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図書館は戦略室、学園祭は本気の実験場。超進学校の野球部員が見た「甲府学館」の正体。

※甲府学館の物語は全てフィクションです。


冬休み明けの静寂が残る校舎を訪ねた。 
テーマは「超進学校で野球をする意味」「野球部員から見た甲府学館とは?」
応接室に集まったのは、主将の高橋歩(2年)、今井竜太(1年)、松岡龍星(1年)、マネージャーの野山友羽(2年)、玉野こころ(1年)、宮川絵菜(1年)の6人。  
統括リーダーの斉賀藍乃は部活動代表者ミーティングで不在だが、この6人の言葉から、この学校の驚くべき実態が見えてきた。

1年生の今井竜太(左)と松岡龍星

「勉強しかできない」という偏見を笑い飛ばす

ライター(以下、ラ):「本日はよろしくお願いします。早速ですが、甲府学館ってどんな学校でしょう? 外から見ると『勉強ばかりしている』というイメージがありますが」
高橋歩:「よく誤解されるんですけど、甲府学館は『勉強しかしない人』の集まりじゃないんです。むしろ、『勉強もできて、何か他にも打ち込んでる人』が多い。今野遼太郎は文系学年1位ですが、東大を目指しながら、野球部では安打製造機で、部の規律を正してくれる頼れる副主将です。文芸部長は全国模試の上位常連で、小説家として新人賞の最終選考に残る。そんな奴らがゴロゴロいます」
松岡龍星:「僕のクラスメイトには、数学オリンピック県代表ながら、放送部でアナウンスもやって、文化祭の後夜祭で司会までこなす人もいます」
野山友羽:「生徒会長の先輩は、理系で医学部志望なんですが、ディベート大会で全国出場してます。論理的思考力が半端なくて、生徒総会での説得力がすごいんです」
今井竜太:「甲府学館の人たちって、『一つのことだけ』じゃ満足できないんです。勉強だけ、部活だけ、じゃなくて全部本気でやりたい。それがここでは普通なんです」

ラ:「それが一番爆発するのが、年に一度の『学館祭』だと聞きました」
宮川絵菜:「そうなんです!東大や医学部、海外の有名大学にも生徒を輩出する進学校なので『勉強ばかり』と思われがちですが、学館祭は本気度が違うんです」

玉野こころ:「学館祭は前日の前夜祭から始まって、2日間の文化祭、最終日の体育祭、そして夜の後夜祭まで。計4日間、準備期間は3ヶ月。みんな部活や勉強と並行しながら、本気でクオリティを追求します」
野山友羽:「文化祭の出し物も、各クラスが本気すぎるんです。私たち2年A組は『AI顔認証システムを使った脱出ゲーム』を自作して、プログラミングから空間演出まで全部自分たちで組み上げました」
今井竜太:「僕たちのクラスは『経済学で読み解く学園ドラマ』という演劇をやりました。恋愛や友情を行動経済学の理論で分析しながら進むストーリーで、笑えるけど知的好奇心も刺激される内容を目指しました」


松岡龍星:「僕のクラスは『物理法則体感アトラクション』遠心力や慣性の法則を体で感じられる装置を設計図から起こして製作。安全基準の計算も全部自分たちでやりました」
高橋歩:「各部活の発表も本格的です。生物部は『甲府盆地の生態系調査』の研究発表、化学部は『色が変わる化学反応ショー』で、pH指示薬や酸化還元反応を使った演出を実演。理科の江平先生が『反応速度の制御まで計算しているのか!』って驚いてました」

宮川絵菜:「野球部も『セイバーメトリクスで見る甲子園』という展示をしました。野山さんが独自に開発した分析手法で、過去10年の甲子園データを可視化しました。選手にはオファーが来ていませんが、野山さんが野球の強豪大学から勧誘されるようになりました」
野山友羽:「文化部も本気です。放送部は学館祭のドキュメンタリーを制作して地元テレビ局に取材されたし、美術部は『現代アートと古典技法の融合』をテーマにした展示で、美大の先生を唸らせました」
高橋歩:「夜の後夜祭がまた圧巻で。3年生が制作した15分の映像作品が上映されるんです。3年間の思い出と、後輩へのメッセージを込めた作品で、毎年かなり多くの人が泣きます」
松岡龍星:「そして最後のキャンプファイヤー。3年生中心の旧生徒会から2年生中心の新生徒会へ、学館の伝統を象徴する松明が手渡される。あの瞬間が1番感動します」

高橋歩:「学館祭って、単なるお祭りじゃないんです。自分たちの知識や技術を、人を楽しませることに使う。受験勉強で培った力を、別の形で発揮する場なんです」
玉野こころ:「だから終わった後の充実感がすごい!『こんなこともできるんだ』って、自分の可能性が広がる感覚があります」
宮川絵菜:「学館祭は、普段見えない一面を見せ合う場でもあるんです。数学が得意な人がクラシックピアノを披露したり、文系の人が化学実験を仕切ったり。みんな多面的なんだって再確認できます」
玉野こころ : 「私は、普段いつも本を読んでておとなしい絵菜ちゃんがダンスを披露したシーンが1番記憶に残っている!絵菜ちゃん多面的だね!!」
宮川絵菜:「こころちゃんのたこ焼きは大人気でしたね!たこ焼きなのに栄養バランスが計算されていて、味まで美味しいという優れものでした」

取材時、渡された写真は、なぜかたこ焼きを焼いている場面だった。展示だけではなく、たこ焼きを売り遠征費を稼ぐのも伝統なのだとか。今回は玉野こころマネージャーが監修した栄養バランス完璧たこ焼き!が大好評に

「自由時間は1日30分」─密度という名の魔法

ここで、毎日8時限分の授業を受け、帰宅後も自主学習必須という甲府学館生の生活の話に戻る。

ラ:「でも、それってかなりハードじゃないですか?」
野山友羽:「確かにハードです。でも、甲府学館の生徒は『時間の使い方』が上手なんです。私、一応理系で学年1位なのですが、これが私の1日です」
野山がスマホのカレンダーを見せてくれた。

【野山友羽の1日】
朝5時起床、6時半登校朝自主練のサポート。授業は16時半まで。部活は18時半まで。帰宅後、19時から21時半まで勉強。22時入浴、23時就寝。

野山友羽:「自由時間は1日30分くらい。でも、この30分で動画を見たり音楽を聴いたりしてリフレッシュする。慣れると『無駄な時間がない生活』って、意外と快適なんです」
玉野こころ:「私も最初は無理だと思ったけど、周りを見たらみんな同じ。むしろ『時間がないから、今やらなきゃ』という締め切り効果で集中できる」
宮川絵菜:「5分、10分の『隙間時間の活用』が本当に上手。電車、休み時間、昼休み。良い意味での『同調圧力』がありますね」

野球部員にも、バスの待ち時間にスクワットをしながら英単語を覚え、本塁打数を増やしている1年生がいるとか。

取材を受けるマネージャー3人

甲府学館のここがキツい─理想の裏にある現実

しかし、取材を進める中で、彼らの表情が一瞬曇る瞬間があった。
ラ:「正直に聞きます。この生活、キツくないですか?」
今井竜太:「……めちゃくちゃキツイです。睡眠時間は平日5時間がいいところ。週末にまとめて寝ようとしても、練習や試合が入る。この前、帰宅後に玄関で寝てしまいました」
松岡龍星:「僕も夏の終わりに、本気で潰れかけました。勉強も野球も中途半端で、どっちも結果が出ない。『何やってるんだろう、俺』って、布団の中で泣いたこともあります」
高橋歩:「『甲府学館生なんだから』っていう周囲の期待が、時々重荷になります。勉強も野球も頑張ってるのが当たり前の環境だから、『普通に頑張ってる』だけじゃ評価されない。たまに『もっと気楽に生きたいな』って思う瞬間はあります」
玉野こころ:「授業も、『予習済み』前提で進むから、一度遅れると焦ります。先生の話にみんなが笑ってる時に『え、何が面白いの?』ってなる瞬間、めちゃくちゃ惨めです」
野山友羽:「私も最近、データ分析と受験勉強でパンクしかけました。締め切りに追われて、睡眠時間3時間の日が1週間続いて。『もう無理』って思いました」
宮川絵菜:「学館祭の準備も、『甲府学館なんだから、このレベルじゃダメでしょ』って言われて。プレッシャーで押し潰されそうになったことがあります」

ラ:「それでも、辞めなかった理由は?」
高橋歩:「……不思議なんですけど、『辞めたい』って思った次の日には、また『やっぱり続けたい』って思ってるんです。キツイけど、それを上回る充実感がある」
今井竜太:「それに、弱音を吐ける仲間がいる。『キツイよね』って共感しあえる。一人で抱え込まなければ、なんとかなるって分かってるから」
野山友羽:「完璧な楽園なんかじゃないです。みんな、ギリギリのところで踏ん張っている。でも、その先に見えるものがあるから、続けられるんだと思います」

専門領域を越境する「面白すぎる先生たち」

近年、甲府学館は教育の質を根本から変えようとしている。その核となるのが、教師陣の大胆な刷新だ。
「教科書を教える」従来の教師像を超え、実社会で培った経験と専門性を持つ人材を、次々と教壇に迎え入れている。

ラ:「先生方もかなり個性的だと聞きました」
松岡龍星:「めちゃくちゃ面白いです! 数学の吉岡先生は授業中、突然『この問題、実は未解決問題のリーマン予想と関係がある』って話し始めて、完全に脱線する。でもそれが最高に面白い」

今井竜太:「英語のクラーク先生は元BBCジャーナリストで、授業で『イギリスの階級社会と英語の関係』を実体験ベースで語ってくれます。同じ英語でも、階級によって発音や語彙が違うって。教科書には載っていないリアルな話ばかりです」

高橋歩:「国語の山村先生は元広告コピーライターです。『この一文がなぜ心に刺さるのか』を言葉の選び方や語順から徹底分析する。現代文が感覚じゃなくて技術だって分かる授業です」

野山友羽 : 「物理の江平先生は元エンジニアで、『俺が新人の時、この公式を誤解してとんでもないことになった』って実体験を語り出す。理論と実践のギャップが分かって、公式の本当の意味が腑に落ちます」

ラ:「野球部の指導陣も負けていないとか?」
野山友羽:「数学教師でもある荒井和史部長は、『数学の美しさ』を教えてくれる人。私がデータ分析を始めた時も、放課後に統計学の基礎を教えてくれました。先生の指導がなければ、今の分析システムは作れませんでした」
高橋歩:「荒井部長は練習中に『配球は確率論と回帰分析だ』って数式を使って説明してくれるんです。半分くらいしか理解できなかったですが(笑)野球と学問が繋がっている実感がありますね」

今井竜太:「社会科の松尾隼之助コーチも面白いですよ! 投手経験者ですが、大学と大学院で歴史を専攻していたので、ミーティングで『投球フォームの歴史』を30分熱弁して、監督に止められてました(笑)」
松岡龍星:「でも、『日本の野球には武道の精神が入っているから礼儀を重んじるんだ』という歴史的背景を知ると、野球の見方が変わるんです」

甲府学館では、授業の目的が他校とは根本的に異なる。通常の高校が「内容を理解させる」ことを目指すのに対し、甲府学館は「思考の解像度を上げる」ことに重きを置く。
例えば数学では、問題が解けることは当然の前提で、「なぜこの公式が成立するのか」「別のアプローチは存在しないのか」を徹底的に掘り下げる。国語では、正解を出すことより「なぜこの表現が選ばれたのか」「作者の思考プロセスはどうだったのか」を分析する。甲府学館の授業は、知識を教える場ではなく、考える筋力を鍛える場所だ。

図書館という名の「戦略室」と、「変人」への敬意

ラ:「環境も特別なんですね」
野山友羽:「図書館は異常に充実しています。蔵書8万冊。私はここにある大学レベルの専門書を借りて、プログラミング言語の『Python』や『機械学習』を独学しました。部員の打球角度やスピン量をデータ化し、対戦相手の配球傾向をアルゴリズムで解析するためです。司書の先生も協力的で、最新の統計学の本が入ると真っ先に教えてくれます」

マネージャー陣の「学び」は、スコアをつけるだけにとどまらない。

玉野こころ:「私は『分子ガストロノミー(分子調理学)』や『アスリートのためのスポーツ栄養学』をここで読み漁りました。ただの食事制限ではなく、科学的根拠に基づいた『最も効率的に筋肉を合成する補食レシピ』を開発するためです。図書館で調べた知識を、たこ焼きの具材の配合にまで応用しています(笑)」
宮川絵菜:「私は『認知行動療法』や『スポーツ心理学』の棚が定位置です。試合中の極限状態でのメンタルケアを、根性論ではなく脳科学的なアプローチでサポートしたい。選手への声掛けひとつとっても、『今のタイミングなら、この心理的効果を狙った言葉がベストだ』という根拠を、図書館の文献から得ています」

野球部専用の「予約棚」には、野球技術の本ではなく、物理学、統計学、生理学、そして歴史学の分厚い学術書が並ぶ。

野山友羽:「それに、図書館には『ラーニングコモンズ』っていうスペースがあって、グループ学習ができるんです」
「私たちマネージャーも、よくそこで会議をします。ホワイトボードもあるし、プロジェクターもあるし、設備が充実してます」

今井竜太:「最初は驚きました。先輩たちがノートパソコンと数冊の専門書を広げて、ホワイトボードを数式で埋め尽くしながら『次戦の攻略法』を議論しているんです。まるで大学の研究室。でも、そのロジックがあるからこそ、僕たちは迷いなくプレーできるんです」
高橋歩:「僕たちは、練習時間では他校に負けるかもしれない。でも、この『戦略室』で練り上げる情報の解像度だけは、どこにも負けない自信があります」

知性が、バットとボールに魂を吹き込む。甲府学館にとって、図書館は静かに闘志を研ぎ澄ます「もう一つのトレーニングルーム」なのだ。

今井竜太:「あと、ここは『変人』が許容される。電車の時刻表を全国の主要路線の物を全暗記してる奴も、生物の先生の昆虫の説明にダメ出しする昆虫マニアも、みんな『それ、面白そうじゃん!』って認めている。だから自分らしくいられるんです」
松岡龍星 : 「学館祭でそれが一番よくわかります。普段は静かな理系の子が、突然『化学マジックショー』で大観衆の前でパフォーマンスをしたり。誰もが自分の『好き』を全開にできる場なんです」

「なぜ?」を問い、失敗を資産にする

ラ:「そうした知的な姿勢は、プレーにも影響しますか?」
野山友羽:「『なぜ?』を考える習慣がつきました。例えば打率が下がった選手がいたら、『調子が悪い』で終わらせない。スイング軌道が変わったのか、狙い球を読まれているのか、データから仮説を立てて検証する。数学の証明と同じで、『なぜこの数値が出たのか』を考えないと、本質的な改善策は見えてこないんです」
高橋歩:「昔は練習メニューに『はい』と従うだけでした。でも今は、『この練習は何を鍛えるためなのか』『試合のどの場面で活きるのか』を全員が理解している。目的が明確だから、練習の質が全然違います」
松岡龍星:「ミーティングでも、『このトレーニングはなぜ有効なのか』をデータと理論で説明してもらえる。納得しているから、実行する時の集中力が違うんです」

ラ:「失敗した時は?」
松岡龍星:「練習試合で僕がエラーして逆転負けした時、ベンチに戻る足が震えました。でも高橋主将は怒鳴らずに『どうした?』って聞いてきた。『打球の回転を見誤りました』って答えたら、『じゃあ次は打球の回転を意識しよう。今日のプレーを動画で一緒に見直そう』って。責めるんじゃなくて、一緒に改善策を考えてくれたんです」
今井竜太:「僕も最初の2ヶ月、全然打てなくて。『才能ないのかな』って思ってた時、野山さんがスイングの動画とデータを見せてくれて、『バットの出方は悪くない。あと少し始動を早くして、5センチインパクトの位置を前にできたら確実にヒットになる』って具体的に言ってくれた。抽象的な『頑張れ』じゃなくて、『ここを直せば打てる』っていう明確な指針をもらえた。それから毎日意識して練習して、夏の大会で初ヒットが打てた時、諦めなくて良かったと心から思いました」
高橋歩:「上手くいかなくても、『なぜ上手くいかないのか』と『次にどうするか』を言語化できていれば、責められることはない。でも逆に、失敗の理由を考えずに同じミスを繰り返したり、改善策を持たずに『すみません』だけで終わらせようとすると、厳しく問い詰められます。『考えること』を放棄するのが、ここでは一番ダメなんです」
野山友羽:「『失敗は恥じゃない、でも無思考は恥』それが暗黙のルールになってますね」

伝統を「受け継ぎ」、そして「創る」

ラ:「野球部復活2年目。先輩がいない中でのチーム作りは大変だったのでは?」
高橋歩:「正直、最初は手探りでした。でも柏村監督が言ってくれたんです。『君たちは伝統を受け継ぐんじゃない。伝統を作るんだ』って」
ラ:「伝統を、作る……」
高橋歩:「はい。先輩がいないことは、過去のやり方に縛られず自分たちで最適解をゼロから作れる強みなんだと。それで僕たちは話し合って、『考える野球』『データを活用する野球』『時間を無駄にしない練習』を選びました。これが僕たちの創る新しい文化です」

ラ:「では、かつての伝統は途絶えてしまったのですか?」
高橋歩:「いえ、違います。『全員が当事者意識を持って気付いたことはすぐに言い合うこと』『挨拶や礼儀』『視野を広げること』『学年に関係なく全員で準備や片付けをすること』これらは、会ったこともない先輩方から確かに引き継いだ伝統です。不変の精神は守り、その上に新しい文化を積み上げているんです」

高橋歩主将

卒業生が「後輩のために帰ってくる」場所

ラ:「その『会ったこともない先輩』たちとの交流はあるのでしょうか?」
玉野こころ:「はい! 卒業生が本当によく帰ってくるんです。この前も東大に進学した先輩が来て、面識のない私たちに受験勉強の方法を教えてくれました」
野山友羽:「私が図書館でデータ分析の本を読んでいたら、大学生の卒業生が『僕も大学でデータサイエンスやってるよ。その本の次はこれ読むといい』って3冊も推薦してくれて。初対面なのに『甲府学館の後輩だから』って30分も質問に付き合ってくれました」
ラ:「卒業後も、学校との繋がりが強いのですね」
野山友羽:「卒業後も図書館や自習室などの施設が使えるということもありますが、それ以上にみんな甲府学館が『良い学校だった』と思っているから帰ってくるんだと思います。『ここで学んだことが、今も自分の土台になってる』って言う先輩が多いです」

宮川絵菜:「野球部にも、活動休止前のOBの方が時々来てくれます。社会人の方々ですが、『野球部が復活して嬉しい』って。俺たちの時代はこうだった、この練習は効果的だよ、とアドバイスをくれます」
高橋歩:「先日も30代のOBの方が来て、『限られた時間で結果を出す力は社会人になっても必要だ』と。先輩がいない2年目の僕たちにとって、その言葉は本当にありがたかったです」
今井竜太:「別のOBの方は、『甲府学館で学んだのは、知識じゃなくて学び方だった』と言ってました。『大学でも、順調に学び続けられるのは、ここで”どう学ぶか”を叩き込まれたから』だって」
玉野こころ:「野球部とか、学年とか、文系理系とか、全部関係ない。『甲府学館の仲間』っていう繋がりだけで、全力で支えてくれる。そんな文化が、ここにはあります」

筆者の目:取材を終えて

最後に「あなたたちにとって甲府学館とは?」と問うと、彼らは「可能性」「挑戦」「仲間」「好奇心」「自分らしさ」「居場所」と答えた。
甲府学館は、「ただ勉強ができる人」が集まる学校ではない。
「本気で何かに打ち込みたい人」が集まり、互いの個性を認め合い、伝統を更新し続ける場所なのだ。

取材の最後、数学教師で野球部部長の荒井和史先生に「なぜこの学校の生徒は、こんなにも輝いているのか?」と尋ねた。
先生はグラウンドを見つめながら、静かにこう答えた。
「彼らが特別なんじゃない。人間は本来、こうなんです。知りたい、挑戦したい、成長したい。その欲求は、全ての若者が持っている。ただ多くの場合、『無理だ』『どちらかを選べ』という声に潰されてしまう。この学校は、その声を消しているだけです。『できる方法を一緒に考えよう』と言い続けているだけなんです」

「勉強も、野球も、遊びも全部本気で」
そのシンプルで過酷な道を、彼らはこの上なく楽しそうに、そして誇らしげに歩んでいる。
果たして、これは「特別な進学校」だけの物語なのだろうか。
野山のデータ分析も、今野の文武両道も、高橋のリーダーシップも。
それらは「天才」の特権ではなく、「環境」と「本気度」が生み出したものだ。

日本中の高校に、第二、第三の甲府学館が生まれる可能性はある。
必要なのは、「諦めさせない文化」と「挑戦を支える仕組み」、そして「本気で向き合う大人」だ。
校門を出る時、振り返ると、教室の明かりとグラウンドの照明が、同じように輝いていた。
あの光の下で、今日も誰かが「なぜ」を問い、誰かが「次」を目指している。
それは、日本の教育の、一つの理想の形だった。
そしてそれは、決して手の届かない理想ではないのだと、彼らが証明していた。

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