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カプセルの中

🍽️第1話
「ちまには負けたわ……。利尿剤なんか使って、さすがに悪かったわ。今度、新しいパンツをお詫びに買ってやろう……」
高級レストランの椅子に座りながら、るいは遊園地でのちまの圧倒的な野生児っぷりを思い出して、一人ため息をついていた。
そんなるいの反省モードを切り裂くように、母親の冷徹な声が響く。
「るい、食べ終わった? 私たち、この後バーで飲んで帰るから、あなたは一人でタクシーで帰ってね」
「えー! そんなー! 私だけ締め出し!? 一緒に連れてってよ!」
るいが口を尖らせて抗議すると、母親はあからさまに不満そうな顔で溜め息をついた。
「だって、今日は私たちの結婚記念日だもの。あなた、ついてきちゃってさ。大人の時間を邪魔しないでちょうだい」
「……わかったよう」
両親のラブラブオーラと、母親からの「ぶっちゃけ邪魔者扱い」の言葉にへこみながら、るいは渋々承諾した。

🚖 第2話
「はい、タクシー代。運転手さん、高速使って帰ってくださいね」
「かしこまりました。どうぞ、お嬢さん」
母親から渡されたお札を握りしめ、るいは個人タクシーのリアシートへと滑り込んだ。運転席に座るのは、どこか愛想の良さそうな中年の男だ。
「お願いします」
るいがドアを閉め、シートに深く身体を預けたその時。車が走り出す前に、運転手がバックミラー越しに怪しく目を細め、一箱の小箱を差し出してきた。
「お嬢さん、良かったらどうぞ。これ、美味しいんですよ」
手渡された箱を見て、るいは一瞬だけ眉をひそめる。
(ん? 包装紙もないの?……まぁ、でも見た目は美味しそうだし、せっかくの好意を断るのも気まずいよね)
レストラン帰りでお腹はいっぱいのはずなのに、るいは軽い気持ちで一つつまんだ。
「いただきまーす!」
パクッとそれを口に放り込むるい。
「カチャリ」と集中ドアロックが閉まる鈍い音が響き、タクシーは静かに、そしてスピードを上げながら、夜の高速道路へと滑り出していった。

ちえっ!

🛣️第3話
タクシーが高速道路のインターチェンジをくぐり、本線へと加速していく。その瞬間、るいの下腹部に、今までに経験したことのないような凄まじい「波」が押し寄せた。
(あれ……!? おしっこが……出そう……っ! なんで、急にこんなに……!?)
レストランで飲んだ水分、そしてさっきの謎のお菓子。体内で爆発的に作られた液体が、容赦なくるいの膀胱を圧迫する。スピードを上げるタクシーの微振動が、ダイレクトにその限界メーターを跳ね上げていく。
「あの……すみません、お手洗いに……行きたくて……っ」
るいは股間を必死に手で押さえ、顔を真っ青にしながら運転席に声をかけた。しかし、バックミラーに映る中年の運転手は、困ったような声を出しつつも、どこか楽しげに目を細めている。
「えー! 高速道路ですよ? ここじゃ車は止められないし、次のインターまでパーキングエリアもありませんよ。我慢できませんか?」
「ううっ……だ、だめかもです……本当に限界で……っ!」
シートの上で身悶えし、足を小刻みに震わせるるい。すると運転手は、待ってましたとばかりに、助手席からある物を取り出してリアシートへと差し出してきた。
「それなら、これを使ってください」
それは、プラスチックの受け口がついた、お馴染みの『緊急用・簡易トイレ』だった。
「これに、今ここでしてください」
「ええーっ!? 無理ですよ、そんなの! 車の中でなんて……っ!」
年頃の女子高生に向かって、車内で用を足せというあまりの要求にるいは絶叫する。しかし、運転手の声は冷酷に響いた。
「それでしたら、高速を降りるまで我慢していただかないと。……あっ、言っておきますけど、もしシートを濡らしたら、高額なクリーニング代を請求させていただきますよ?」
「そんなぁ……っ!!」
漏らして大金を請求されるか、それともこの怪しい運転手の目の前で、恥を忍んで簡易トイレの中に大放流するか――。
ショートパンツの裾を握りしめ、涙目で震えるるいに、究極の選択が迫っていた……!

なんで?!おしっこしたい!

🚽第4話
「はあ、はあ……っ! 見ないでくださいね! 絶対に見ないでくださいね!?」
涙目で股間を強く押さえながら、るいは悲鳴のように叫んだ。しかし、バックミラーの中の中年運転手は、平然とした顔で前方の暗闇を見据えている。
「高速道路の運転中です。後ろなんか見れませんよ。お嬢さん、遠慮しないでどうぞ使ってください」
「う、うう……っ! はい、わかりました……っ!」
もう一秒の猶予もなかった。るいは震える手で、ショートパンツと、パンティをまとめて膝まで一気に引き下ろした。
タクシーの冷たいエアコンの風が、無防備になったるいの太ももとお尻を撫でる。
時速100キロで疾走する密室の中、るいは差し出された簡易トイレのプラスチックの口を、自分のデリケートな場所に必死に押し当てた。
(ああん……っ! 恥ずかしいよー……っ!!)
カチャカチャと車の振動がダイレクトにお尻に伝わる中、顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め、るいはついに、限界まで膨らみきっていた決壊のバルブを緩めた――。

🚽第5話
「ふう……っ。た、助かった……」
体中の力が抜けたような深い吐息をつきながら、るいはズボンとパンティを急いで引き上げた。手元には、ずっしりと温かい液体の溜まった簡易トイレの袋が残されている。
「シートが汚れなくて本当に良かったです」
バックミラー越しに、中年の運転手が何事もなかったかのように微笑みかけてくる。
「……はい」
「それはそこに置いておいていいですよ。後で私が処分しておきますから」
親切を装って袋を回収しようとする運転手。だが、るいの本能が警鐘を鳴らした。(これをこの人に渡したら、後で何をされるかわからない……!)
「いいえ! 自分で持って帰ります!」
るいはきっぱりと拒絶し、運転手から差し出されたおしぼりで手を拭うと、母親から預かっていたタクシー料金を支払った。
「簡易トイレなんて、ずいぶん用意が良いんですね?」
るいが少し棘のある声で尋ねると、運転手は悪びれる様子もなく、ふっと目を細めて答えた。
「ははは、よくお客様にいらっしゃるんですよ。高速の上で『漏れそうだ』とおっしゃる方がね」
「……え?」
タクシーのドアが開き、夜の冷たい空気がるいの頬をなでる。
車を降りて、遠ざかっていくテールランプを見送りながら、るいは何とも言えない腑に落ちない違和感を抱えていた。
ちまを懲らしめようとした罰が、こんな形で返ってくるとは……。

📺 第6話
タクシーの一件から数日後。
るいは自宅のリビングで、何気なくテレビのニュースを眺めていた。だが、画面に映し出された男の顔写真を見た瞬間、るいの身体は凍りついた。
『――次のニュースです。都内で個人タクシーを運転する50代の男が、不同意わいせつ罪、児童ポルノ禁止法違反などの疑いで逮捕されました。男は乗客の若い女性に、利尿剤を混入した自家製のお菓子を親切を装って配り、高速道路上で尿意を催させ、車内で簡易トイレを使用している様子を、車内に仕込んだ隠しカメラで盗撮していた模様です――』
アナウンサーの淡々とした声が、るいの脳内で爆音となって弾ける。
あのバックミラー越しの怪しい笑顔、用意の良すぎる簡易トイレ、「後ろは見えませんよ」という優しい嘘……。そのすべてが、若い女性をターゲットにした卑劣な罠だったのだ。
「いやああああああーーーーーっっっ!!! 嘘でしょ、見られてたのぉぉお!?」
テレビの前で、るいは頭を抱えて絶叫した。
動画がどこかのアングラサイトに流出していないかという恐怖と、自分のあまりの警戒心のなさに、一気に涙が溢れ出して止まらない。
「ううっ……ひっ、ひぐっ……ちまに利尿剤なんか使ったから……バチが当たったんだぁぁぁ……!!」
親友をお仕置きしようとしたはずが、巡り巡って自分に何倍もの「最悪な恥辱」として返ってくるという、あまりにも強烈すぎる因果応報。
るいは部屋の隅で膝を抱えて号泣しながら、ちまのあのたくましい「空中レインボー」の潔さを、ほんの少しだけ羨ましく思うのだった――。

【完】

※本作は、実際に発生したタクシー車内での利尿剤混入・盗撮事件の報道に基づいて創作した虚構(フィクション)であり、登場する人物や団体などはすべて架空のものです。

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