二つある家 第5話

第5話 車の中

 車は住宅街を抜けて、大きな道に出た。

 窓の外の家が、ゆっくり後ろへ流れていく。

「音楽、かけていい?」

 ゆうまが言う。

「いいよ。ゆうまの好きなのでいいよ」

 おじさんが答える。

 ボタンを押すと、明るい曲が流れた。

 後ろで、ゆかが小さく歌い出す。

「上手だね」

 おじさんがバックミラー越しに言う。

「ほんと?」

 ゆかの声が少しだけ大きくなる。

 かなえとまどかが笑う。

 車はしばらくまっすぐ進む。

「眠くない?」

 おじさんがゆうまに聞く。

「まだ平気」

「酔ったら、すぐ言ってね」

「うん」

 やわらかい声だった。



 サービスエリアの看板が見えてくる。

「寄ろうか」

「うん」

 車が止まる。

 ドアを開けると、少しひんやりした空気が入ってきた。

 駐車場には家族連れが多い。

 五人で並んで歩く。

「トイレ行ってくるね」

 おじさんが言う。

「はーい」

 かなえが答える。

 ゆうまとゆかは売店の前で立ち止まる。

「ソフトクリーム食べたい」

 ゆかが言う。

「朝から?」

 まどかが笑う。

「二人で一つにしよ」

 かなえが言う。

「半分こね」

「やった」

 白いソフトクリームを、ゆかが持つ。
 ゆうまが横から一口食べる。

「落とさないでね」

 かなえがティッシュを差し出す。

 おじさんが戻ってくる。

 紙コップのコーヒーを持っている。

「おいしい?」

「うん」

「溶ける前に食べないとね」

 やさしい声だった。

 五人でベンチに座る。

 隣のベンチにも、家族がいる。

 父親と母親と、子どもが二人。

 笑い声が似ている気がした。

 ゆうまは少しだけ見て、目をそらす。



 また車に戻る。

 高速道路は長い。

 トンネルに入ると、音が変わる。

 暗くなって、すぐに明るくなる。

 ゆうまは、ハンドルを握るおじさんの手を見る。

 大きな手だった。

「ねえ」

 小さく言う。

「ん?」

 目は前を向いたまま。

「……さ」

 言葉が続かない。

「どうした?」

 急かさない声。

「なんでもない」

「そっか」

 それだけだった。



 山道に入る。

 カーブが増える。

「もうすぐだよ」

 おじさんが言う。

「ほんと?」

「うん。あとちょっと」

 木の建物が見えてきた。

 瓦屋根の、少し古い旅館だった。

 車を止める。

 外に出ると、空気が少し冷たい。

 暖簾のかかった引き戸を開ける。

「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですね」

 帳場の人がやわらかく頭を下げる。

 おじさんが名前を伝える。

 鍵を受け取る。

 木の廊下はひんやりしていた。

 部屋のふすまを開けると、畳の匂いが広がる。

「広い」

 ゆかが言う。

 窓の向こうに山が見える。

 布団は、五枚並んでいた。

 やっと着いた。

 それだけで、少し安心した。

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