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『殺されるまで、待ち続けた#1』

第1話

姉は、最後に知らされる

電話が鳴ったのは、
昼過ぎだった。

カフェは、
ちょうど
一段落したところだった。


「小野寺さんでしょうか」

低い、
落ち着いた声。

名乗りは、
なかった。


「弟さんのことで、
 お話があります」

その一言で、
嫌な予感は
形を持った。


「事故、
 ですか」

問いは、
自分のものとは
思えないほど
遠かった。


「……亡くなっています」

相手は、
感情を
含ませなかった。


真琴は、
カウンターに
手をついた。

立っていることを
忘れそうだった。


「警察署まで
 来ていただけますか」

「今から」

「できれば」


電話は、
それだけで
終わった。


店を閉める理由を、
誰にも
説明しなかった。

シャッターを下ろし、
鍵を回す。


外は、
いつもと同じ
午後だった。


警察署の会議室は、
静かだった。

机と椅子。
それだけ。


向かいに座った男が、
名刺を出した。

鷹宮直人。

刑事だった。


「弟さんは、
 自宅で
 亡くなっていました」


それ以上、
余計な言葉は
なかった。


「事件性は
 あるんですか」

真琴は、
自分でも
驚くほど
冷静だった。


「現在、
 調べています」

それだけだった。


弟の名前が、
何度か
口にされた。

聞き慣れたはずなのに、
どこか
他人の名前のようだった。


「今は、
 ご遺体との
 面会は
 できません」


真琴は、
頷いた。

理由を
聞く気力は
なかった。


警察署を出ると、
空が
やけに
高かった。


弟は、
一つ下だった。

近すぎず、
遠すぎず。


毎週のように
会うわけでもない。

それでも、
いなくなるとは
思っていなかった。


カフェに戻ると、
店内は
昼の匂いが
残っていた。


椅子を
一つ、
元に戻す。

それだけで、
涙は
出なかった。


閉店の札を
裏返す。

それから、
何もせず
立っていた。


夜になって、
再び電話が鳴った。


「改めて、
 お話を」

鷹宮だった。


「現場は、
 現在も
 確認中です」


「……弟は、
 一人でしたか」

「室内に、
 他人の痕跡は
 見つかっていません」


真琴は、
それを
信じたかった。


「ただ」

鷹宮は、
一拍
置いた。


「部屋は、
 内側から
 施錠されていました」


「密室、
 ですか」

「結果としては」


それ以上、
説明は
なかった。


電話を切ったあと、
真琴は
椅子に
座り込んだ。


弟は、
一人で
死んだ。

鍵のかかった
部屋の中で。


それだけが、
事実だった。


なのに、
胸の奥に
小さな
引っかかりが
残った。


理由は、
まだ
分からない。


ただ、
その夜、
眠れなかった。

――第1話

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