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ある日いきなり脳梗塞に。だから知っておきたい最初のサイン

「昨日までは普通に歩けていたのに、今朝になったら足が動かしにくい」

脳外科の現場では、そんな言葉を何度も聞いてきました。脳梗塞というと、どこか高齢者の病気というイメージがあるかもしれません。けれど実際には、40代、50代でも突然起こります。仕事も家庭も忙しく、「少し疲れているだけかな」と思いやすい年代だからこそ、受診が遅れてしまうことがあります。

そして怖いのは、最初は軽そうに見える症状でも、時間とともに悪化するタイプがあることです。朝は少し歩きにくいだけだったのに、夕方には片足に力が入らない。昨日は自分で歩けたのに、今日は介助が必要になる。そんな経過をたどる脳梗塞もあります。

この記事では、脳梗塞の最初のサイン、特に覚えてほしいFAST、そしてBADタイプの脳梗塞について、脳外科医の視点からわかりやすく整理します。

脳梗塞は突然くる 。でも、知っていれば救える時間があります。

「様子を見よう」が危ない理由

脳梗塞は、脳の血管が詰まり、その先の脳細胞に血液が届かなくなる病気です。脳は酸素や栄養が途切れることにとても弱く、時間が経つほどダメージが広がります。

多くの方が迷うのは、症状が強烈ではない時です。

「少しろれつが回らないけど、疲れかな」 「片足が重いけど、寝違えたのかな」 「手がしびれるけど、肩こりかもしれない」

こうした判断は、日常では自然です。特に40代、50代の方は、仕事、家事、育児、介護などで無理をしがちです。少しの不調なら、まず自分で何とかしようとしてしまいます。

しかし脳梗塞では、いつから症状が出たか が治療方針に大きく関わります。血栓を溶かす治療やカテーテル治療は、発症からの時間、画像所見、全身状態などを踏まえて判断されます。つまり、病院に来るのが早いほど、選択肢が残りやすいのです。

脳外科医として一番悔しいのは、「もう少し早く来てくれていれば」と思う場面です。本人も家族も悪くありません。ただ、最初のサインを知らなかっただけです。だからこそ、ここから先の内容だけは、ぜひ家族にも共有してほしいのです。

FASTを知るだけで、行動が変わる

脳卒中を疑う合言葉として有名なのが、FASTです。FASTは、Face、Arm、Speech、Timeの頭文字です。英語の意味と日本語をセットで覚えると、いざという時に使いやすくなります。

Faceは「顔」です。笑った時に片方の口角だけ下がる、顔の半分が動きにくい、食べ物や飲み物が口からこぼれる。こうした変化は、顔面の麻痺のサインです。

Armは「腕」です。両手を前に出してもらった時、片方だけ下がる。片手に力が入らない。箸を落とす、スマホを持てない、服の袖に腕を通しにくい。このような変化も重要です。実際には腕だけでなく、足の脱力として出ることもあります。

Speechは「言葉」です。ろれつが回らない、言葉が出てこない、相手の言っていることが理解しにくい。本人は普通に話しているつもりでも、家族から見ると「いつもと違う」と感じることがあります。

Timeは「時間」です。ここが非常に大切です。症状に気づいたら、まず時計を見る。最後に普段通りだった時間を確認する。そして、迷わず救急車を呼ぶ。

FASTは難しい医学知識ではありません。けれど、現場ではこのシンプルな知識が本当に命を分けます。

顔、腕、言葉、時間 。この4つだけでも覚えてください。

「救急車を呼んで違ったら迷惑では」と心配する方もいます。しかし、脳卒中が疑われる症状で救急要請することは、決して大げさではありません。むしろ、症状が消えたとしても、一過性脳虚血発作という脳梗塞の前触れである可能性があります。

BADタイプの脳梗塞は、じわじわ悪くなることがある

ここで、少しだけ専門的な話をします。

脳梗塞の中には、Branch atheromatous disease、略してBADと呼ばれるタイプがあります。日本語では分枝粥腫病と訳されます。脳の太い血管から枝分かれする細い血管の入り口付近が詰まるタイプで、運動麻痺が目立ちやすく、症状が進行しやすいことがあります。

BADの怖さは、発症直後だけを見ると「そこまで重くない」と見えてしまうことです。

たとえば、朝起きた時に片足が少し重い。何とか歩ける。だから仕事に行こうとする。ところが数時間後には足が上がらなくなり、さらに手にも力が入りにくくなる。病院に来た時には、最初より明らかに麻痺が進んでいる。

もちろん、すべての脳梗塞がこの経過をたどるわけではありません。ただ、脳外科や脳卒中診療の現場では、「最初は軽かったのに悪くなった」というケースを決して珍しいものとして扱いません。

特に、片側の手足の力が入りにくい、歩くと片方に傾く、足がもつれる、字が急に書きにくい、箸が使いにくい、階段で片足だけ出しにくい。こうした症状は、見逃されやすい一方で、脳の運動経路に異常が出ているサインかもしれません。

ここで大切なのは、自己診断しないことです。

「BADかもしれない」と自分で判断する必要はありません。必要なのは、片側の異常は危険 と知っておくことです。右だけ、左だけ、片方だけ。体の左右差が急に出た時点で、脳卒中を疑ってください。

40代、50代だからこそ油断しない

「脳梗塞は70代、80代の病気でしょう」と思っている方は少なくありません。たしかに年齢は大きなリスクです。しかし、40代、50代でも脳梗塞は起こります。

背景には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満、睡眠不足、多量飲酒、不整脈などがあります。仕事が忙しく、健診で異常を指摘されても受診できていない。血圧が高いと言われているけれど、薬を飲むほどではないと思っている。夜勤や長時間労働で睡眠が崩れている。

こうした状態が重なると、血管は少しずつ傷んでいきます。

私自身、脳外科医として救急の現場に立っていると、患者さんの年齢だけでは安心できないと強く感じます。40代、50代の方が突然、片麻痺で運ばれてくることがあります。本人も家族も「まさか自分が」と言います。

その「まさか」が、脳梗塞の怖さです。

ただし、怖がらせたいわけではありません。大事なのは、日頃から血圧や血糖、コレステロールを管理し、症状が出た時には迷わず動くことです。予防と初動。この2つが、後遺症を減らすための現実的な武器になります。

迷った時の判断はシンプルでいい

最後に、実際にどう行動すればよいかを整理します。

突然、顔がゆがむ。片方の手足に力が入らない。ろれつが回らない。言葉が出ない。片足がもつれて歩けない。片側だけしびれる。急に視野が欠ける。物が二重に見える。今まで経験したことのない激しい頭痛がある。

このような症状が出たら、まず脳卒中を疑ってください。

そして、症状が出た時間、または最後に普段通りだった時間を確認します。朝起きた時に気づいたなら、「寝る前は普通だった」「何時に寝た」と伝えることが大切です。

次に、本人が車を運転して病院へ行くのは避けてください。途中で悪化する危険があります。家族が連れて行く場合もありますが、脳卒中が疑われる時は救急車を呼ぶことが基本です。救急隊が状態を見て、適切な病院へつなげてくれます。

「少し休めば治るかも」 「明日の朝まで様子を見よう」 「仕事が終わってから行こう」

この数時間が、後遺症の差になることがあります。

脳梗塞は時間との勝負 です。迷った時に必要なのは、我慢ではなく行動です。

まとめ

脳梗塞は、ある日いきなり起こります。昨日歩けた人が、今日歩けなくなることがあります。特にBAD、Branch atheromatous disease、分枝粥腫病のように、最初は軽く見えても症状が進行するタイプがあることは、ぜひ知っておいてほしいポイントです。

覚えてほしいのは、FASTです。Faceは顔、Armは腕、Speechは言葉、Timeは時間。顔、腕、言葉の異常が突然出たら、時間を確認して救急車を呼ぶ。この行動が、本人の未来を守ります。

脳外科医として、私は「大丈夫だと思っていた」という言葉を何度も聞いてきました。この記事が、あなたや大切な人の「迷った瞬間」に背中を押す小さな記憶になればうれしいです。

ここまで読んでくださりありがとうございます。大切な人の顔を思い浮かべながら、FASTだけでも今日覚えて帰ってください。よければスキ、フォロー、コメントで、あなたの身近な不安や知りたいテーマも教えてください。

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