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【相棒】「ダークナイト」とは何だったのか

初めてリアルタイムで追いかけ始めた相棒はカイトくんでした。ダークナイトもリアタイし、しばらくは怒りと悲しみと喪失感に囚われました。
そこから今に至るまで約10年強、どうにか色々な解釈をして、完全ではないにしろある程度自分を納得させてきました。

以下は全て私の個人的な考えと解釈になりますが、ファンの間では語りつくされている内容もあるかと思います。文章も拙いです。

異論もあるのは重々承知していますが、素人ファンの考え方の一つだと思って温かい目で見て頂けると嬉しいです。
また、このnoteが誰かのご参考になれば嬉しいです。

⚠️以下ネタバレ注意⚠️

はじめに


願望を言うなら、カイトくんが若い刑事として右京さんの元で成長して、涙と笑顔で特命係を卒業し、次のステップに進む…という終わり方であって欲しかったです。
でもそうはならないのが相棒です。
特命係は「人材の墓場」です。カイトシーズンはその設定がまるでもう消滅したかのようでしたが、こんな形で急に、強烈なまでに思い出させてくるなんて。

ただ、カイトくんの闇堕ちエンド自体は、悲しいけど「ありえない」とは思いません。
(ただ、そこに至るまでの描写や説得力不足にうーんとはなります)
杉下右京の正義は劇薬であるということはシリーズを通して何度も描かれてきました。
カイトくんが暴走しがちで危うさがあることも、3シーズン中に描かれてきました。

カイトくんと他相棒との比較


●神戸尊
2代目相棒である神戸尊も「闇堕ち」とは違いますが、杉下右京の絶対的正義に影響されて過激な行動を取りました。危うく人殺しになることも厭わなかったという点で、ある意味カイトくんより思い切っています。

神戸尊と甲斐享の違いは、「純粋さ」「人生経験」ではないかと思います。

神戸くんも確かに右京さんの正義に焼かれた部分はありますが、神戸くんはすでに、これまでの清濁併せ持った経験値と確立された信念を持っています。
神戸くんは危うい行動をしたものの、「覚悟」がありました。間違っているとしてもこの選択をする、そしてその先の責任を全て自分が取る、という覚悟です。それは神戸くんの人として・警察官としての人生経験に裏打ちされたものだと思います。だからブレることがなかった。

神戸くんがそうなれたのは官房長の「正義の定義なんて、立ち位置で変わるもんでしょ」という言葉のおかげもあるかもしれません。右京さんの正義に必ずしも拘らなくていいし、右京さんのようにならなくてもいい、自分なりの正義で良いのだと神戸くんは知っています。
カイトくんの時に官房長がいたら、何かが違ったでしょうか。

いずれにしても、カイトくんはまだ若く経験が浅い所がありました。そして純粋すぎる所がありました。右京さんの正義を、何の防御力もなくモロに喰らってしまったと考えられます。

●亀山薫
純粋さで言うと初代相棒の亀山薫も当てはまります。亀山くんが特命係に配属された当時の年齢は34歳。29歳で配属になったカイトくんと年はそこまで大きく変わりません。
人生経験にそこまで大きな差はなかったかもしれません。まして初期の右京さんはカイトシーズンの時よりも苛烈な人物でした。
亀山くんとカイトくんは何か違ったのでしょうか。「賢さ」という点もあるかもしれません。しかし1番は、後述しますが、おそらく家庭環境です。
亀山くんはカイトくんのように裕福な家庭で育ちました。違うのは、亀山くんはおそらく愛のある家庭で育ち、健全で柔軟でしなやかな精神を持っています。カイトくんとそこが真逆だと思います。

●南井
ダークナイト後の無期限謹慎処分中に渡英した右京さんの、ロンドンでの相棒だった南井。彼もある意味右京さんに狂わされた1人です。
南井はカイトくんとかなり境遇が似ており、意図的にカイトくんを想起させたのではないかとすら思っています。
南井が初登場した回(S16-7)にて右京さんの回想シーンがありましたが、右京さんは南井に「僕も相棒を失ったばかり」と寂しそうな表情で言っています。
勿論これは時系列的にカイトくんのことを指します。
南井の回にカイトくんの存在を匂わせているあたり、偶然とは思えません。
カイトくんの直後に相棒になり、相棒喪失を分かち合った友人でもある南井を、カイトくんと似たような形で失うという悲劇的な結末を迎えました。(S18時点)

2人の共通点は
・純粋すぎる正義感を持つ
・子供時代の環境や境遇が良くない

この2つです。(もしかしたら「一定以上の賢さを持つ」もあるかもしれません。)
おそらく、このどちらかだけではなく、2つ揃っている人物に最も右京さんの正義の劇薬は直撃しやすいのではないでしょうか。
厳密には、南井は認知症などの要因もあるので全てがカイトくんと同じわけではありません。ただ、右京さんの光に当てられて狂わされたという所は共通します。
南井の存在は、カイトくんがダークナイトになったことへの補完のようでもあり、説得力が補強されたように思います。
カイトくんの時は自覚が無かったかもしれない右京さんも、南井を失った時にもしかしたら否が応でも自覚させられたのかもしれません。

ダークナイト二大要因


カイトくんがダークナイトになった要因について、主にこの「右京さんの劇薬」「家庭環境」の2つから想像(妄想)したいと思います。

家庭環境要因


先に、家庭環境の方を取り上げます。

カイトくんは警察庁次長(当時)の息子という一見良いところのお坊ちゃんです。しかし、父親の峯秋からは「失敗作」「身内の恥」のように扱われてきました。
東大に行って官僚になった優秀な兄がおり、兄と比べられていたようです。カイトくん曰く父は兄がお気に入りとのこと。父に従順な兄を見下していたそうです。
峯秋は東大至上主義者だったようですが、カイトくんは東大卒ではありません。
峯秋は警察官になったカイトくんを辞めさせようとして、(右京さんからのスカウトもあり)人材の墓場である特命係に送り込むのでした。
カイトくんは反骨心が強く、昔から常に父親に反発していました。母親・兄との仲は不明ですが、カイトくんから兄への感情は複雑そうですね。父親との仲は、冷え切っています。

甲斐峯秋は典型的な「毒親」であると言えます。
ただ、シーズンが進み、カイトくんが卒業した後の描写も含めると、峯秋にも正義やカイトくんへの愛情があったのだと分かります。
また、カイトくんも父親を憎むだけではなく、複雑な愛憎があったのだろうと察せられます。

相棒Season13 第19話「ダークナイト」

しかし、父親としてのあらゆる仕打ちは「実は愛情があった」で許されるものではないと私は考えています。(個人の意見です)
兄と比較され、失敗作扱いをされ、そうやって刷り込まれて生きてきたのだと思います。
表面上は真っ当に大人として生きていましたが、皮を剥げは、きっと満たされないままの孤独な少年がいたのかもしれません。

ダークナイトとして逮捕された後、カイトくんは取調にてこう語っています。
「ダークナイトに対する世間の賞賛は心地よかった」と。
これは、最も認めて欲しかった父親に認められなかったことが根底にある承認欲求が、極限まで肥大化してしまったのではないでしょうか。
それは麻薬のようにカイトくんを蝕んだのだと思います。

右京さんの劇薬要因


次に右京さんの正義という劇薬についてです。

カイトくんはそもそも持っている正義感は右京さんと近いと思います。
それは、情や圧力などに流されずに真実を求めること。
実際、初登場回であるS11-1「聖域」で右京さんと初めて出会った時のカイトくんは、とある真実を隠蔽することができず、葛藤し、行動しようとしている所でした。

でも、右京さんの苛烈なまでの絶対的正義をいついかなる時も貫くことは、常人にはなかなか出来ることではありません。というか私はほぼ不可能に近いと思っています。
特命係で過ごすうちにカイトくんは右京さんに憧れを抱き、右京さんを超えたい、右京さんに認められたいと思ったのでしょう。
しかし、理想と現実は違います。

カイトくんは元々正義感が強すぎて、理不尽な犯罪者に対する憎しみが人一倍強かったと思います。でも警察官としての理性で憎しみを抑え込んでいました。S11-6「交番巡査・甲斐享」等でその片鱗が見られます。

相棒 Season11 第6話「交番巡査・甲斐享」

どんなに右京さんのように真実だけを追い求めようと思っても、追い求めた先にあるのは理不尽な現実・悲劇的な真相。犯罪に走らざるを得なかった犯人。法で裁けない悪人。事件を解決したことで不幸になる人。
そんな結末がゴロゴロある中で、右京さんのように正気を保ちながら真実を求めるなど、若く純粋なカイトくんにはあまりに重すぎたのではないでしょうか。
追い求める理想と現実のギャップに、カイトくんは苦しんでいたのではないでしょうか。

カイトくんは、実の父親から得られなかった父性を右京さんで満たしている部分があると思っています。
成宮さんもインタビューでそう仰ってたことがあります。
右京さんもカイトくんも、そんなつもりは無かったと思います。
その一方で、右京さんは尊敬し信頼する刑事であり、到底超えることの出来ない巨大な壁でもあった。

「父に認められたい」感情を実の父親で満たせず、疑似的な父親である右京さんでも満たせず(少なくとも本人はそう思っていた)、その欠乏により拗れた承認欲求は行き場を失いました。

理想と現実のギャップ、純粋すぎる危うい正義感、肥大化した承認欲求。

この全てが合わさって、カイトくんはダークナイトになったのだと思っています。

厳密に言うと、親友の妹の仇を取ろうとした最初の犯行は、承認欲求ではなかったと思います。
承認欲求が関わるのは、それ以降の犯行になります。

もちろん成人後の罪ですから右京さんと甲斐峯秋が悪い!というわけではありません。カイトくんの罪はカイトくんだけのものです。あくまで、考えらえる要因として述べました。

右京さんはなぜ気付かなかったのか


ダークナイトへの批判の一つに「右京さんが気付かないはずがない」というものがあります。私も当初それは思いました。
右京さんはカイトくんを信じているから、というのは間違いなくありますが、別の角度からも考えてみたいです。

相棒Season13 第19話「ダークナイト」

まず、カイトくんの退勤後の動向を右京さんが把握していないのは仕方がないと思っています。
なので、右京さんが気付く手がかりは、一緒にいる時の様子のみです。
その上で、これは完全に妄想ですが、カイトくんは二重人格のようになっていた可能性はないでしょうか。
あるいは精神分裂気味だったかもしれません。
理想と現実のギャップ、純粋すぎる危うい正義感、肥大化した承認欲求、もしかしたら1件目の犯行への罪の意識──その苦しみが生み出した人格がダークナイトなのではないでしょうか。

多分輿水さんそこまで考えてないよ、と言われそうですが…でも妄想せずにはいられないのです。

現に、ダークナイト時のカイトくんは普段とは別人のようでした。人を痛めつけることに何の躊躇いもないような冷酷な様子でした。
それに近いような危うい雰囲気は以前にも何度かありましたが、比にならないと思います。

であれば、普段右京さんと一緒にいる時のカイトくんはダークナイト人格ではないのでいつも通りです。右京さんが気付かないのも無理はないのではないでしょうか。

そして最終的に右京さんが気付いたのはどうしてなのか。
ダークナイト回を最初から見ていると、カイトくんらしからぬミスがあったり、怪しまれるような言葉や雰囲気を右京さんに匂わせすぎているように見えました。

カイトくんは自分でダークナイトを止めることが出来なかったのだと思います。
麻薬のように取りつかれて、愛する女性(悦子)との間に子供が出来てもなお制御出来なかった。
であればもう、右京さんにしか止められません。
カイトくんは本当は止めて欲しかったかったのではないでしょうか。
それはやはり、子供が出来たから。そして恋人の病気の発覚。
右京さんに止めて欲しい。でも知られるのが怖い。そんな心境で葛藤していたのではないでしょうか。

そして右京さんに暴かれて、空港でお別れをした時、カイトくんは憑き物が落ちたかのようでした。

個人的に、カイトくんは心の治療が必要な状態だったと思っています。
専門知識がないので本当に想像でしかありませんが。ただ、精神的治療を行ったという描写は今後も無いとは思います。

右京さんは何故カイトくんを指名したのか


これは普通に考えたら、前述した通り、初対面の時に真実を隠蔽できなくて葛藤するカイトくんの姿を見たからでしょう。右京さんはそこに警察官としての素質を見出した。
S11-19「酒壺の蛇」にて、右京さんは甲斐峯秋に「(カイトくんは)警察官として1番大切な物を持っている」という旨の発言をしています。
それは純粋さであり、人のために行動できる真摯さなど、を指していると思われます。
指名したことは間違っていなかったと、半年間共に過ごして右京さんは結論づけました。

ただ、指名した理由は上記以外にもあると私は思っています。
大きく分けて2つです。

①亀山・神戸を経て変わったから


右京さんは最初は相棒などいらないと思っていたでしょう。
でも亀山くんが来て心を通わせ、その亀山くんが去った後に新しい相棒(神戸)を1度拒絶し、神戸くんと心を通わせ、最終的に「相棒っていいな」「相棒は1人じゃなくてもいい」という結論に至ったと推測しています。
また、2人と長期間過ごしたことでちょっと自信がついたのかもしれません。新しい相棒ともやっていけるだろうと。

では、それがカイトくんだった理由はなんでしょうか。真実への追求姿勢以外で挙げるとしたら。

②カイトくんの正義感が自分に近く、そしてとても危ういことを見抜いていたから


ではないでしょうか。
前述の通り、カイトくんが持つ正義感というのは右京さんのそれと本来似ています。
でも若く血気盛んすぎて危なっかしい面もあります。だから、自分の元で育てたかった。そう思ったのではないでしょうか。

あるいは、これは完全に妄想ですが、カイトくんが若い頃の自分に似ていたのかもしれません。
だから放っておけなかった、ということはないでしょうか。

そしてカイトくんは警察官として右京さんの下で大きく成長し、右京さんのピンチを助けることもありました。
結末はご承知の通りではありますが…

カイトシーズンの時「もう人材の墓場は死に設定じゃん」と思った人もいるのではないでしょうか。
そんなことないどころか、ダークナイトによって、これ以上ないほどに「人材の墓場」という設定が強化されてしまいました。
「相棒っていいな」と思えた右京さんが若者を育てようとした結果。こんな残酷な皮肉があるでしょうか。

右京さんがカイトくんを指名したのは間違っていたのでしょうか?

2人は相棒になるべきではなかったのか


ここまで色々書いてきたことを振り返ると、カイトくんは右京さんと出会うべきではなかったし、ただ未来が潰れただけのように思えます。
でも本当にそうでしょうか。
私はそうは思いません。
私はカイトくんは右京さんと出会って良かったと思っています。
カイトくんが純粋ながらも危うい正義感の持ち主であることは何度も述べました。
なら、カイトくんが出会ったのが右京さんではなく南井のような人間だったらどうなっていたでしょうか。

おそらく暴行では済まなかったでしょう。
洗脳され、人を殺し、自分も殺される、そんな最悪の結末を迎えていたでしょう。
そうでなかったとしても、右京さんと出会わずにいたら、いずれ暴走して自滅していた可能性が高いと思います。

右京さんの正義という劇薬はカイトくんを歪ませたように見えますが、実は違います。
劇薬もちゃんと薬だったのです。

相棒Season13 第19話「ダークナイト」

荒療治で痛みを伴う形にはなりましたが、右京さんの薬はカイトくんの危うさを治療することに成功したと思っています。
カイトくんは現在42歳で、この先の人生はまだ長いです。
長期的に見て、カイトくんのこれからの人生を救ったと私は信じています。

右京さんにはきっと、その自覚は無いとは思いますが。

さいごに


これを書いている2026年1月時点で「10年前の相棒」って誰だと思いますか。
冠城亘です。
10年前が冠城亘なんです。びっくりですよね。
ダークナイト放送から、カイトくん卒業から、もう10年以上経っている。その間、ずっと…というわけでもないですが、カイトくんの再登場を待ち望んでいました。

卒業後も数年に1回くらいのペースで、本放送でカイトくんへの言及がありました。話の流れ上必要ないと思われる所でも。
カイトくんを忘れない、カイトくんを待っている、そんな制作陣からのラブコールだと私は受け取っています。カイトくんはすごく愛されていると感じます。

そしてここ2年ではカイトくん関連で最も大きな動きがありましたね。
S22-10「サイレント・タトゥ」で悦子さんと子供のその後、そして甲斐家とカイトくんの現在が本人不在で描写されました。
S24-10「フィナーレ」では、ダークナイト事件とカイトくん時代の事件に触れられました。また、カイトくんが出所間近だと明かされました。

少し毛色が違いますが、S21-19「再会」にて、夢か現実か不明という不思議な世界観の中、右京さんは歴代相棒のそっくりさんと出会います。
その中の1人である若者と会話をし、彼が「享」と名乗った時の右京さんの表情は胸に来るものがありました。
「神戸」「冠城」のそっくりさんの時とは明らかに反応が違うのです。

サイレント・タトゥでも描かれたように、ダークナイトは右京さんに暗い影を落としました。
カイトくんに代わって悦子さんと息子の桔平くんを気に掛けていることからも、カイトくんへの愛情と責任をずっと感じていたのかもしれません。

当然ではありますが、カイトくん喪失の傷は、運命の初代相棒である亀山くんが帰還してもなお癒えることはありません。

右京さんもカイトくんも、お互いによってのみ救われるのだと思います。

右京「しかるべき時が来れば、また会えますよ」
享「また会ってもらえるんですか」
右京「もちろん。2人はまだ途中じゃないですか。待っています」

相棒Season13 第19話「ダークナイト」


約10年、この右京さんの言葉に縋ってきました。
なんて優しくて切なくて、希望のある言葉でしょうか。
しかるべき時がきっと近づいています。
右京さんとカイトくんの時間が再び動き出す日はもうすぐのはずです。

カイトくんは塀の中で何を考え、どう生きていたのでしょうか。知りたいことは尽きませんが、今はただ、待っています。

お読み頂きありがとうございました。

なつめ

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