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【音の科学 #47】自転車イヤホン?なぜ「聞こえなくなる」のか ── 音量だけが原因ではない

こんにちは、NUARLです。

最近、自転車のルールが厳しくなりましたよね。

2026年4月1日から、自転車にも「青切符」(交通反則通告制度)が適用されるようになりました。イヤホンに関連するところでは、安全な運転に必要な音や声が聞こえない状態で走っていると、取り締まりの対象になります。

これは乗車中に耳を塞ぐイヤホンの使用を禁止しているのではなく、片耳イヤホンでも、骨伝導でも、オープンイヤーでも「周りの音が聞こえていない」状態だとダメ、というのがルールです。

乗車中にイヤホンで音楽を聴いていたりして、警察官の問いかけに反応できなかったら、周りの音が聞こえていない=安全な運転に必要な音や声が聞こえない状態とみなされます。

そこで、ふと疑問に思う人が多いと思います。

「聞こえない」って、具体的にどんな状態のこと?「音量を上げすぎている」──確かにそれもあります。

でも実は、音量だけが原因じゃないんです。

どんな曲を聴いているか、曲のどの部分かによっても、周りの音が聞こえにくくなる度合いが変わってきます。今日は、その仕組みをわかりやすく説明します。


名前は「マスキング」といいます。

マスキングって何?

マスキングとは、音は耳に届いているのに、脳が「聞こえた」と認識できない現象です。

例えば、道路の騒音がうるさいところで、隣の人が普通の声で話しかけても聞き取りにくいですよね。これはイメージしやすいと思います。

でも、マスキングは「ただ大きい音に負ける」だけじゃないんです。イヤホンで音楽を聴いていて、同じくらいの大きさの救急車のサイレンが近づいてきても、聞こえないことがあります。

なぜでしょうか?ここに大事なポイントがあります。

それは「音の高さ(周波数)」です。


耳の奥にある「音を分ける仕組み」

耳の奥、鼓膜のさらに奥に「蝸牛(かぎゅう)」という器官があります。

ここには、音を「高さごとに分ける」不思議な仕組みが備わっています。イメージとしては、耳の中にピアノの鍵盤が入っているようなものです。

  • 入口側(右側):高い音を担当

  • 奥側(左側):低い音を担当

高い音(例:2,000Hzくらい)は入口近くで振動し、低い音(例:500Hzくらい)は奥の方で振動します。

それぞれの音が「自分の担当の鍵盤」を叩くような感じです。マスキングが起きるのは、このピアノの上で同じ場所(近い高さの音)で2つの音が同時に振動しようとしたときです。振動が取り合いになって、片方の音が脳に届かなくなってしまうんです。

大事なのは「音量の大小」ではなく、「音の高さがどれだけ近いか」ということです。

  • 音の高さが近い(隣の鍵盤同士)→ マスキングされやすい(濁って聞こえにくい)

  • 音の高さがかなり違う(左端と右端)→ お互いに干渉しにくく、両方聞こえやすい

  • 低い音は高い音を消しやすい(一方通行)

ここで、もう一つ大事な性質があります。低い音は高い音を消せますが、高い音は低い音を消せないんです。一方通行です。理由は、耳の中の「ピアノ(基底膜)」の構造にあります。


低い音の振動は、奥の柔らかい部分で起きる

耳の奥の柔らかい部分(低い音の領域)の振動は、手前の硬い部分(高い音の領域)にも広がりやすい。

逆に、高い音の振動は手前の硬い部分で起きるので、奥の方にはほとんど広がりません。これを「上方拡散(うわがたかくさん)」といいます。

つまり、音楽の低音が強いほど、高い音(自転車のベルや救急車のサイレン)が掻き消されやすいということなのです。


ベースが強い曲だと、なぜ危ない?

音楽の低音(ベースやキックドラム)は、主に低い周波数(50~500Hzくらい)に集中しています。

一方、自転車のベルや救急車のサイレンは、比較的高い周波数(700Hz~数kHz)に成分があります。低音が強い曲(EDMやヒップホップなど)を聴いていると、低い音の振動が広い範囲に広がって、高い音を覆い隠してしまいます。

アコースティックギターの弾き語りなど低音が少ない曲なら、影響はかなり小さくなります。同じ音量で聴いていても、曲のジャンルによって「周りの音が聞こえにくくなる度合い」が全然違うんです。


音が鳴る「前」や「後」まで影響する

マスキングは、音が同時に鳴っているときだけ起きるわけではありません。

  • フォワードマスキング:大きな音(例:キックドラムの「ドン」)が鳴った直後、少しの間、小さな音が聞き取りにくくなる。

  • バックワードマスキング:大きな音が鳴る直前にも、小さな音が消されてしまうことがある。

つまり、低い音のビートが鳴るたびに、その前後0.3秒くらい「耳が一時的に閉じる」時間が生まれます。

アップテンポな曲だと1秒に2回以上ビートが来るので、曲を聴いている時間の3分の2くらいは、周りの音に気づきにくい状態になっている可能性があるんです(あくまで目安です)。


実際にどれくらい聞こえにくくなるの?

では、実際にどれくらい聞こえにくくなってしまうのでしょうか?これを調べた実験があります。

オランダのグローニンゲン大学が2011年に行った研究です。研究では、16~26歳の若者25人に協力してもらいました。

彼らに音楽を聴きながら自転車を走ってもらい、背後から自転車のベルを鳴らして「何回気づけるか」を調べました。

イヤホンの種類を変えて比較したところ、結果にかなり大きな差が出たのです。


イヤホンの種類でも違う

  • 耳をしっかり塞ぐタイプ(カナル型・インイヤー型) → ベルに気づく回数がかなり少なかった 耳を物理的に塞いでしまうため外の音が入りにくく、低音が響きやすいためマスキングの影響も受けやすい。

  • 耳を塞がないタイプ(オープンイヤー型・骨伝導型) → ベルに気づく回数が多かった 耳の外側で音を鳴らしたり、骨を通じて音を伝えるため、同じ音量でも周りの音が比較的入りやすい。

この実験からわかったのは、同じ音楽を同じ音量で聴いていても、イヤホンの種類によって「周りの音に気づけるかどうか」が大きく変わるということです。

耳を塞ぐタイプのイヤホンは、耳道を物理的にふさいでしまうので、外の音がそもそも入りづらくなります。さらに、音楽の低音(ベースやキックの振動)が耳の中の空気を圧迫することで高い音に対する感度を下げ、ベルやサイレンなどの高い音をかき消してしまいます。一方、耳を塞がないタイプは、外の音が自然に入っているので、マスキングの影響を受けにくいのです。


実験から見えてくるリアルな危険性

この研究では「ベル」だけを調べましたが、実際の道路ではもっと危ない音がたくさんあります。

  • 後ろから近づいてくる車のエンジン音

  • 歩行者の声や自転車のベル

  • 救急車やパトカーのサイレン

特に低音が強い曲(EDM、ヒップホップ、ロックなど)を大音量で聴いていると、マスキングの影響が強くなりやすいことがわかっています。

逆に、アコースティックな曲やボーカル中心の曲なら、影響は比較的抑えられます。また、実験に参加したのは若い人たちでしたが、年齢が上がるほど周りの音に気づきにくくなる傾向もあります。

耳の機能が少しずつ衰えてくるためです。


実際の道路ではどうなる?

実験は比較的コントロールされた環境で行われましたが、実際の道路はもっと複雑です。

  • 風の音

  • 自分の自転車の走行音

  • 周囲の車の騒音

これらが重なると、さらに周りの音が聞き取りにくくなる可能性があります。

つまり「ベルに気づかなかった」という結果は、実際の危険性をまだ控えめに表しているとも言えます。


まとめ

自転車でイヤホンを使っているときに周りの音が聞こえにくくなるのは、ただ「音量が大きいから」だけではありません。

  • 音の高さが近いとマスキングされやすい

  • 低い音(ベースなど)は高い音を消しやすい

  • ビートが鳴る前後にも影響が出る

  • 曲のジャンルによっても変わる

基本的に自転車に乗りながら音楽を聴くことを推奨はしませんが、安全に周りの音を聞きながら音楽を楽しむには、音量だけでなく曲の選び方やイヤホンの種類も大事だということです。

皆さんも自転車に乗るときは、ルールを守って、安全第一で楽しんでくださいね!


ここまで読んでくれて、本当にありがとうございます。

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📚【参考文献】

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Photo by Akira Cake on Unsplash