二つある家 第4話

第4話 旅行のはなし

 夕方、リビングのテーブルに地図が広がっていた。

「今年、どこにする?」

 かなえが言う。

「もう決めてるよ」

 おじさんがスマホを見せた。

 山の写真が映っている。
 川が細く光っていた。

「ここ、涼しいかな」

 まどかが言う。

「温泉ある?」

 ゆかが聞く。

「あるよ」

「やった」

 ゆうまは写真をのぞき込んだ。

「部屋、広い?」

「五人で寝られるよ」

 五人で寝る。
 それは、毎年のことだった。

 夏休みになると、どこかに泊まりに行く。
 場所は毎年違う。
 五人で行くのは変わらない。

「夏休み入ったらすぐ?」

「うん」

 かなえがカレンダーを見る。

「初日。仕事も休み取った」

「よかった」

 まどかが言う。

 二人が目を合わせる。

 ゆうまは、それを見なかったふりをした。

「今年も五人で?」

 なんとなく口に出る。

 一瞬だけ、空気が止まる。

「うん」

 おじさんが言う。

「当たり前でしょ」

 かなえが笑った。

 それで決まりだった。



 出発の前の日。

 ゆうまはリュックを広げる。

 Tシャツを二枚、短パンを一枚。
 パジャマを丸めて押し込む。

「ゲーム持ってっていい?」

「いいけど、なくさないでね」

 まどかが言う。

 引き戸の向こうで、ゆかの声がする。

「これ持ってく!」

 足音が近づき、引き戸が開く。

 ゆかが小さなポーチを振って見せた。

「それ何?」

「ヘアゴム」

「いらないだろ」

「いるの」

 かなえが後ろから顔を出す。

「ちゃんと自分で持つならいいよ」

「持つ!」

 ゆかはポーチを抱えて戻っていく。

 引き戸が閉まる。

 それも、いつも通りだ。



 出発の朝は、少し早い。

 まだ空気が涼しい。

 玄関にバッグが並ぶ。

「忘れ物ない?」

「大丈夫」

 ゆかが言う。

 おじさんが車のトランクを開ける。

 荷物を積む。

 まどかがタオルの袋を持ってくる。

「それ、あとでいいよ」

「え、そう?」

 そんなやりとりがある。

 トランクが閉まる。

 ゆうまは先にドアを開けた。

「オレ、前乗る!」

「ずるい」

 ゆかが言う。

「じゃあ帰りね」

 かなえが言う。

「シートベルト、しめてね」

 おじさんが言う。

「わかってる」

 助手席に座ると、視界が少し高くなる。

 ハンドルの向こうに、道がまっすぐ伸びている。

 バックミラーの中に、後ろの三人が小さく映る。

「行くよ」

 エンジンが鳴る。

 車がゆっくり動き出す。

 住宅街を抜ける。
 コンビニの前を通る。
 信号で止まる。

 家が小さくなっていく。

 玄関が二つ並んでいるのが、最後に見えた。

 夏休みが始まった。

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