カレーをよく食べる人は認知機能が高い?脳外科医が論文で読む「黄色いスパイス」の実力
「最近、物忘れが増えた気がする」
診察室でも、日常会話でも、この不安は本当によく聞きます。鍵を置いた場所を忘れる。人の名前がすぐ出てこない。スマホを開いた瞬間に、何を調べようとしたのか忘れる。そんな小さな違和感が積み重なると、ふと怖くなるんですよね。
そこで今回のテーマです。
カレー をよく食べる人は、認知機能が高いのか?
一見すると、少し怪しい健康雑学に見えるかもしれません。でも実は、カレーに含まれるターメリック、つまりウコン由来の成分 クルクミン と認知機能の関係は、疫学研究や臨床試験で何度も調べられています。
脳外科医として脳卒中や認知症の患者さんを診ていると、「脳にいい食事」は魔法の一皿ではなく、毎日の小さな積み重ねだと感じます。この記事では、カレーと認知機能の論文をもとに、「本当に期待していいこと」と「過剰に信じない方がいいこと」を整理します。
読み終えるころには、今日のカレーが少しだけ知的に見えるはずです。
きっかけはシンガポールの高齢者研究だった
カレーと認知機能の話で、まず押さえたい有名な研究があります。Ngらが2006年にAmerican Journal of Epidemiologyに発表した「Curry Consumption and Cognitive Function in the Elderly」です。
この研究では、認知症のない60〜93歳のアジア系高齢者1010人を対象に、普段どれくらいカレーを食べているかと、MMSEという認知機能検査の点数を比較しました。
結果はなかなか興味深いものでした。カレーを「まったく、またはほとんど食べない」人に比べて、「たまに食べる」人や「よく食べる」人の方が、MMSEの点数が有意に高かったのです。
ここで大事なのは、毎日大量に食べていた人だけが良かったわけではないことです。むしろ「たまに食べる」レベルでも差が見られました。健康情報では、つい「毎日やらなきゃ意味がない」と思いがちですが、この研究が示したのは、もっと生活に馴染む距離感でした。
ただし、これは観察研究です。つまり、カレーが直接脳を良くしたと断言する研究ではありません。カレーを食べる人は、食文化、教育歴、社会活動、生活習慣などが違っていた可能性があります。
とはいえ、「カレー好きは脳が若いかもしれない」という仮説を医学の土俵に乗せた、かなり面白い論文だったことは間違いありません。
カレーの主役はクルクミン。でも吸収率が弱点
カレーの認知機能効果でよく名前が出るのが、ターメリックに含まれる クルクミン です。
クルクミンは、抗炎症作用や抗酸化作用を持つポリフェノールの一種です。アルツハイマー病では、アミロイドβやタウ蛋白、慢性炎症、酸化ストレスなどが関与すると考えられています。クルクミンは、こうした経路に働く可能性が基礎研究で示されてきました。
ただ、ここに大きな落とし穴があります。
それは、クルクミンはそのままだと体に吸収されにくいことです。
「ウコンを食べれば脳に届く」と単純には言えません。サプリメント研究で使われるクルクミンは、吸収されやすく加工された製剤であることも多く、家庭のカレーとは条件が違います。
たとえばSmallらの2018年の二重盲検プラセボ対照試験では、認知症のない51〜84歳の40人に、吸収性を高めたクルクミン製剤を18か月投与しました。その結果、記憶や注意機能の改善がみられ、PET検査ではアミロイドやタウ蓄積に関係する所見も示唆されました。
これはかなりワクワクする結果です。しかし対象者は40人と少なく、使われたのは普通のカレーではなく、吸収性を高めた製剤です。
つまり、ここで言えるのは「クルクミンには脳に良い可能性がある」まで。決して「カレーライスを食べれば認知症が予防できる」と飛躍してはいけません。
最新研究では「小さいけれど無視できない」可能性
2022年には、NgらがSingapore Longitudinal Ageing Studyのデータを用いて、55歳以上2734人を約4.5年追跡した研究を報告しています。
この研究でも、カレー摂取と神経心理検査の関係が調べられました。結果として、カレーを食べる人では、一部の認知領域、特に注意、作業記憶、言語実行機能などで良い傾向が示されました。
ただし、著者ら自身も効果量は小さいと述べています。ここが大切です。
医学的に「効果がある」と聞くと、劇的な変化を想像しがちです。でも認知機能の世界では、日々の食事、運動、睡眠、社会交流、血圧管理、糖尿病管理などが少しずつ積み重なって、数年単位の差になることがあります。
カレーもその一部かもしれません。
さらに2025年のシステマティックレビューとメタ解析では、クルクミンサプリメントに関する9件のランダム化比較試験、合計501人が解析されました。結果として、クルクミン補充はプラセボと比べて全般的認知機能を改善する可能性が示され、効果は24週間以上、60歳以上、アジア人でより目立つと報告されています。
一方で、対象疾患や製剤、用量がバラバラで、すべての人に同じように効くとは言えません。特にアルツハイマー病患者を対象にしたBaumらの2008年の小規模試験や、Ringmanらの2012年の研究では、忍容性やバイオマーカーは検討されたものの、明確な認知機能改善を強く示すには限界がありました。
つまり現時点の結論は、こうです。
期待はできる 。でも、薬のように頼る段階ではない。
脳にいいカレーにするなら、ルーより中身を整える
では、私たちはどうカレーと付き合えばいいのでしょうか。
まず、市販のカレールーだけで「脳活」と考えるのは少し危険です。日本のカレーはおいしい反面、脂質、塩分、白米の量が増えやすい料理でもあります。大盛りライス、揚げ物トッピング、夜遅い時間のカレー。これは認知機能以前に、血糖、体重、血圧に響きます。
脳の健康を考えるなら、ポイントはカレー粉やターメリックだけではありません。
たとえば、野菜を増やす。豆を入れる。鶏むね肉や魚を使う。白米を少し減らして、雑穀米や玄米を混ぜる。揚げ物ではなく、ゆで卵やサバ、きのこを足す。こうした工夫の方が、長期的にはずっと現実的です。
私なら「週1回の脳にやさしいカレー」をおすすめします。
完璧な健康食にしなくていい。むしろ、続かない健康法ほど意味がありません。香辛料の香りで食欲が湧き、野菜やタンパク質を無理なく取れて、家族や友人と一緒に食べられる。そういう食事こそ、脳にとっては強い味方です。
認知症予防は、孤独にサプリを飲むことだけではありません。誰かと食卓を囲み、「今日のカレーうまいね」と言える時間そのものも、脳を守る生活習慣の一部だと私は思います。
まとめ
カレーをよく食べる人は認知機能が高いのか。
論文を読む限り、答えは「その可能性はある。ただし、カレーだけで脳が若返るわけではない」です。
2006年のシンガポール研究では、カレーを食べる高齢者のMMSEスコアが高い傾向が示されました。2022年の追跡研究でも、一部の認知領域で良い関連が報告されています。さらにクルクミンの臨床試験やメタ解析では、記憶や注意、全般的認知機能への効果が示唆されています。
しかし、因果関係はまだ確定していません。普通のカレーと高吸収型クルクミン製剤も同じではありません。
それでも私は、カレーはかなり優秀な「続けやすい脳活メニュー」だと思います。大切なのは、カレーを魔法の薬にしないこと。野菜、タンパク質、適量のご飯、楽しい食卓。その全部を含めて、脳にやさしい一皿にしていくことです。
今日も最後まで読んでくださり、ありがとうございます。もし次にカレーを食べるとき、少しだけ脳のことを思い出してもらえたら嬉しいです。スキ、フォロー、コメントで、あなたの「脳にやさしいカレーの具」も教えてください。
参考文献
Ng TP, Chiam PC, Lee T, Chua HC, Lim L, Kua EH. Curry Consumption and Cognitive Function in the Elderly. American Journal of Epidemiology. 2006;164(9):898-906. DOI: 10.1093/aje/kwj267
Ng TP, Nyunt MSZ, Gao Q, Gwee X, Chua DQL, Yap KB. Curcumin-Rich Curry Consumption and Neurocognitive Function from 4.5-Year Follow-Up of Community-Dwelling Older Adults. Nutrients. 2022;14(6):1189. DOI: 10.3390/nu14061189
Small GW, Siddarth P, Li Z, et al. Memory and Brain Amyloid and Tau Effects of a Bioavailable Form of Curcumin in Non-Demented Adults. The American Journal of Geriatric Psychiatry. 2018;26(3):266-277. DOI: 10.1016/j.jagp.2017.10.010
Baum L, Lam CWK, Cheung SKK, et al. Six-month randomized, placebo-controlled, double-blind, pilot clinical trial of curcumin in patients with Alzheimer disease. Journal of Clinical Psychopharmacology. 2008;28(1):110-113. DOI: 10.1097/jcp.0b013e318160862c
Ringman JM, Frautschy SA, Teng E, et al. Oral curcumin for Alzheimer’s disease: tolerability and efficacy in a 24-week randomized, double blind, placebo-controlled study. Alzheimer’s Research & Therapy. 2012;4:43. DOI: 10.1186/alzrt146
Wang W, Zhao R, Liu B, Li K. The effect of curcumin supplementation on cognitive function: an updated systematic review and meta-analysis. Frontiers in Nutrition. 2025;12:1549509. DOI: 10.3389/fnut.2025.1549509
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