見えているのは、ほんの一部
同僚がふいに話し始めた。
彼女の言葉がショッキング過ぎて、
なぜそのような話になったのか、
前後の記憶がない。
明るくて、気が利いて、いつも親身になってくれる彼女。
異動してきて、すぐに周りに溶け込んだ。
いつも笑顔で、誰からも愛される。
そんな人である。
彼女はこう言った。
「わたし、中学生のころ、一年間いじめられてたんです」
全くそんなふうには見えない。
同じ部活の中で、無視されていたのだそうだ。
クラスに戻れば、話しかけてくれる友達もいた。
けれど、いじめてくる子が、あることないこと吹き込んで、そのうち誰も周りにいなくなった。
どこに行くにも一人だった。
それでも、部活も、学校も一日も休むことなく行ったのだそうだ。
わたしはそのとき、自分がどんな顔をしていたのか、どんな相槌を打ったのか、まるで記憶にない。
ただ、彼女の話を聞いていた。
今の彼女からはどうしても想像できなかった。
わたしは、彼女が大好きすぎて、4歳年上ということも忘れ、つい軽口をたたいてしまう。
それを彼女は笑って返してくれる。
それでも、わたしが夫のことや息子のことを話すときは、いつも真剣に聞いてくれた。
思えば、上司以外で夫の休職について話をしたのは、彼女だけだった。
「大変やったんやね」
と、かけてくれた短い言葉に、
涙が出たこともあった。
言葉だけじゃない温かさみたいなものが、
なんだか伝わってきて、
出会ってすぐに好きになった。
時間はかからなかった。
まだ出会って3ヶ月しか経っていない。
「痛みを知っているから、人の痛みが分かる」
そんな、どこかで聞いたようなことを、思い出した。
優しい人にも。
明るい人にも。
輝いて見える人にも。
わたしからは見えていない時間がある。
見えないからこそ、知りたくなる。
まだ知らないから、話をしたくなる。
話してくれたら嬉しい。
話してくれなくても、覚えていたい。
人は、見えている姿だけが、その人の全部じゃない。
わたしが見ているのは、ほんの一部。
見えてはいない「そんなふう」が、
誰にもある。
あぁ、だから。
わたしは、もっと知りたいと思ってしまうのかなぁ。
知れば知るほど、
好きになってしまうなぁ。

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