キャバクラで借金をこさえる 深沢ともや(仮名男性48歳、恋愛依存症、性依存症)
「もう、これで最後にしよう」
何度、自分にそう言い聞かせただろう。
深沢ともや、48歳。肩書きも特にない。離婚歴があるわけでも、子どもがいるわけでもない。だが、心の中には消えない傷がある。
幼少期の影
ともやがまだ小学生の頃。両親は激しい喧嘩の末、離婚した。父は出ていき、母の手一つで育てられた。母は女手ひとつで必死に働き、夜遅くに帰宅しては「ごめんね」と疲れ切った笑顔を見せた。その母も、ともやが12歳の時に病で急逝する。
葬式の夜、ともやは親戚の会話を耳にした。
「可哀想に、あの子は施設に入れるしかないな」
「でも、あの年頃で…大丈夫かしら」
その言葉が胸に突き刺さった。
施設では、上級生からのいじめや暴力が日常だった。夜、布団に潜り込んで泣いていると、年上の少年に体を触られることもあった。叫びたくても声が出なかった。自分が汚れているようで、恥ずかしくて誰にも言えなかった。
「俺は、普通の人間じゃないんだ」
そう思うになった。
社会に出て、恋愛依存へ
高校を卒業し、就職。最初の恋人ができたとき、ともやは全てを捧げた。プレゼントを買い与え、休みの日は全部会う。彼女が「今日は一人で過ごしたい」と言うと、不安で眠れなかった。
「嫌われたのか?もう、終わりなのか?」
付き合いが長くなると、彼女は疲れ果てて去っていった。ともやは泣き崩れ、次の女性を必死に探した。恋人がいないと心が空洞になる。孤独が恐怖だった。
キャバクラの罠
30代後半、職場の同僚に誘われて初めてキャバクラへ行った。
煌びやかな照明、甘い香水の匂い、若い女性たちの笑顔。
「ともやさんって、優しいですね!」
「また会いたいな~」
耳元で囁かれた言葉に、心が震えた。まるで母の愛情を取り戻したような錯覚。女性たちに認められたい、自分を見てほしい。その欲望は止まらなくなった。
気がつけば、給料をつぎ込み、消費者金融からも借りた。
「借りてもまた稼げばいい」
そんな言い訳で借金は膨れ上がった。
ある夜、キャバ嬢のアヤにこう言われた。
「ともやさん、ほんとに無理しなくていいから。お金とか、気にしないで」
その優しさが、逆に胸に刺さった。
「無理してるのは分かってるんだ…でもやめられないんだ」
財布は空になり、カードは止まり、督促状が届いた。
うつと絶望
40代半ば。借金は300万円を超えた。夜も眠れず、食欲もなくなった。会社も休みがちになり、ついに精神科に行った。
「うつ状態ですね。投薬治療を始めましょう」
診察室で、医師に「死にたい」と口にした瞬間、自分の声が他人のように聞こえた。
回復の出会い
主治医に勧められ、依存症の自助グループに足を運んだ。
最初は居心地が悪かった。だが、50代の男性が涙ながらに語った。
「俺は性依存で家庭を壊した。風俗に何百万も使って、妻にも子どもにも見放された。でも、ここで話すことで、やっと人間に戻れた」
その姿を見て、ともやは思った。
「この人の話は、俺そのものだ」
グループの仲間にこう声をかけられた。
「ともやさん、今日一日だけでいいんだ。一生やめるなんて考えなくていい。今日だけ、やめてみよう」
その言葉に救われた。
自己肯定感の欠如に気づく
回復のプロセスの中で、ともやは過去を振り返った。
母の死、施設での暴力、恋愛依存。
「俺は、誰かに認められたい。愛されたい。そればかり求めてきた」
恋人がいないと不安。キャバクラでお金を使って安心感を買う。全ては、自己肯定感の低さからきていた。
仲間に語った。
「俺は、母親に愛された記憶も薄い。施設では汚されて、ずっと俺は駄目な人間だと思ってた。だから、女にすがってたんだ」
仲間はうなずき、こう返した。
「俺も同じだよ。大事なのは、自分を少しずつ許すことだ」
小さな一歩
ともやは、キャバクラに行きたい衝動が襲うたびに、仲間に電話した。
「今、やばいです。行きたくて仕方ない」
「わかるよ。俺も昨日同じ気持ちになった。でも、今日一日はやめようぜ。」
そう言われると、不思議と気持ちが落ち着いた。
日記にも書いた。
今日一日、キャバクラに行かない。
今日一日、お金を借りない
今日一日だけを生きる。
今日一日だけでいい。
現在とこれから
48歳になった今も、ともやの借金は完全には返せていない。だが、少しずつ返済し、キャバクラに行かない日が積み重なっている。
仲間に言った。
「俺は、まだ依存の衝動がなくなったわけじゃない。でも、今日一日なら止められるって思えるんだ」
仲間が笑顔で答える。
「それで十分だよ。俺たちは今日一日を生きることしかできないんだ。」
ともやは、静かにうなずいた。
かつて「愛されたい」ともがいていた少年は、今「今日一日」を生きる大人になった。
