【シン・少子化】第3回:人口爆発は「例外」だった
20世紀が特殊すぎた理由
「昔は子どもをたくさん産んでいた」「なぜ今はそれができなくなったのか」——少子化の議論では、こうした比較がよく行われます。
しかし、ここで一度、冷静に問い直す必要があります。本当に「昔」が普通で、今が異常なのでしょうか。
結論から言えば、20世紀の人口増加こそが、人類史の中では例外的な出来事でした。
今回は、なぜ20世紀に人口が爆発的に増え、それがなぜ「当たり前」のように記憶されているのかを整理します。
人類の人口は、長い間ほとんど増えていませんでした
人類が誕生してから長い間、人口は非常にゆっくりとしか増えませんでした。数字を見ると、その「遅さ」が際立ちます。
国連人口基金(UNFPA)の推計によれば、西暦0年に約2.3億人だった世界人口は、1000年経っても3.2億人、さらに500年後の1500年でも5.0億人にとどまっていました。1500年間で約2倍強にしか増えなかった計算です。
——出典:UNFPA / 日本工業大学専門職大学院「人口動態から世界を俯瞰する」

この時代、疫病・飢饉・戦争が定期的に発生し、人口は増えては減り、また回復する——という循環を繰り返していました。人口が安定的に増え続ける社会は、長らく存在しなかったのです。
20世紀に何が起きたのか
20世紀に入ると、この長い前提が一気に崩れます。
国連の推定では、1900年に約16億人だった世界人口は、1950年には約25億人となり、1998年にはおよそ60億人にまで急増しました。約100年で4倍近くに膨らんだことになります。
——出典:Wikipedia「世界人口」(国連推計をもとに)
この爆発的な増加を支えた要因は、大きく3つあります。
① 医療と衛生の急激な進歩
ワクチン・抗生物質・上下水道の整備——これらにより、生まれた子どもが生き残る確率が飛躍的に高まりました。
人口学では、この現象を「人口転換(demographic transition)」と呼びます。
人口転換とは、社会の近代化にともない、「多産多死型」から「多産少死型」へ、さらに「少産少死型」へと変化することです。死亡率の低下が出生率の低下に先行することで、一時的に自然増加率が大幅に上昇します。
——出典:Wikipedia「人口転換」/ イミダス「人口転換」

出生率が高いまま死亡率だけが急低下したため、人口が一気に増えたのです。
② 食料生産の飛躍的向上
化学肥料・機械化・品種改良(いわゆる「緑の革命」)によって、食料不足が急速に解消されました。「子どもを産んでも食べさせられない」という制約が、大きく緩んだのです。
③ 国家による人口動員
20世紀は、戦争・復興・経済成長の時代でもありました。多くの国で人口は国力そのものと捉えられ、「産めよ増やせよ」の家族政策が推進され、女性の役割の固定化が進みました。
「たくさん産む理由」が揃いすぎていた時代
20世紀は、偶然にも
子どもが死ににくく(死亡率の急低下)
食料が足り(農業革命)
国家が人口を求める(戦後復興・経済成長)
という条件が同時に成立した時代でした。
人口増加率がピークを迎えたのは1963年で、年率2.27%に達しました。その後、2000年には1.2%前後に低下し、2020年以降は1%を下回りました。
——出典:国連世界人口推計 / Eleminist「世界の人口の推移」

年率2.27%という数字は、人類史上ほぼ前例のない速度です。重要なのは、この状態が「普通」だったわけではないという点です。
私たちは「例外」を基準にしてしまっています
現在の少子化議論では、無意識のうちに、20世紀の人口構造を正常な状態として捉えてしまっています。
世界の総人口は1800年頃までは緩やかに増加してきたものの、その後短期間に急激な増加に転じました。背景として、産業革命以降の産業構造の変化、科学技術の進歩、社会変革など様々な要因が挙げられています。
——出典:日本工業大学専門職大学院「人口動態から世界を俯瞰する」
つまり、20世紀型の増加こそが例外です。言い換えれば、私たちは「例外的に人口が増えた時代」を基準にして、現在を評価しているとも言えます。
だから「元に戻っている」ようにも見える
現代社会では、医療はすでに成熟し、出生率は合理的に下がり、国家が人口を強制しない状況にあります。
近年では日本を中心に少子高齢化の進行にともない、従来の人口転換理論では想定されていなかった「少産多死型」の形態が現れはじめています。
——出典:Wikipedia「人口転換」
この状態を「異常」と見るか、「長期トレンドへの回帰」と見るかで、政策の発想は大きく変わります。
少子化は「失われた何か」ではありません
20世紀の人口増加を「理想」「正常」「取り戻すべき姿」と考えてしまうと、少子化は常に「失敗」に見えます。
しかし文明史・近代史の視点では、少子化は特別な時代が終わった結果とも捉えられます。
問題は「減っていること」ではありません
本当に考えるべきなのは、人口が減っていることではなく、減ることを前提に社会をどう設計するかです。
20世紀モデルを前提にした社会制度は、人口減少下では必ずどこかで歪みます。
次回予告
次回は、女性の経済的自立は、なぜ出生率を下げたのかを扱います。
これは価値観の問題ではなく、構造の話です。個人の幸せと社会の持続性が、どこですれ違い始めたのかを整理します。
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