天から来るもの
🏖️ 第1話
「夏だ!」
ちまが両手を大きく広げ、るいに向かって満面の笑みで言い放った。窓の外からは、早くもジリジリと照りつける太陽の光と、騒がしい蝉の声が聞こえてきている。
「るい! 週末、海かプール行こうよ!」
水着を選びに行く気満々のちま。しかし、るいは間髪入れずに、信じられないほどの冷徹な声で言い捨てた。
「絶対いかない! ひとりでいきなさい!」
「え〜っ! なんでよー!」
ちまは不満げに頬をぷくーっと膨らませて抗議する。せっかくの夏休みの計画なのに、るいのガードが固すぎる。
すると、るいは腕をがっちりと組んで、自分の身体を守るようにしながら、恨めしそうな目でちまを睨みつけた。
「なんでって、決まってるじゃない! 私が海なんか行ったら、どうせまた変な奴らに身体をジロジロ見られるし、なんか最終的に胸をポロリさせられるのが私の役目になってるんだもん!!」
るいの必死な水着拒否宣言に、ちまはポカンと口を開けて固まってしまうのだった――。
🏖️ 第2話
「ううっ……海に行って、かっこいい男の子と仲良くなれるかも?だよ……?」
ちまはなおも諦めず、上目遣いでるいの「乙女心」をくすぐろうと必死に食い下がる。しかし、これまでの数々の試練で鋼の警戒心を身につけたるいには、そんな甘い誘い文句は一切通用しなかった。
「嫌よ!」
るいはすたすたと足早にその場を去っていってしまった。
「るいったら! もういいよーだ!」
ぷりぷりと怒りのちまだったけれど、せっかくの夏を無駄にするわけにはいかない。ちまはすぐに切り替えて、他の友達に片っ端から声をかけてみることにした。
すると――。
「わあ、海? いいね、行こう!」(レイナ)
「行く行くー! 新しい水着買ったんだー!」(ララ)
レイナとララはふたつ返事でOK! しかし、沙都子だけは少し申し訳なさそうな顔で首を振った。
「ちょっと用があるの。ごめんね」
「そっかぁ、沙都子は残念。じゃあ、今回は3人で行こ!」
こうして、ちま、レイナ、ララの3人による、ちょっぴり騒がしい夏の海行きが決定した。るいがいないのは寂しいけれど、女の子3人集まればテンションは最高潮。
週末、3人はカラフルな浮き輪や大きなバッグを抱えて、ガタゴトと揺れる電車に乗り込み、青い水平線が待つ海へと向かうのだった――。
👙 第3話
ガタゴトと電車に揺られて数時間、ついに3人は目的地である青い海へと到着した。潮の香りと太陽の熱気にテンションを上げながら、まずは着替えのために砂浜に立つ「海の家」の更衣室へと駆け込む。
しばらくして、それぞれの水着に着替えた3人が姿を現した。
「じゃーん! どうかな? これにしたんだー!」
ララが言う。
「ウフフ、私はこれ。海なんて久しぶりだから、ちょっと緊張しちゃうな」とレイナ。
ララとレイナは、それぞれ可憐で爽やかなワンピースタイプの水着。露出は控えめながらも、女の子らしさが引き立つデザインで2人ともとってもよく似合っている。
そんな2人に対して、ちまが選んだのは勝負のビキニだった。
「やっぱり夏はビキニだよねー! ……って、あれ?」
姿見の鏡の前でポーズを決めていたちまは、ふと自分の胸元を見て首をかしげた。
なんだか、ブラのカップのあたりがほんの少しだけスカスカするのだ。
(サイズ間違えちゃったかなぁ……? お店でちゃんと合わせたはずなんだけど……。うーん、気のせいかな?)
ちまは自分の胸を上から覗き込みながら、少しだけ不安になる。けれど、外からは波の音と楽しそうな歓声が聞こえてきて、じっとしてはいられなかった。
「まあ、いっか! 水に入って濡れれば、生地がピタッて肌に張り付いてちょうどよくなるよね!」
ちまはそんな風にポジティブ(?)に割り切ると、スカスカする胸元の違和感を気にすることなく、勢いよく更衣室の扉を開けて砂浜へと飛び出していくのだった――。

🏖️ 第4話
「ねえねえ、そこの3人組! 一緒に遊ばなーい?」
砂浜に飛び出すやいなや、持ち前の人懐っこさと行動力を発揮したララが、近くにいた男の子たちのグループに元気よく声をかけた。声をかけられたのは、ちょうど同じ3人組の男の子たち。爽やかな水着姿の女子3人に声をかけられ、彼らの顔が一気にパッと明るくなる。
「どこから来たんですか? 私たち、高校2年です!」
ララがぐいぐいと距離を縮めて質問すると、男の子たちの一人が嬉しそうに頭をかきながら答えた。
「え、マジで? 僕たちも高2だよ! 偶然だね!」
「本当!? どこの高校……?えっ!私たちの隣町の高校じゃん!」
お互いの学校の話題や地元のローカルトークで一瞬にして大盛り上がり。同じ学年でしかも隣町という親近感も手伝って、6人の間の空気は一気に打ち解けていった。
「せっかくだからさ、みんなでビーチバレーか、海に入って遊ぼうよ!」
男の子たちからの楽しそうな提案に、「賛成ー!」と無邪気に万歳するちま。
しかし、ちまが腕を上げたその瞬間――更衣室で感じたあの**「胸元のスカスカ感」**が、再び不穏な隙間を作ったことに、本人はまだ全く気づいていなかった――。
🏖️ 第5話
「ねえ、レイナ……。ちま、あんな貧乳でブカブカのビキニ着てて……大丈夫かな?」
男の子たちと楽しそうにはしゃぐ親友の背中を見つめながら、ララがレイナの耳元でそっと囁いた。女の子同士だからこそ、ちまの胸元が明らかにサイズを間違えて浮いてしまっていることに、いち早く気づいたのだ。
「う、うーん……確かにちょっと隙間が目立つかも。それとなく本人に言ってみようか……?」
レイナも困ったように眉を下げて、ララと顔を見合わせる。
ビーチバレーをしたり、海に入って大きな波をかぶったりした瞬間、ちまのビキニがどうなってしまうか……想像するだけで2人はハラハラが止まらない。
「次はあっちで浮き輪使って泳ごうよ!」
男の子たちのそんな誘いに、ちまは「行く行くー!」と満面の笑みで答え、ぴょんぴょんと跳ねている。
胸元の危機なんて1ミリも気づかないまま、隣町の男の子たちとトークに花を咲かせて大盛り上がり。ちまが楽しそうに笑って身振り手振りを交えるたびに、ブカブカのブラカップが危なっかしく揺れ動いていた――。
🥤 第6話
「あ、私、みんなの分のジュース買ってくるよ!」
男の子たちとひとしきり盛り上がったちまは、額の汗をぬぐいながら元気よく声を上げた。砂浜の照り返しで喉もカラカラだ。
「え、じゃあ僕たちも手伝うよ」
「あ、私も行くよ!」
男の子たちやレイナが慌ててついて行こうと腰を浮かせたが、ちまは「いいのいいの! すぐそこだし、みんなは座ってて!」と、小走りで海の家の横にある自動販売機へと一人で向かって行ってしまった。
それを見送るララは、やれやれと苦笑いしながらポツリと呟く。
(ちま、完全にテンション上がってはしゃいじゃって……)
🏖️ 第7話
「買って来たよー!」
ちまは両腕いっぱいに冷たいジュースを袋入れて抱え、満面の笑みでみんなの元へと駆け戻ってきた。しかし、テンションが上がりすぎて足元への注意がおろそかになっていた。
砂浜に埋もれていた小さな流木に、ちまの足先が引っかかる。
「キャッ!?」
バランスを崩し、盛大につまずくちま。抱えていたジュースが宙に舞い、ちまの身体が砂浜へと倒れ込みそうになる。
「危ないっ!」
3人組の男の子のうちの1人が、反射的にちまを受け止めようと勢いよく手を伸ばした。
だが、その瞬間――ちまがジュースをぶちまけながら激しく動いた衝撃で、ただでさえブカブカだったビキニのブラカップがツルッと完全に横へとズレてしまった。
生地の隙間から、ちまの可愛らしいチッパイが完全に露わになる。
「キャーーーッ!?」
「うおっ!?」
助けようとした男の子は、目の前に飛び込んできたあまりにも無防備なちまの胸元に完全に目を奪われ、一瞬で思考がフリーズ。そして、倒れる勢いを止められなかったちまは、そのまま磁石のようにその男の子の胸へとダイブし、ガシッと抱きついてしまった。
勢いよくぶつかり合った2人の身体。
ちまのチッパイの先っちょが、驚いてぽかんと開いていた男の子の口の中へ、吸い込まれるようにスッポリとおさまってしまったのだ。
「いやあん……っ!!!」
ちまの悲鳴が、夏の青空に虚しく響き渡る。
るいが「胸ポロリするのが私の役目だもん!」と予言していたトラブルは、形を変えて、完全にちまの身へと直撃してしまったのだった――。
🚃 第8話
ガタゴトと揺れる、夕方の帰り電車の車内。
行きのアゲアゲなテンションとは打って変わって、ちまは座席の端っこで小さくなり、顔を真っ赤にしたまま一言も喋らずにずっとうつむいていた。
砂浜であの後、男の子たちとどんな空気になったのか、どうやってビキニを直してその場を切り抜けたのか……思い出すだけでも頭から火が出そうな恥ずかしさだった。
そんなちまの隣で、ララとレイナは声をかけることもできず、ただただ憐れみの目を向けながら心の中でヒソヒソと会話を交わしていた。
(ちま、サイズがブカブカだったんじゃなくて、中に入れるはずのパッドを入れ忘れてたのね……)
(う、うん。言ってあげれば良かったね……)
(ちまったら乳首、勃っちゃってた……そりゃそうか、舐められればね……)
窓の外には、切なく燃えるような美しい夕日が沈んでいく。
ちまの甘酸っぱくて、それ以上に刺激的すぎた夏のハプニングは、こうしてほろ苦い沈黙とともに幕を閉じるのだった――。
【完】
