ひどいアニパロ大戦 記憶の殿堂
博物館の広いロビーには、午後の柔らかい陽射しが差し込んでいた。
モグラと少女たちの一団――灯火、ねむ、まどか、こなた、智子、まひろ、ほむら――が、展示室をゆっくりと回っている。
「折角、モグラが連れてきたんだから学びなさい」
「うむ」
まどかは灯火とねむの二人の小さな姿を見て、心の中で微笑んだ。
ほむらから「マギウスの幹部」だと聞かされていたが、小学生相応の偉ぶった態度が、なんだか可愛らしい。
「まあ、博物館なんて歴史が適度にとっちらかっているから、オタクのお前らにはちょうどいいだろ」
モグラの高説に
「まあ、よくわかってらっしゃるというか……」
こなたが返すと
「そういえば先日のフィギュア、どうなった」
こなたはスマホを取り出し、画像を見せた。
四人のフィギュア――体はメカ少女仕様で、頭だけが元のキャラの顔。
「出来たよ」
「……えーと、まあ完成したんだな……」
「結局1/12の頭だけで力尽きてね」
「美プラの体につけました」
まひろと智子の言葉に
「要するに首から下は既製品よ」
自嘲気味な言葉をほむらが付け加える。
「でも完成したから上等だな」
「ねむちゃんも何か作ってたね」
とこなたがいうが
ねむは
「記憶にない」
という。
工房にはねむによる不出来なモグラの胸像がひっそりと置かれていたが、だれにも見せる気はなさそうだ。
展示は江戸時代の風俗コーナー
火鉢や行灯が並ぶ中、ねむがモグラに尋ねた
「モグラ、懐かしいか?」
「いやあ、全部過ぎ去った過去だな……」
「火鉢がある」
まどかの言葉にモグラは
「火鉢は昭和まであったぞ……あれは換気しないと死ぬから」
「ああ……死にかけたんだ……」
「まあ……」
こなたの憶測は正解であった。
「不死身でよかったですね…」
気まずい顔のモグラも酸素を吸う間がなく、あわてて鬼火を飲んだ日のことはわすれられないようだ。
智子とまひろは昭和の展示へ行く、大戦中の実機が展示されていて、目を引いている。
「すげー!」
「これが特攻機か……」
それは特攻機として知られる桜花だった。
奥には零式艦上戦闘機-通称ゼロ戦も展示されている。
こなたも「永遠のゼロ」などと言いながら見ている。
灯火とねむは実機の構造とスペックに興味津々。
モグラとまどか、ほむらも大戦中に幸いにして実戦参加することなく、生き残った桜花を間近に見た。
モグラは立ち止まった。
彼は桜花を見たことがなかったが、零戦なら見た……戦場で……。
「桜花って特攻機なんですね……モグラさん?」
「……ああそうだな」
「なんで、こんな飛行機で……」
ほむらはモグラの様子から状況をいくらか察した
「ひょっとして、モグラさん、戦争経験者なんですか?」
「……ああ……そうだ」
ほむらは零戦を見てはしゃぐこなたたちのところへ行き、みんなを隣の地球館へ連れていった。
「……えっ、そこまでしなくてもいいのに」
「なんか……」
まどかも正直戦争体験者の親族もいないので、モグラがそうであることに気づくとなんともいえない気分になった。
ただ、モグラにとって確かに戦争はトラウマではあるが、これも長く過ごした日常のひとつでしかない、というのもある。
「あまり気にされてもな……そういえばなんで?って聞いたな」
「はい」
「……すごく有り体な話をすると、その時代なりの事情があった……俺は色々と…」
まどかの脳裏になぜか、見知らぬ少女が戦争の惨禍で魔法少女に契約する画が浮かんだ。
「神様ならどうにか出来るのかな」
「やめとけ……」
「えっ」
「神様なんてろくなもんじゃない……それより人間のまま幸せになる方が……」
「……そうだね」
まどかとモグラは自分たち以外の声の主に振り返った。
主を見ると、ギョロ目にくちびる、頭に三本の毛。
モグラとまどかは同時に驚いた。
「オバケのQ太郎!」
「えーと……」
Q太郎は大きな口で語り始めた。
「そうだよ、久々に人間界に来たついでに来たんだよ」
「本物……ということは妖怪か」
「失礼な!」
「写真いいですか」
とまどかがスマホを出すと、Q太郎は首を傾げた。
「? カメラどこ?」
「電話で写真撮れるんだよ」
「えっ、訳がわからないよ!」
昭和より後の時代を知らないQ太郎には、スマホが理解できない。
そこにねむと灯火がモグラを迎えに来たが。
「魔女でも霊でもないわ!」
「捕まえてマギウスで研究しよう」
「この子達なに!」
「おいやめておけ!」
「解剖すれば新しいエネルギーが……」
「冗談じゃない!」
Q太郎は姿を消して逃げた。
「今の見た! 容易に物理的フェーズを越えたわ!」
「灯火ちゃんたち落ち着いて」
まどかが二人を宥める。
「まあ、人間ってのは急ぎすぎちゃいけないってことだ」
「あ……わかりました」
博物館の別棟ー地球館
先史時代のマンモスや毛サイ、オオツノジカなどのメガファウナの骨格や冷凍マンモスの表皮などが展示されているこの棟は、隣の歴史館を一望できた。
その薄暗い館内でみふゆはやちよを見つけた。
「なんで、あなたがここに」
「博物館に来ちゃ悪い? 桂さんが来たいというから」
「桂さんとどれだけ親しいのよ。
先日久々にメールが来たとおもったら、桂さんとあなたがさだまさしの『主人公』を熱唱する動画で…」
「『関白宣言』でないだけいいでしょ。
いろはが撮ってくれたの。大体あなたこそなにを……」
みふゆの視線の先には灯火とねむがいた。
美滝原のほむらたちもいる。
灯火たちは先程までここでマンモスなどを見ていたが、モグラの元に戻ったのだ。
「マギウスやめて、みかづき荘に帰ってくればいいのに」
というやちよの言葉に
「いや……私がいない間に捨て猫ばかり拾ってきて……」
「捨て猫……いろはたちね」
そこに桂がエリザベスを引っ張ってきた。
「日本に天人が来ない世界の歴史が知れてよかった。エリザベスも喜んでいる」
「僕ひとちがいだよ!」
やちよがエリザベスの様子が少し変わったことに気づいた。
「エリザベス喋れるようになったのね」
「ちがうったら!」
「あっちのがエリザベスじゃ……」
灯火たちがエリザベスをつかまえて放さない。
「エリザベス!」
桂が灯火たちの方に駆け寄っていった。
やちよはオバQの写真をスマホで撮影し、「オバケのQ太郎」とキャプションをつけて送信した。
「なにしてるの?」
みふゆの言葉に
「フェリシアが喜ぶから……あ……これ多分本物のお化け……妖怪だから」
やちよは地味に衝撃的なことを話す
「ひぃっ!」
「失礼だな、僕帰るよ」
Q太郎は飛んで博物館から去っていった。
みふゆはため息をつき、やちよの横に並んだ。
「……なんだか訳がわからないわ」
「あなた、デスモスチルスに似てるわよ」
みふゆが振り返ると河馬に似た生き物の骨格にデスモスチルスと書いてある、みふゆがなにか言いたそうな顔だったが。
「折角きたんだから、展示物見るくらいの余裕をもてばいいのに」
桂は再びエリザベスとともに、この世界の歴史の展示をみている。
みふゆとやちよはかつて日本にいた大きな生き物の標本の見物を再開した。
「こんな風に美術館とか行ったわね」
「また、行く?」
灯火たちが入ってきた。
「考えさせて」
とみふゆが返した。
