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その「過去最高益」、信じて大丈夫?——利益の"質"は、売掛金と在庫に出る

〜「儲かった」と「現金が増えた」は、同じではない〜

※この記事は、これまでの無料シリーズ(PERやねだんの話)の流れの中の一本です。次回から始まる実践編「決算書で会社を読む」の、いわば"入口"にあたります。むずかしい簿記の知識はいりません。「利益は出ているのに、なぜか危ない会社」を見抜く目を、一緒に養います。

黒字なのに潰れる——でも、それは"あなたの持ち株"では起きにくい

まず、衝撃的な話から。世の中には「黒字倒産」という現象があります。利益はきちんと出ている(黒字)のに、会社が資金繰りに詰まって倒産する。「儲かってたのに、なんで?」と思うはずですが、現実に起こります。

仕組みはこうです。製品を売って利益を計上しても、その代金がすぐ現金で入ってくるとは限らない。入金は数ヶ月先、なのに家賃・給料・仕入れ代金は今すぐ出ていく。手元の現金が尽きた瞬間、帳簿は黒字のまま、会社は止まる——これが黒字倒産です。

ただ、ここで正直に言っておきます。この「黒字倒産」、私たちが普段ニュースで見る大きな上場企業では、めったに起きません。 上場企業は、いざとなれば銀行から借りたり、株や社債でお金を集めたりできる。資金の蛇口が太いので、一時的に現金が詰まっても、たいてい埋められるのです。だから「みんなが注目している銘柄が、ある日黒字のまま倒産する」というのは、正直、あまり現実的なシナリオではありません。

では、黒字倒産の話は、株を見るうえで無意味なのか? いいえ、逆です。黒字倒産は"極端なケース"であって、その根っこにある現象——「利益は出ているのに、現金になっていない」——は、上場企業でも、もっと静かに、もっと頻繁に起きている。 そして、それは決算書のある場所を見れば、ちゃんと兆候が出ているのです。今日はそこを見にいきます。

カギは「利益は意見、現金は事実」

ここで、一生使える言葉をひとつ。「利益は意見、現金は事実」。

利益というのは、実は"約束"を含んだ数字です。商品を売った瞬間、まだ代金を受け取っていなくても、「売れた」として利益に計上していい——会計にはそういうルールがあります。だから利益は、「これだけ儲かる"はず"」という見込みを含んだ、いわば意見。一方、現金は、財布に今いくらあるかという、動かしようのない事実です。

優良な会社は、計上した利益が、ちゃんと後から現金になって返ってくる。ところが、利益(意見)ばかりが膨らんで、現金(事実)がついてこない会社がある。「過去最高益」と発表しているのに、その利益が"紙の上の数字"のまま積み上がっている——そういう会社が、実在するのです。

では、その「利益が現金になっていない」状態は、どこに表れるのか。代表的なのが、売掛金(うりかけきん)と在庫の、2つの膨らみです。

サイン①:売掛金が、売上の伸び以上に膨らんでいないか

売掛金とは、「商品は売ったが、まだ代金を回収していないお金」です。ツケで売った分、と思えばいい。

売上が伸びれば、売掛金もある程度は増えます。これは自然なこと。問題は、売掛金が、売上の伸びを大きく超えて膨らんでいるときです。たとえば売上は前年の1.2倍なのに、売掛金は2倍になっている——これは黄色信号。

なぜ危ないか。考えられるのは、こういうことです。

  • 売上の数字を作るために、回収できるか怪しい相手にまで、無理に売っている(いわゆる押し込み)

  • 決算をよく見せるため、期末ギリギリに無理やり売上を計上した

  • そもそも、取引先からの入金が滞り始めている

どれであっても、結末は同じ。膨らんだ売掛金は、最後まで回収できなければ「貸し倒れ」となり、いつか損失として、利益をまとめて食い潰す。 つまり今期の「過去最高益」は、来期に取り消される前借りだった、という話になりかねない。利益という意見が、現金という事実に裏切られる瞬間です。

ざっくりの目安として、「売掛金 ÷ 1ヶ月分の売上」で、"何ヶ月分の売上が、まだ回収できていないか"が見えます。これが年々のびていたら、回収が遅れている=利益の質が落ちているサインかもしれません。

サイン②:在庫が、売上の伸び以上に膨らんでいないか

もうひとつが在庫です。在庫とは、「作った(または仕入れた)けれど、まだ売れていない商品」。これは、現金が、商品という姿に変わって、倉庫で眠っている状態だと考えてください。

ここも理屈は売掛金と同じ。売上の伸びを超えて在庫が膨らんでいたら、「作ったのに捌けていない」「需要を読み違えた」サインかもしれない。

在庫の怖さは2つ。ひとつは、現金が在庫に化けて動かせなくなること。もうひとつは、売れ残りが古びて価値を失えば、「評価損」として、これもまた利益を食うこと。 山積みの在庫は、未来の利益を先食いした地雷になりうるのです。

売掛金も在庫も、共通しているのは——どちらも「利益として計上したけれど、まだ現金になっていない」ものだということ。この2つが、売上に不釣り合いに膨らんでいる会社は、「儲かっている」の中身が、現金ではなく"未回収の約束"と"売れ残り"で水増しされている疑いがある。黒字倒産の根っこと、まったく同じ構造です。

なぜ、これがPLには映らないのか

ここが、今日いちばん伝えたいこと。

「過去最高益」というニュースは、決算書の**1枚目・PL(損益計算書)**の話です。売上がいくら、利益がいくら。でも、今見てきた売掛金も在庫も、PLには金額として並びません。それらが書いてあるのは、2枚目・BS(貸借対照表)の"持ち物"のページなのです。

だから、PL(利益)だけ見て「最高益だ、買おう」と判断する人には、その利益の中身が現金なのか、それとも未回収の約束と売れ残りなのか——利益の"質"が、まるごと見えていない。 同じ「最高益」でも、現金がしっかり伴った本物と、紙のまま膨らんだ危ういものがある。その違いは、PLの外、BSにこそ出る。

これが、「PL(儲け)だけでなく、BS(持ち物)を読む」ことの、いちばん実戦的な意味です。

まとめ:今日持ち帰る3つ

  1. 「黒字倒産」は上場企業ではまれ。でも根っこの現象「利益は出てるのに現金になっていない」は、上場企業でも静かに起きている

  2. そのサインは、売掛金と在庫の"膨らみ"に出る。 売上の伸びを超えて膨らんでいたら、その利益は現金ではなく"未回収の約束"と"売れ残り"で水増しされている疑いがある(=利益の質が低い)

  3. これはPL(1枚目・利益)には映らない。 売掛金も在庫も、2枚目・BS(貸借対照表)に書いてある。「最高益」を鵜呑みにせず、BSで利益の"質"を確かめる——それが、ニュースに振り回されない投資家の目

次回予告:いよいよ、BSを開きます

今日は「なぜBS(2枚目)を読む必要があるのか」という入口でした。次回からは、実際にそのBSを開いて、一緒に読んでいきます。

題材には、ちょっと変わったものを使います。私自身が経営している会社です。経営者が、投資家の目で、自分の会社の「潰れない力」を解剖し、最後には実際に「値段」までつけてみる。今日出てきた"利益の質"とはまた別の角度から、BSという1枚の表に、会社の本当の体力と性格がどう表れるのか——その読み方を、ゼロから身につけていきましょう。

連載はマガジン『株の適正価格シリーズ』で。フォローしておくと、次回を見逃しません。

※本記事は特定銘柄の売買を推奨するものではなく、決算書の読み方を学ぶための教育コンテンツです。売掛金・在庫の見方は考え方を簡略化して説明しており、適正水準は業種により異なります。投資判断はご自身の責任でお願いします。


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