【音の科学 #61】わずか「1mm」の差が音を変える──同じイヤホンでも、人によって聞こえ方が違う科学的な理由
こんにちは、NUARLです!
毎日のちょっとした気分転換に、外の空気を吸いながら音楽を聴いて散歩をするのも心地よい時間ですね。
でも、歩いているうちに「あれ? なんか家で聴いてた時より低音がスカスカするな」「少し音が遠くなった気がする」と感じたことはありませんか? そう感じてイヤホンの装着を直した経験がある方も多いはずです。
実はそれ、あなたの気のせいではありません。今回は、そんな私たちの「耳の穴の驚くべき感度」と「数ミリのズレが生む音の個人差」について紐解いていきます。
突然ですが、ネットのレビューで絶賛されているイヤホンを実際に聴いてみたとき、「あれ?自分にはそこまで良い音に聞こえないな…」と感じた経験はありませんか?
実はこれ、あなたの耳のせいでも、イヤホンのせいでもありません。「同じイヤホンを、同じ音量で鳴らしていても、人によって実際に鼓膜に届いている音は全く違う」というのが、音響学的な事実なのです。
今回は、そんな私たちの「耳の穴の驚くべき感度」と「音の個人差」について、科学的な研究データを交えながら紐解いていきます。
「耳の穴」は小さな楽器である
私たちがカナル型(耳栓型)イヤホンを装着したとき、耳の穴(外耳道)は鼓膜を行き止まりとする「閉鎖された小さなトンネル」になります。
音響学において、このような片側が閉じた管は特定の周波数の音を増幅させる「1/4波長共鳴」という現象を引き起こします。このとき、共鳴する周波数 f は、管の長さ L と音速 c によって以下の計算式で決まります。
$$
f = \frac{c}{4L}
$$
つまり、耳の穴という「管」の長さが変われば、強調される音も変わるということです。 2014年に発表されたワシントン大学のSouzaらによる研究では、驚くべき事実が示されています。
イヤホンの先端(イヤーピースなど)の挿入位置が、耳の穴の中でわずか「数ミリ」ずれるだけで音が変化する。
特定の高音域(3〜4 kHz以上)における音圧レベルは最大20dB(音のエネルギーとして100倍)も変動してしまう。
イヤホンの装着位置が1mm奥に押し込まれたり、手前に引かれたりするだけで、特定の音が刺さるように聞こえたり、逆にこもって聞こえたりするのは、この微細な物理空間の変化が理由なのです。
千差万別な「外耳道の形」
さらに決定的なのは、私たちの耳の穴の形状(太さ、長さ、カーブの具合、容積)は、指紋と同じように「世界に一つだけの形」をしているということです。
同じイヤホンを同じ深さまで挿入したとしても、耳の穴の容積が狭い人と広い人とでは、中で発生する音圧(特に低音域)に大きな差が出ます。また、鼓膜までの距離が違えば、先ほどの共鳴によって強調される高音の帯域も人それぞれずれていきます。
Aさんの耳の穴では「バランスの良いクリアな音」として鼓膜に届くように設計されたイヤホンが、Bさんの耳の穴を通ると「高音がキツい音」や「低音が強すぎる音」に変換されてしまう。 これが、「同じ条件でも聞こえ方が全く違う」最大の理由なのです。
全ての人に完璧な音は存在しない
耳の形が十人十色である以上、「世界中のすべての人に、全く同じように100点満点で聞こえるイヤホン」を作ることは物理的に不可能です。 だからこそ、私たちはこの「個人差」というハードルに様々なアプローチで挑んでいます。
物理的なアプローチ 当社の有線モデル『NX1 Chapter2』では、イヤホンの先端(ノズル)そのものを交換できる機構を採用しています。これにより、外耳道内の容積や鼓膜までの距離(前述の管の長さ L)を物理的に微調整し、音の出る位置や共鳴のバランスをご自身の耳に最適化することが可能です。
デジタル技術によるアプローチ 『Inovatör』に搭載されている「Audiodo Personal Sound」は、個人の聴覚特性を測定し、聞こえにくい音域の音を補正して正しく聴こえるようにします。これにより左右の耳の形状の差による聞こえ方のズレさえも、デジタル補正でニュートラルな状態に近づけることができます。
「たかが1mm」を意識して、最高の音を見つける
そして、この「装着位置の差が音を変える」という法則は、耳の穴を密閉しないオープンイヤー型イヤホンにおいても非常に重要なポイントになります。
耳の軟骨に挟んで装着するイヤーカフ型の『νClip』のような製品は、挟む位置が少し上か下か、あるいは奥か手前かによって、スピーカー部分から外耳道への「音の放射角度と距離」が劇的に変化します。
もし「低音がスカスカする」「音が遠い」と感じた場合は、装着位置を微調整してみてください。驚くほど音が豊かに響く、あなただけの「スイートスポット」が必ず存在するはずです。
音楽の聞こえ方は、あなただけのもの。 ぜひ、ご自身の耳と対話しながら、一番心地よいポジションを探してみてくださいね。
☕️まとめ
今回のお話をまとめると、以下のようになります。
わずか1mmのズレが音を変える: 耳の穴は小さな楽器のようなもので、イヤホンの位置が数ミリ動くだけで特定の音が強調されたりこもったりします 。
耳の形は「指紋」と同じ: 容積や長さなど、耳の穴の形は人それぞれ「世界に一つだけ」です 。そのため、「万人に完璧なイヤホン」は存在しません 。
自分だけの正解を見つける: 物理的な調整(ノズル交換など)やデジタル補正、オープンイヤー型での装着位置の微調整などによって、ご自身の耳に合った「スイートスポット」を探すことが重要です 。
音楽の聞こえ方は、あなただけのもの 。 ぜひ、ご自身の耳と対話しながら、一番心地よいポジションを探してみてくださいね 。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
NUARL公式LINEでは、音の科学にまつわるお話や、快適なオーディオライフのためのTips、最新情報をお届けしています。もし興味があれば、ぜひ覗いてみてください。
この記事が少しでも参考になった方は、ぜひ「スキ」と「フォロー」をお願いします!みなさんの応援が、次の記事を書く大きな原動力になります。✨
📚【参考文献】
挿入位置のズレによる音圧レベルの変化に関する研究: Souza et al. (2014). "Compensating for ear-canal acoustics when measuring otoacoustic emissions". The Journal of the Acoustical Society of America.
外耳道における1/4波長共鳴のメカニズム: Chasin, M. "The etiology of the REUG: Did we get it completely right?". Hearing Review.
