死んでしまいたい 宗村まさる(仮名男性51歳、性依存症、自慰依存症、アルコール依存症)
1. 初めての快感
「……なんだ、これ」
13歳のまさるは、自分の身体に起きたことを理解できなかった。だが、全身が震え、頭が真っ白になる快感は、彼の脳裏に焼き付いた。
その瞬間だけ、父親の怒鳴り声も、母親の冷たい表情も、教室での孤独も消え去った。
「これさえあれば、俺は大丈夫だ」
そう信じるようになった。
2. 内気な少年
まさるは内気で、女子とまともに話したことがなかった。声をかけようとしても、喉が詰まって出てこない。
「宗村って、暗いよな」
同級生の言葉が胸に突き刺さった。
自慰は秘密の友達だった。だれにも邪魔されない、自分だけの世界。だが、それは同時に孤独を深める鎖でもあった。
3. アルコールとの出会い
20代、社会人になってから酒を覚えた。
「酒を飲めば、女と話せる」
初めてキャバクラで笑って話せた夜、まさるは震えるほどの解放感を味わった。
だが同時に、酒と自慰はセットになった。
「酔った勢いで帰って抜く。これが俺の定番コース」
それが習慣となり、やがて依存となった。
4. 現実の女性よりも楽な世界
恋人もできた。だが長続きしなかった。
「女って、面倒だよな」
相手の欠点が目につくと、すぐに嫌になった。
一方で、画面の中の女性はいつも完璧だった。
「文句も言わない、逆らわない、思い通り」
自慰は、現実よりも楽で、簡単で、確実に快感を与えてくれた。
だが、そのたびに襲ってくる罪悪感、倦怠感、虚しさ。
「また、やってしまった……」
やる気が失われ、仕事への熱意も消えていった。
5. 惰性の人生
40代後半、まさるはただ惰性で生きていた。
朝起きるのがつらい。
「行きたくねぇな……」
そうつぶやきながら会社へ行く。
仕事は適当にこなす。評価されることもなく、かといって辞める勇気もない。
人の目が気になり、常に不安にさいなまれていた。
「俺って、なんで生きてるんだろう」
酒と自慰だけが現実から逃がしてくれる。
6. 死を考えた夜
51歳のある夜。酒に酔い、自慰のあとにベッドで虚脱感に包まれた。
「……もう、死んでしまいたい」
本気でそう思った。
スマホをぼんやり眺めていると、「アルコール依存症 自助会」という検索履歴が目に入った。酔った勢いで検索していたらしい。
「……最後に行ってみるか」
7. 自助会との出会い
会場に足を踏み入れた瞬間、逃げ出したくなった。
「俺なんか、場違いだ」
立ち尽くしていると、一人の男性が声をかけてきた。
「初めてですか? よかったら、座っていきませんか」
その一言に、まさるの足は止まった。
自己紹介の番が回ってきたとき、言葉が勝手に飛び出した。
「……俺、もう死んでしまいたいんです」
沈黙のあと、何人かがうなずいた。誰も笑わない、責めない。ただ静かに受け止めてくれた。
会が終わったあと、女性メンバーが声をかけた。
「私もね、昔はそう思ってました。でも、ここに来るたびに少しずつ変われたんです」
涙がこみあげた。
8. 断酒・断射の始まり
まさるは週に一度、会に通うようになった。
「今日も飲まなかった」
「今週は抜かなかった」
小さな報告をすることが、支えになった。
酒をやめ、自慰をやめて三か月。
「あれ……なんか、違う」
朝起きたとき、体が軽い。頭がクリアだ。
罪悪感や倦怠感が、少しずつ和らいでいた。
同僚が言った。
「宗村さん、最近顔つきが変わったね」
「最近、明るくなったね。」
胸が熱くなった。
「おれはやれる!俺は生きれる!」
9. 自己肯定感を取り戻す
会で仲間にこう話した。
「俺、ずっと自分が嫌いだったんです」
ある仲間が言った。
「それはね、性エネルギーを浪費してたからだよ。酒と自慰で空っぽになってた。でも、それをやめれば自分を取り戻せる」
確かに、やめてから自分を責める気持ちが減ってきている。
「俺は、生きててもいいんだ」
小さな希望が芽生えた。
10. 新しい人生へ
今、まさるは少しずつ仕事を再開している。
簡単な作業でも「やれてよかった」と思える。
仲間に聞かれた。
「宗村さん、これからどうしたいですか?」
彼は少し考えて答えた。
「まずは今日1日、飲まない。抜かない。それを積み重ねたい。きっとそれが、俺の人生を変えてくれる」
もちろん誘惑はある。酒も、自慰も、頭をよぎる。
だが仲間の体験談が、支えになる。
「俺も同じだった。でも、続けていたら変われた」
その言葉を信じて、今日もまさるは生きている。
「死にたい」ではなく、「生きたい」と言える日を一日づつ継続して。
