はなうた地獄変 【毎週ショートショートnote:#フフン賞】
今年もまた「父の日」という名の、忌まわしき時期がやって来た。俺は「父の日」などというものを考えた人間を恨まずにはいられない。
六歳になる娘が、プレゼントとして無邪気な笑顔とともに俺に差し出してきたのは、『フフンしょう』と書かれた手作りの紙切れ、いや、スタンプカードである。これはすなわち、毎年恒例となった、娘による「はなうた十回分」の『フフン賞』を俺に贈呈するという、一方的かつ理不尽極まりない権利行使の宣言なのであった。
いや、もちろん、娘からのプレゼントであることは嬉しいに違いない。であるのだが、そもそも「はなうた」とは何ごとなのか。ここは「肩たたき券」とか、そういうものであるべきではないのか。それを「はなうた」って。
その脱力した語感とは裏腹に、実態は夜な夜な枕元で展開される精神修行に近い。なぜならば、娘の「はなうた」は、絶望的にヘタクソなのだった。音程などという概念は娘の鼻腔を通過すると木っ端微塵に粉砕され、枕元で展開される「フフン…フフフフン…」という湿った音は、もはや音楽ではなく、怨念のこもった磁気嵐のようだった。
その不気味な旋律が耳の穴に滑り込むたび、俺の脳内では不条理な地獄絵図が上映される。巨大な洗濯機の渦に飲み込まれたり、人の背丈ほどもある鼻毛に絞め殺されそうになったり、娘の「はなうた」ととも眠りに就いた夜は、必ずといっていいほど悪夢にうなされ、脂汗を流して跳ね起きることになるのだ。
そして、朝になれば、娘は「パパ、よく眠れた?」と、混じりけのない天使のような笑顔を向けてきて、俺は震える声で「うん、よく眠れたよ」と顔を引きつらせながら答えるのだ。
これが我が家の「父の日」恒例の光景で、なので俺は「父の日」というものを考えた人間を恨まずにはいられないのである。
(written by sakai_tama )
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