
手元に動かせるお金は少ないという状態になります。
たとえば、
総資産:2,000万円
うち土地・建物:1,600万円
うち現金・売掛金:400万円
この会社は「資産2,000万円の会社」ですが、
明日の支払いに使えるのは400万円の範囲です。
資産の「量」より「質」、つまり現金に換わりやすいかどうかが、
経営の余裕に直結します。
第3章 負債は「いつ返すか」で分ける
流動負債とは何か
負債も、資産と同じ基準で2つに分かれます。
「1年以内に返済が必要かどうか」です。
流動負債は、近いうちに支払わなければならない債務です。
買掛金(仕入れ代金の未払い)
短期借入金(1年以内に返す借金)
未払費用(人件費・経費の未払い)
これらは、時間的な猶予が短い。
だから、流動負債が大きいほど、近い将来の資金需要が高いということになります。
固定負債とは何か
固定負債は、返済まで時間的な余裕がある債務です。
長期借入金(返済期間が1年超の借金)
社債
たとえば、5年返済の銀行融資は固定負債です。
毎月の返済額は発生しますが、全額を今すぐ返す必要はない。
固定負債は「長く付き合っていく債務」であり、
流動負債ほど即座に資金を圧迫しません。
返済時期が資金繰りを左右する
同じ「借金1,000万円」でも、
その中身が短期か長期かで、会社の資金状況はまったく違います。
短期借入金1,000万円 → 今年中に返す必要がある
長期借入金1,000万円 → 5〜10年かけて返せる
前者は今すぐ手を打たないといけない問題であり、
後者は計画的に対応できる問題です。
借入の「総額」だけを見て判断するのではなく、
流動と固定の比率を確認する習慣が必要です。
第4章 資産と負債のバランスで何が見えるか
流動資産と流動負債の関係
この2つを並べると、非常に重要なことが見えます。
流動資産 > 流動負債 なら、短期的な支払い余力がある。
流動資産 < 流動負債 なら、近い将来に資金が詰まるリスクがある。
この関係を数値化したものが「流動比率」です。
流動比率=流動資産÷流動負債
一般的に100%を超えていれば、短期的な支払い能力があると判断します。
100%を下回っている場合は、資金繰りの改善が必要なサインです。
資産が多いのに苦しい会社の正体
ここで、最初の問いに戻ります。
「資産が多いのになぜ苦しいのか」
その答えはこうです。
固定資産ばかりで流動資産が少ない。
かつ、流動負債が多い。
この状態では、帳簿上は立派な会社に見えても、
今月・来月の支払いに使えるお金が足りないという現実になります。
設備投資をしすぎた飲食店や製造業で、この状態はよく起きます。
立派な厨房や機械があるのに、仕入れ代金の支払いが毎月ギリギリ——という感覚を持ったことがある方は、まさにこのパターンです。
第5章 自社の貸借対照表をどう見るか
自己診断の視点
今すぐ決算書を引っ張り出して、確認してほしいことが3つあります。
流動資産と固定資産の比率はどうなっているか
流動負債と固定負債の比率はどうなっているか
流動資産は流動負債を上回っているか
この3点だけでも確認できると、
自社の財務の「今の状態」がざっくりと見えてきます。
次に確認すべきもの
構造が見えてくると、次の問いが自然に出てきます。
「流動比率が100%を下回っているとき、どこに手を打てばいいか」
「固定資産が多すぎる場合、どう対処するか」
「短期借入が多い状態から長期に切り替えるにはどうするか」
これらは、4つの分類という土台を持ってはじめて設計できる問いです。
次の記事では、
流動比率の適正水準と危険ライン
短期・長期の借入バランスをどう整えるか
固定資産が重い会社の改善の方向性
を、実務ベースで解説していきます。
「構造は分かった。では自分の会社にどう当てはめるか」
その設計に進みます。
【Numera Flow「数字を、経営の流れに」】
