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【音の科学 #48】なぜ"母国語の音楽"はより心に響きやすいのか?──言語と音楽認知の関係

こんばんは、NUARLです。

韓国語がわからなくても、K-POPを聴けば体が勝手に動く。最近はやったあの「アパーツ、アパーツ」がまさにその類です。

ほかにも、TikTokで流れてきた知らない言語の曲を、気づいたら口ずさんでいた──なんて経験がある人もいるかもしれません。

ここでふと考えてみてほしいのですが、歌詞がわかるかどうかって、聴く側にどれくらい影響しているんでしょう?
言葉がわからなくても楽しめるなら、歌詞って実はそこまで大事じゃない?

……と思いきや、ふとしたときに昔よく聴いた日本語の曲のワンフレーズが頭をよぎって、泣きそうになったことはないでしょうか。外国語の曲ではなかなかそうはならないのに、母国語の曲だと不意打ちで感情を持っていかれる。

ここにはどうしても超えられない「言葉の壁」があるのだろうか?

──今回は、この疑問を脳科学の視点から掘り下げます。


音楽と言語は「別の部屋」にいない

「音楽は右脳、言語は左脳」──どこかで聞いたことがあるかもしれません。

これ、もう古い常識です。

神経科学者の Patel(2011)が提唱した「OPERA仮説」によると、音楽と言語はピッチ・リズム・音色といった音の基本要素を同じ聴覚神経回路で処理している。右と左で分かれているのではなく、同じ回路を"共用"しているというモデルです。

……いきなり仮説とか言われてもピンとこないと思うので、わかりやすい実験を紹介します。

Perron ら(2026)は若年成人62名を対象に、音楽経験の程度と、騒がしい環境での会話の聞き取り能力の関係を調べました。結果はシンプルで、音楽的な関わりが深い人ほど、聞き取り成績が良い傾向があった。しかもその差は、日常感覚でも無視できないレベルだったんです。

さらに、その関係を支えていたのは「拍(ビート)の知覚」と「ワーキングメモリ」でした。こうした結果は、音楽と言語が少なくとも一部の処理資源を共有しているという見方と相性がいい。

つまり、音楽と言語は「同じ線路」の上を走っている。


母語が音楽の聞こえ方を"チューニング"する

同じ線路を走っているなら、その線路がどの言語で敷かれたかが、音楽の聞こえ方にも影響するはず──事実そうでした。

これを大規模に確かめた研究があります。Liu & Hilton ら(2023)は、54言語・約50万人という桁違いの規模でオンライン音楽知覚テストを実施。
すると面白いことに、普段の言葉で音の高低を使い分ける言語の話者(中国語やベトナム語など)は、メロディの聞き分けが得意な一方、リズムに乗るのは苦手だったんです。逆に、英語のように音の高低をあまり使わない言語の話者は、リズムには強いけどメロディの細かい違いには鈍い。

つまり、母語で日常的に使っている「音の聞き方のクセ」が、そのまま音楽の聞こえ方にも出ている

日本語はどうかというと、「箸」と「橋」を音の上げ下げで区別するように、音の高低をそこそこ使う言語です。個人差はありますが、日本語話者はメロディの変化に対してもともと耳が敏感な可能性がある。

好きだと感じる曲、耳に残るフレーズ、気持ちいいと思うメロディライン──その好みの裏側に、母語の影響が静かに効いているわけです。

Hausen ら(2013)の実験でもこの関係は裏付けられていて、フィンランド成人61名を調べたところ、音楽のリズム感が高い人ほど、母語のイントネーションの聞き取りも正確だった。年齢や音楽教育の有無を差し引いても、この関連は消えませんでした。


歌詞が加わると、脳は「別モード」になる

ここまでの話で、音楽と言語は同じ回路を使っていて、母語がその聞こえ方をチューニングしていることがわかりました。

じゃあ、歌詞の意味がわかるかどうかで、脳の動き方そのものは変わるのか?

Brattico ら(2011)が、同じ悲しい曲の「歌詞あり版」と「歌詞なしインスト版」を聴かせて、fMRI(脳のどこが活発に働いているかを映し出す装置)で比べました。すると、歌詞がついているだけで、感情・記憶・身体感覚・言語処理に関わる領域が追加で動き出したんです。

ただし、この追加起動が強く出たのは悲しい曲のとき。 楽しい曲では逆に、歌詞なしのインスト版のほうが快感に関わる領域を強く刺激していました。

つまり、「楽しい」「ノれる」はメロディとビートだけで十分に届く。 だからK-POPやEDMは言葉がわからなくても体が動く。でも「悲しい」「切ない」は、歌詞の意味がわかることで一段も二段も深くなる。

楽しさに言葉の壁はほとんどない。でも悲しみには、壁がはっきりある。


懐かしい母語の曲が「不意打ち」で刺さる理由

去年の記事「記憶音」で、音楽が記憶と強く結びつく仕組みを紹介しました。脳には「この曲は自分にとって大切だ」と判断する場所(内側前頭前野)があり、音楽を「自分の人生の一部」として記憶に組み込んでいる。
それはアルツハイマー病でも最後まで残りやすいほど、音楽の記憶は深く守られている、という話です。

今回の話を踏まえると、その「深さ」にも差があることが見えてきます。

外国語のノリのいい曲は、楽しかった記憶としてちゃんと頭に残る。でも、母語の悲しい曲や切ない曲は、前のセクションで見たように感情・記憶・意味の回路が同時に動くから、感情ごと深く刻まれて心に残る

「記憶に残る」と「心に残る」は、似ているようで別物なんです。

K-POPで踊った夏フェスの記憶は楽しい思い出として残る。でも何年か後に、ふと流れてきた日本語のバラードで涙が出るのは、歌詞の意味が感情回路を巻き込んで、もっと深いところに刻まれていたからかもしれません。


☕ まとめ

① 音楽と言語は、脳の同じ回路を使っている。

② その回路は母語によってチューニングされていて、音楽の聞こえ方にも影響している。

③ 「楽しい」は歌詞がなくても届く。でも「悲しい」「切ない」は、歌詞の意味がわかることで一段も二段も深くなる。

④ 外国語の曲は「記憶に残る」。母語の曲は「心に残る」。似ているようで、別物。

言葉がわからなくても音楽は届きます。でも母語の歌詞が加わると、脳は"別モード"に入る。

今夜、久しぶりに日本語の曲を、ちゃんと歌詞を聴きながら聴いてみてください。頭に残っていた曲が、心に届く瞬間があるかもしれません。


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📚 参考文献

  • Brattico E, Alluri V, Bogert B, Jacobsen T, Vartiainen N, Nieminen S and Tervaniemi M (2011) A Functional MRI Study of Happy and Sad Emotions in Music with and without Lyrics. Front. Psychology 2:308. doi: 10.3389/fpsyg.2011.00308

  • Hausen, M., Torppa, R., Salmela, V. R., Vainio, M., & Särkämö, T. (2013). Music and speech prosody: a common rhythm. Frontiers in psychology, 4, 566. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2013.00566

  • Hennessy, S., Janata, P., Ginsberg, T., Kaplan, J. and Habibi, A. (2025), Music-Evoked Nostalgia Activates Default Mode and Reward Networks Across the Lifespan. Hum Brain Mapp, 46: e70181.

  • Liu, J., Hilton, C. B., Bergelson, E., & Mehr, S. A. (2023). Language experience predicts music processing in a half-million speakers of fifty-four languages. Current biology : CB, 33(10), 1916–1925.e4. https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.03.067

  • Patel A. D. (2011). Why would Musical Training Benefit the Neural Encoding of Speech? The OPERA Hypothesis. Frontiers in psychology, 2, 142. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2011.00142

  • Perron, M., Wood, E. A., & Russo, F. A. (2026). Explaining the Musical Advantage in Speech Perception Through Beat Perception and Working Memory. Annals of the New York Academy of Sciences, 1556(1), e70212. https://doi.org/10.1111/nyas.70212

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