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老人賦第8 女性を主語に

8月6日から10日の5篇です
フィクションを取り入れたいと思いつつ
老人=ほぼ私という設定以外はできないか?と

67:これは、学園監事としての仕事の帰り道の自分の雑感
68:老人のなかの老婆になれないかと こわごわ始める 万引き受刑囚
69:木更津の「節子」という設定を作ってみました 68と関係するかどうかは未定
70:宮崎の「きょうちゃん」 もう一人の人物を作ってみました
71:節子さんが30歳になって結婚したという設定です


老人賦(67)~学生がいない山科の下り坂を歩く~       
                 26.8.6 小暮宣雄
 
広島原爆投下の日 珍しく 仕事の日であった
核の傘はない ガザウクライナイラク 核のない世界 
というより 核兵器の脅しが通用しないAI軍備の始まり
 
東から西へ 学生がいない山科の下り坂を歩く
この西日の当たる大宅の道を 何百回も歩いた
仕事の終わりの心理なのだろうが 気持ちがいい
風がある 無人野菜販売ケース 夕焼けが光り 
稲が茂る 中世史に登場する池があったくぼ地
 
老人を心配してバスの時刻表を見せる職員さん
分かっています。48分でしょ。あと15分ねえ
がらがらの京阪バスが上ってくる 御旅所の碑
帰り道が下り坂 これが逆だったら悪夢だろう
エレベーターを使わず 自転車通路を降りる脚
 
「新」のつく政党の寿命が終わった 
一つの政党を除いて 「新」はいずれ古くなる
老人による法則 新発売は期限限定 例外はあるけど
歌舞伎という旧劇があるから 新派や新劇は生き残る



老人賦(68)~あたし 万引きしました~
              26.8.7 小暮宣雄

万引きをしたあと屋根伝いに逃げて
死んでしまったクラスメートがいた
 
どうして万引きっていうの
千引きでも百引きでもなく
店員さんと目を合わせずに
総菜コーナーの高そうな物
ポシェットに滑り込ませる
 
無一文になった昔のお嬢さん
常習犯なの いつになったら
ムショにほりこんでくれるの
コンビニの舞台空間で この
時だけはドラマの中心にいる
 
店長 あたし 万引きしました
 
この前は 執行猶予だったからね
これでようやく実刑になるかもと
刑務所が出す三食の写真を眺める
冒険話をする友達だってできるかも
規則正しい生活 医者にもかかれる
 
拘禁刑を夢見る老婆に
諸行無常の 風が吹く
 

老人賦(69)~節子は 自分の名前が~
               26.8.8 小暮宣雄
 
節子は 自分の名前が 平凡すぎて 嫌いだった
だからせっちゃんは 瀬里奈という名前になった
瀬里奈にふさわしい話し方 手紙の文字 心持ち
テストの名前欄に小見川瀬里奈と書いて叱られる
 
女子高を卒業して美術大学の受験予備校に通った
銀座のケーキ屋さんがいつも詩を募集していて
何度も応募して一度だけ店内のカードになった
二度の落第保育士になろうと小見川節子に戻る
 
東大の五月祭に仲間と行ったら 迷子になった
パーマをかけた眼鏡の学生に 声をかけられる
駒込駅への途中 六義園で青葉の匂いにむせた
本当は 有名な三四郎池に 行きたかったのに
幾度かデートをした。待ち合わせは御茶ノ水駅
帰りの握手で電気が走る 明治神宮に個室喫茶
 
彼からの長い手紙 意味が分からず親に見せた
節子 これは体のいい別れだなあと父に言われ
木更津から宮崎へ さよならのハガキを出した

 
老人賦(70)~片思いだった人にはがきを出した~
                26.8.9 小暮宣雄
 
姉は初夜に処女でないことをなじられた
校長先生の娘なのにと古臭いむこだった
だからわたしには いつもパートの前に
貞操を守るのよ きょうちゃん と言う
片思いだった人にはがきを出した習志野
オレンジ色のペンで まっすぐに書いた
宮崎県人のための格安でひっそりした寮
歯ブラシと髭剃り器を 泊まるつもりで 
持ってくるとは思わないぞ オオカミめ
きっちりと抵抗した 情けない顔の男と
それでもいわさきちひろさんの美術館へ
行こうと 西武鉄道の線を間違える男に
ばかばかばか 下準備の仕方がおかしい
羽田で 宮崎県庁の知り合いたちに会う
恥ずかしいことばかり でも少し続いた
部屋の額縁が 振動で落ちる夜中までは
 

老人賦(71)~工場ごと移動したけん小倉弁~
26.8.10 小暮宣雄
 
べとべとがくっつくエプロン
夕暮れお迎えを待つ園児たち
 
1987年 昭和の終わり はやと君
の父親と結婚 バブルと無縁の生活
休日の遊園地と動物園 デパートの
食堂のお子様ランチ ハタ坊だじょ
 
実家に届く 同窓会のはがき
北九州小倉 行ってみようか
気がつくと30歳になっていた
九州から引っ越しした私たち
工場ごと移動したけん小倉弁
の抑揚が 微妙に残っている
 
研修の帰り地下鉄のドア越しに
宮崎県に去ったはずの男がいた
慌てて逃げる東西線の連結部分からそっと
女の子達を連れた奥さんを覗く

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