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経験を語り直した瞬間、ありたい自分が動き出す ― JCDAが大切にしてきた『経験代謝』とは

こんにちは。日本キャリア開発協会 公式noteです。
いつもご愛読ありがとうございます。

「JCDAと言ったら『経験代謝』ですよね」
そんな声を耳にする機会もずいぶん増えました。

私たちが長年育んできた『経験代謝』という考え方。相談者の語りのなかにあるその小さな種を丁寧に扱い、「ありたい自分」が自然と立ち上がってくるプロセスは、出来事の背景にある価値観や願いに意識を向けてキャリアカウンセリングを行うJCDAらしい関わり方です。

経験には、その瞬間には気づけなかった“自分らしさ”が静かに宿っています。その経験を語り直したとき、人はどのように自己理解を深め、どんなふうにキャリアが動き出していくのか――。

今回は、立野 了嗣 会長の「キャリアカウンセリングとは何か 改訂版」の論文をもとに、JCDAのキャリアカウンセリングの核となる『経験代謝』のエッセンスをご紹介します。

キャリアカウンセリングとは何か 改訂版
特定非営利活動法人 日本キャリア開発協会



1. 経験とは何か

経験代謝では、経験を「出来事」と、そこから生まれる「考えや感情」の組み合わせとして捉えます。
出来事そのものは客観的ですが、それをどう感じ、どんな意味を見いだすかは人によって異なります。その主観性が加わって初めて“経験”が成立します。

電車で有名人を見かけても、「驚いた」「憧れた」「普通の人と同じ」など反応は様々です。大切なのは、その反応そのものに、すでにその人の世界の見方が反映されているということです。
経験代謝は、この「経験」を丁寧に扱い、そこに映る自分の価値観に気づくプロセスです。



2. 自己概念とは何か

経験に投影される“モノの見方・考え方”を「自己概念」と呼びます。
自己概念とは、人生の中で育まれてきた、自分や世界をどう理解するかという内的枠組みです。

  • 仕事をどう捉えるか

  • 人との関係をどう考えるか

  • 何を大事にし、何を避けたいと思うか

  • そして「自分はどうありたいのか」

こうした個人の価値観の中心にある方向性が、自己概念の核をつくります。

自己概念は普段は“水面下”にあり、意識されないまま働いています。
しかし、経験を再現し、それに伴う感情・思考を丁寧に見つめると、ふっと自己概念が立ち現れてきます。
これが、経験の再現から意味の出現へとつながっていく『経験代謝』のサイクルが動き始めた瞬間です。



3. 経験の再現 —— 自分の内側に戻る入り口

経験代謝サイクルは、まず「経験の再現」から始まります。これは、相談者がその時の状況をありのまま語り直すプロセスです。

  • どんな場面だったのか

  • 何が見え、何が聞こえたのか

  • どんな感情が生まれたか

  • 何を考えたのか

このように具体的な描写に戻ることで、その経験が「生きたもの」として再び立ち上がります。

キャリアカウンセリングの場面で、相談者が「転職したい」「何をしたいかわからない」と結論だけを語ることがあります。
しかし、そこには必ず「そう思うに至った経験」があります。その経験を再現すると、忘れていた感情や違和感、願いが思い出され、自己理解が動き出すのです。



4. 意味の出現 —— 経験の背後にある“見方”が姿を現す

経験を丁寧に再現すると、その背後にある自分の価値観が浮かび上がってきます。これを「意味の出現」と呼びます。

意味の出現は、新しい意味の創造ではありません。もともと心の背景にあったものが、経験の語りを通して“見えてくる”プロセスです。

春の道で桜を見て「微笑みかけているように見えた」と語った学生は、経験を再現していくうちに「努力が報われた気がした」「新しい学校への期待があった」という背景の気持ちに気づきました。
そこには、「努力は実を結ぶ」というその人独自の自己概念が浮かび上がっているのです。



5. 意味の実現 —— 立ち現れた意味を“生きてみる”一歩

「経験の再現」と「意味の出現」を行き来する中で、相談者の内側に“ありたい自分”の方向性が輪郭を帯びてきます。人はその意味を確かめるように、新しい経験へと歩み出します。これが「意味の実現」です。

それは大きな決断ではなく、立ち現れた価値観を小さな行動として試してみるということです。そうした試みの中で、相談者は「これは自分にとって確かに大切だ」という手触りを得ていきます。

そこで生まれた経験は再び「再現」され、新たな意味が出現し、自己概念がゆっくり育っていきます。意味の実現とは、人が主体的に意味とともに生きていくための一歩なのです。



6. キャリアカウンセリングの目的とは

キャリアカウンセリングの目的は「問題解決」や「意思決定」ではありません。経験代謝では、それらを “自己概念の成長”の一部 として位置づけています。

キャリアカウンセラーが、相談者の経験を「事柄」として扱うと、問題の原因探しや解決策の提示に引っ張られがちです。
しかし、重要なのはその出来事に対して相談者がどう感じ、どう考えたのか——つまり自己概念に焦点を当てることです。

「自己概念の成長」を意識して話を聴くと、相談者が語る経験の中に、自然と“成長の芽”が見えてきます。



7. 自己概念の成長とは何か

経験代謝における「自己概念の成長」とは、
心の中で切り離していた部分同士が、再びつながり直していくプロセス
と捉えています。

人は、自分の中に「見たくない部分」「避けたい部分」を抱えることがあります。
それらを排除したままでは、出来事や他者との関係においても、同じように“つながれない状態”が生まれます。

キャリアカウンセリングは、語られた経験を通して

  • 見たくなかった自分とつながる

  • 受け入れがたい出来事とつながる

  • 避けてきた他者とのつながりが少しずつ回復する

こうした“つながりの回復”を支援します。
これが「自己概念の成長」であり、キャリア形成の根になっていくのです。



8. ありたい自分とは何か

ここまで述べてきた経験・自己概念・出現・再現・実現の中心にあるのが、「ありたい自分」です。

ありたい自分とは、
自分が“良い”と感じる方向へと、自然に向かわせてくれる内的なエネルギーのことです。

  • 外から与えられる理想像ではなく

  • 誰かと比較してつくる目標でもなく

  • 自分の内側にすでに存在している方向性

これが「ありたい自分」です。

「ありたい自分」は、自己概念の幹にあたります。
その幹から枝葉として、仕事観や人間観、家族観などの“自己概念”が広がっています。

そして、経験に投影される価値観や判断の背景には、この“ありたい自分”のエネルギーが働いています。

  • 何を大切にしたいのか

  • どんな人でありたいのか

  • どう生きていきたいのか

これらはすべて「ありたい自分」の現れです。

経験代謝は、この“ありたい自分”の輪郭を経験から浮かび上がらせ、その方向性に沿って行動を選べるようになるためのプロセスだと言えます。



おわりに

経験は、ただ積み重なっていくものではなく、その人の内側を静かに映し出すひとつの風景のようなものです。語り直すたびに、その輪郭が少しずつ変わり、そこに込めてきた思いや願いが、ふっと立ち上がってきます。

『経験代謝』は、その小さな変化を丁寧に扱っていくプロセスです。
JCDAが長く大切にしてきた「事柄ではなく、そこに映る“その人らしさ”に寄り添う」というこの関わり方は、相談者の内側にある「ありたい自分」という静かなエネルギーにそっと手を添えるような営みとも言えます。

語られた経験が意味を帯びていくとき、人は少しだけ、自分とのつながりを取り戻します。そのつながりが、次の選択へと自然に歩を進めていく――キャリアは、そんな穏やかな流れのなかで形づくられていきます。

これからもJCDAは、一人ひとりの語りに耳を傾けながら、その人の中に眠る力が、ゆっくりと息を吹き返す瞬間を支えていきます。

あなたが今日まで歩んできた経験が、これからの未来を照らす柔らかな光になりますように。


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