マレーシア・ペナン島の結婚披露宴③ 《旅》
ネットのオフ会のような結婚披露宴は、無事に終わった。
幸せのおすそ分けっとほんとなんだなと思った
気持ちがホカホカする
―お幸せに。
そしてホテルに帰ってきた。
すると、一緒に行った従業員が、
みんなに自慢げに
節をつけるようにして言った。
「か・わいかったよーーーー」
あんなに嫌がっていたのに、すっかり異文化交流で高揚している。
でも、そのあとでこう言った。
「でも、あやうく壁の花になるとこやったわ」
それを聞かされた受付嬢
この受付嬢は有名私立大出の才女で、いちばん年下なのに、
きつくてはっきりしていて、なんとなく発言権も強い。
「壁の花って、なにさ」
僕もその言葉を知らなかった。
どうも、パーティーで見向きもされない女性のことらしい。
一緒に行った従業員も実は、日本からの来客ということで、十分に注目を浴びていたことは自分でもわかっていたのだろう。
それにまして、
午前にデパートでちょっとかっこよくチューンナップしてきたことに、ご満悦だったのだと思う。周りの人に負けないように気合い入れたでって感じで。
それから、みんなで、街に繰り出すことにした。
ホテルの目の前には、お土産物屋や小物屋、レストランなどが並ぶ、ちょっとした繁華街があった。ぶらぶらと買い物して時間をつぶし、そのごレストランに行くことに、
お目当てのレストランは、徒歩で二十分ぐらいのところ。
せっかくマレーシアに来たので、トライショーで行こうかってなった。
五人いたので、ほんとは三台いるけど三台も呼ぶのめんどくさい。
一台に三人、もう一台に二人という、やや無理のある乗り方で、
なんとか二台で行くことに。
さっそく交渉になる。
トライショーの運転手が言った。
「○○リンギット」
相場より高い気がした。
「△△リンギットでは?」
そう返すと、運転手が言う。
「三人だから、しんどいよ。足、痛いよ」
とさもしんどそうに足を指して泣き言をいう
すると、才女の受付嬢が、日本語で冷たく言った。
「それがお前の仕事やろ」
なんか知らんけど、その迫力が通じたのか、△△リンギットで行けることになった。
気の強い従業員
諸刃の剣やね。
おそろし。
そして、その珍事件は、
その日の夜、起こった。
食事から帰ってきて、寝る前に入浴も済ませて、そのあと部屋飲みでもするか、って感じになった。
従業員と母の部屋が会場。
ぼくが部屋のお風呂に入ろうとすると、なんとも調子が悪い。
そこで、従業員と母の部屋で入らせてもらうことに。
僕は男で烏の行水なので早いから、先に入って、そのあとゆっくり飲んでよ、と思った。
なんか従業員はトイレに行きたいみたい。
「ちょっと待って。大人の事情があるから」
何となく察して、部屋に着替えとタオルを取りに戻りつつ、十分ほど待機。
夕食、辛かったもんな。
そして、ゆるりとタオルと着替えを持って戻った。
従業員はすっきりした顔。
「じゃ、入るで」
と言って、風呂場に向かう。
ふーん、こんな風呂場ねえ。
と、ユニットバスを横目に服を脱ぐ。
汗だらけ。
よし、入ろう。
と思ったとき、
「ぎゃーーーーーー」
という大きな声が。
そして、
どんどんどん
という激しいノックが。
はああああ?
ちょっと待って、いま脱いだ服を着るから、と言おうとして、少しドアを開けたら、それを押しのけて従業員が乱入。
ぼくは一糸まとわぬ姿でドアと壁のあいだにはさまれた。
彼女は一目散にユニットバスのほうに突進し、そして
「じゃーーーーーーーーー」
と、ブツを流す音が。
彼女はすごい勢いで出ていった。
「失礼しました」
無礼にもほどがあるわ。
そして次の日。
せっかくビーチリゾート地に来たので、らしい体験をしようということで、パラセーリングをすることになった。
彼女たちは大はしゃぎ。
ぼくは、そんな子どもの遊びみたいなことはできないよな、という大人ぶったかっこつけで、
「行っておいで」
と見送る側に回った。
みんな順番にパラセーリングを楽しむ。
高いところが怖いっていう受付嬢が最後で、
最初は全然平気そうな人から。
それをみんなで見る。
へえ、そんな高く上がるんや。
けっこう爽快で楽しそう。
帰ってきた人が言う。
「意外と高いし、こわいで」
高所が若干苦手な子は、微妙な顔。
そして次の人へ。
次の人も、同じような意見。
見ているだけでも楽しそうだった。
最後に、多少高所恐怖症気味の才女。
遠くから聞こえる。
悲鳴と歓喜のあいだのような大声。
騒ぎすぎやろ、って感じ。
怖そうだった顔が、高いところで一瞬ピークになった。
しかし、そのまま飛行が続くと、徐々に恐怖の表情は消える。
たぶん上空の多少涼しい風で、とても爽快なんだろうな。
空を飛ぶって、人間にはできないし。
遠目なので表情があまりよく見えない。
だんだん高度が下がってきたときに、顔が見えた。
あのきつい才女が、なんて無垢な顔をしてるんだろう。
それは、初めて飛んだ雛のような初々しさとすがすがしさ。
希望に向かって飛び出した、って感じ。
気持ちよさそう
そして
それに同化するように
その空気を、僕は大きく吸い込んだ。
