記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『ちいかわ 人魚の島のひみつ』 -貝汁カツカレーで怪獣に勝つカレー

2026/8/9
俺評価:★★★★☆

なぜ観に行ったか

正直、まったく観る気はなかった。ちいかわというキャラクター自体は知っていたけど、ファンシーな子ども向け作品だと思い込んでいたので、優先度はゼロだった。

流れが変わったのは興行成績と評判の異様な良さ、それからびわ湖くんのYouTubeを見たこと。
単なる「かわいい」だけの作品じゃないというのがわかって、盆休み前半に世界観を軽く予習したうえで劇場へ足を運んだ。
(びわ湖くんのレビューそれなりに批判もあるみたいだが)

解説・あらすじ
イラストレーターのナガノが2020年よりX(旧Twitter)にて原作漫画を連載し、「日本キャラクター大賞グランプリ」を3度受賞、22年に放送開始されたテレビアニメもYouTubeでの見逃し配信総再生回数が4億回を超えるなど、数々の社会現象を巻き起こしてきた大人気コンテンツ「ちいかわ」をアニメーション映画化。原作者・ナガノによる完全監修のもと、原作漫画シリーズの中でも特に人気の高い長編エピソード「セイレーン編」を映像化し、とある島を訪れたちいかわたちが繰り広げる大冒険を壮大な音楽と迫力の映像で描き出す。

ある日、広場でくつろいでいたちいかわとハチワレのもとに、顔にチラシを貼り付けたうさぎが現れる。ハチワレがチラシの内容を確認すると、それは「特別な島」への招待状だった。「島でのカンタンな討伐で100倍の報酬をもらおう」「限定島ラーメンに限定スイーツ、甘いもの辛いもの全部実質無料」といった言葉に釣られて島合宿に参加することを決めたちいかわたちは、チラシの内容を怪しがるラッコとともに船に乗り込み、島に上陸するが……。

「ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉」などのCygamesPicturesがアニメーション制作を担当。

2026年製作/99分/G/日本
配給:東宝
劇場公開日:2026年7月24日

映画.com
©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

総評

結論から言うと★4。
ただし正直に言うと、前情報を仕入れすぎたのは失敗だった。
ストーリーの流れも、台詞のダブルミーニングも把握したうえでの鑑賞になったので、会話や歌詞のほうに意識が持っていかれて、素直な没入感という点では少し損をした気がする。事前情報で作品評価の影響を受けず、フラットな状態で鑑賞したらこうかなという点数。
今さらだけど、これから観る人には、あまり調べすぎずに行くことを勧めたい。

映像とサウンド

映像は世界観相応の可愛らしいタッチでくっきり観やすい一方、海の描写だけ妙にリアルで、そのギャップがずっと引っかかっていた。狙ってやっているのは間違いない。

サウンドが素晴らしかった。サラウンドの効きがよく、花火・水中・歌のシーンは特に良い。とにかくSEはリアルすぎて絵柄との落差にちょっと戸惑うくらい。



ここからネタバレあり。


冒頭のりんごの伏線

冒頭でさらっと食べているりんごも、あとから考えるとただの小道具じゃない。聖書の「善悪を知る木の実」、いわゆる禁断の果実のメタファーになっていて、ラテン語で「悪」を意味するmalumと「りんご」を意味するmālumの音が似ていることにかけているらしい。意味のすり替えや秘密というこの作品全体のテーマを、冒頭の何気ない一コマにもう仕込んでいるわけで、こういう発見があると一気に見る目が変わる。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

台詞に頼らない演出

ちいかわ、うさぎ、そして島の住民たちも(島二郎を除いて)ほぼ喋らない。台詞のやり取りだけで話を運ぶのではなく、表情と仕草だけで感情や思考の機微を描き切っているのがかなり凝った作りだった。これがあるから、会話の少ないシーンでもちゃんと物語が転がる。
ちいかわが身につけているポシェットを手で握る演出がニクイ!

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

単純な善悪に落とし込まない物語

ストーリーも、単純な勧善懲悪に落とし込んでいないところが良い。誰が悪いのかをはっきり割り切らせない構成になっていて、観終わったあとに考えさせられる余地が残る。

ただ、誰が悪いかを明確にしないからといって優しい話ではない。可愛い絵柄の裏でやっていることは結構残虐で、特にやられたらやり返すという復讐の演出はかなりエグい。
台湾では6歳未満は鑑賞不可、6歳以上12歳未満も保護者同伴が必要な区分になったらしいけど、それも納得できる。日本では年齢制限なしで公開されているのが逆に不思議なくらい。小さい子に見せるかどうかは、正直ちょっと考えたほうがいいと思う。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

島二郎

キャラクターについて一つ触れておきたいのが島二郎。主要キャラは言わずもがなだけど、今回の島の住人たち、ヒトハとフタバ、セイレーンと人魚、そしてこの島二郎という布陣の中で、島二郎が圧倒的にかっこよかった。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

水面から上がってくるとき、水の動きだけで人魚の気配を察知しているのに、ちいかわたちを不安にさせないよう「もう目覚めそうだ」ととぼける。そのうえで先に行かせたあと、「ついでに貝を取りに行く」という口実でセイレーンの足止めに一人向かう。しかも口だけじゃなくてセイレーンに立ち向かえるだけの強さもちゃんとある。
誰も来ない貝汁の店を人知れずやっているところも含めて、とにかく男前がすぎる。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

ちなみにこの店のメニューが貝汁とカツカレーの二つしかないのも、単なる思いつきじゃなくて言葉遊びなんじゃないかと思っている。
後半、カレーで怪獣(セイレーン)に勝つ展開があるので、
カイジル=カイジュウで
「怪獣(セイレーン)に勝つ」カレー
みたいな仕込みなのかなと。

セイレーン

セイレーンも、実際に動いているところを見ると単に大きくて怖いだけの存在じゃなくて結構魅力的だった。
間違いにはちゃんと謝るし、無邪気なところもある。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

ただこの無邪気さがまた別の怖さでもあって、回想のイカで遊ぶシーンがまさにそれ。遊んでいるように見えるけど、命あるものをおもちゃにしてポンポン投げ合っているのはよく見るとかなり残酷で、しかも投げられるたびにイカの足が減っていく。無邪気さの中に潜む怖さがしっかり演出されている。

島の人たち

島の人たちは、まあ被害者と言っていいと思う。セイレーンが来たおかげで島の植物がすくすく育って食料には困らなくなった、という恩恵があってお供え物というか貢ぎ物をしていたら、セイレーンたちがそれを気に入ってそのまま居座ることになる。この持ちつ持たれつの始まり方がまた微妙なところで、単純に「怪物に襲われた島」では片付けられない。人魚を食べた犯人と疑われて捕まった島民が味噌漬けにされてセイレーンたちに食われる描写もあって、これがまたかなり残虐。あの絵柄だから見られるけど、実写だったら直視できないと思う。追い討ちに蓋するし。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

ヒトハとフタバ

ヒトハとフタバも、この作品の重さを背負ってるキャラだと思う。人魚の秘密を知って興味を持ったヒトハと、あまり興味のなかったフタバ。ボートで海釣りをしていたときに人魚を見た、あの瞬間で二人がちゃんと危機感を持てていれば、この悲劇は起きなかった。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

無邪気に遊んでいたセイレーンと人魚たちに巻き込まれて重症を負ったフタバを救うため、ヒトハは人魚を攫って撲殺する。ここは絵としては描かれていないんだけど、リアルなサウンドで鳴る二発の打撃音だけで恐怖が伝わってくる、この見せない演出がかなり効いている。
人魚を誘導するのに「しるこサンド」をチョイスするのもなかなか。

そして永遠の命を得てしまったフタバは、いずれひとりぼっちになる未来を想像して悲観し、ヒトハにも人魚を食べるよう強要する。ここで、この映画のテーマソングでもある「今日の日はさようなら」の意味が怖いくらい効いてくる。
終盤でこの曲が流れるんだけど、島に着いた夜にハチワレが歌ったときはただの友情の歌に聞こえていたのが、ここまで来ると呪いじみたものに変わっていて、ぞくっとした。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

「わかった」の呼応

セイレーンとの最後の戦闘で、激辛カレーを食べさせられたセイレーンが「わかった、もうやめる」と言う場面がある。観てるときはあのシーンだけで完結する台詞だと思って、正直ちょっと唐突にも感じた。でもそのあと、犯人が「わかった」という言葉を口にする場面が出てきて、そこで一気にぞっとした。あの一言が単発の台詞じゃなくて、ちゃんと別の場面と呼応するように仕込まれていたということに気づかされる。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

なぜここまでヒットしたのか

ここまでヒットした理由は、原作の強さもあるけど、劇場版化にあたって原作者の意向がそのまま通せたことが大きいと思う。普通、映画化ではスポンサーや利権が絡んで余計な演出や改変が入ったり、キャラクターの扱いが変わったりして、結局何を伝えたい作品なのかわからなくなることがよくある。
今回はそういう部分がなく、原作を素直にトレースできていた。作画・脚本・楽曲の歌詞まで原作者本人が担当しているのも大きいんだろう。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

比較するのも気が引けるけど、『えんとつ町のプペル』を思い出した。

あちらも本人がかなり関わった作品だったはずだけど、映像にとにかく金と労力をかけて、口コミ動員やレビュー工作までやったのに、中身はあの程度だった。本人が関わっているかどうかより、ストーリーに破綻がないか、脇のキャラクターにもそれぞれ役割があってメインの筋を邪魔していないか、伏線や言葉遊びが丁寧に仕込まれているか。
この『ちいかわ』はそのあたりを素直にクリアしていて、結局この差は純粋に才能の問題なんだと思う。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

他の言葉遊び

言葉遊びで言うと、人魚と人形、炭酸と単三、それに歌詞のトリックまであって、とにかく作り込みが細かい。内容自体はもう他のレビューでさんざん語られてるので割愛するけど、こういう仕掛けを探しながらもう一度観るのも楽しいと思う。

ラストシーン

そしてラスト、エンドロールのあと。ヒトハとフタバは島を出て、無人島らしきところに辿り着く。そこに向かってセイレーンたちが泳いでいく、というカットで終わる。ここは本当に鳥肌が立った。終始可愛い絵で見せて、セリフもほんわかした雰囲気なのに、この作品を人間に置き換えて実写化にしたら完全にホラーだと思う。

しかも時間軸まで仕掛けがある。
ちいかわたちが平和になった島を出発するとき、朝日はもう昇りきった状態。
一方でヒトハとフタバが無人島に着くシーンは、朝日が昇り始めたばかりの演出になっている。つまりこの無人島のシーンは、ちいかわたちの出発より時間が遡っているということ。
だとすると、ちいかわたちが船の上で聞いた笑い声は、この無人島に向かっているセイレーンの笑い声だった可能性が高い。
ここに気づいた瞬間、本当にぞっとした。

©ナガノ / 2026「映画ちいかわ」製作委員会

最後にこの映画について言うなら、「後味」がすごい。
貝汁もカツカレーも人魚の肉も、とにかく食べ物がよく出てくる映画だったけど、本当に残ったのは味覚の後味じゃなくて、観終わってからも消えない、あの割り切れなさのほうだった。

なぜちいかわは真相を黙っていたのか、うさぎは実は真相に気づいていたのでは?とか色々あるけど、長くなるのでこの辺で・・・

かわいいボンドロが特典!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集