ー『ダルいの? それとも、やる気がないの?』ー 司書と司書教諭の会話(心と体)
― 放課後の学校図書館で考える「体」と「心」の違い ―
放課後の学校図書館。
返却カウンターの奥で、八洲ミライが机にぐったりしていた。
「ダルいです……」
楠木恵子が本を整理しながら顔を上げる。
「どっち?」
「どっち?」
「ダルいの? やる気がないの?」
ミライは少し考えた。
「え?」
「違うの?」
「結構違うわよ」
「同じじゃないんですか?」
「生徒も大人もよく一緒にしてるけどね」
恵子は椅子に座った。
「例えば今のミライ」
「はい」
「もし私が」
『北海道の古本屋を巡る3泊4日の旅に行くわよ』
と言ったら?」
ミライは勢いよく顔を上げた。
「行きます!」
「即答ね」
「だって楽しそうじゃないですか」
「つまり?」
「え?」
「やる気はあるじゃない」
ミライは固まった。
「あ……」
「体はダルいけど、旅には行きたい」
「確かに」
「だから今のミライは『やる気がない』じゃなくて『ダルい』可能性が高い」
「なるほど!」
恵子は続ける。
「逆の例もあるわ」
「逆?」
「体は元気」
「はい」
「睡眠も十分」
「はい」
「お腹も空いてる」
「はい」
「でもレポートを書こうとすると」
「うっ」
「急に動画を見始める」
「うっ」
「机の掃除を始める」
「うっ」
「冷蔵庫を開ける」
「うっ」
「トイレに行く」
「うっ」
「本棚の並びを直す」
「うううっ」
恵子が笑う。
「これは体がダルいんじゃない」
「やる気の問題ですか」
「意欲の問題ね」
ミライは腕を組んだ。
「つまり」
「うん」
「ダルいは体」
「うん」
「やる気ないは心」
「ざっくり言えばそう」
「じゃあ私は今日は体がダルいだけですね」
「本当に?」
「え?」
恵子はニヤリと笑う。
「じゃあ今から蔵書点検やる?」
ミライは天井を見上げた。
「……」
「どうしたの?」
「ちょっとやる気もないかもしれません」
「正直でよろしい」
二人は笑った。
しばらくしてミライが尋ねる。
「でも先生」
「なに?」
「ダルいとやる気ないって、結局セットになりません?」
「なるわね」
「ですよね」
「例えば寝不足」
「はい」
「体はダルくなる」
「はい」
「すると脳も働きにくくなる」
「はい」
「するとやる気も落ちる」
「なるほど」
「逆もある」
「逆?」
「人間関係で悩む」
「はい」
「ずっとストレスが続く」
「はい」
「やる気がなくなる」
「はい」
「すると何もしたくなくなる」
「はい」
「体まで重く感じる」
「ありますね」
「だから完全に別物じゃないの」
恵子はノートに簡単な図を書いた。
ダルい
↓
動けない
↓
やる気がなくなる
やる気がない
↓
活動しない
↓
体もダルくなる

「悪循環ですね」
「そう」
「怖いなぁ」
「だから大事なのは」
「はい」
「自分が今どっちなのかを見分けること」
ミライはうなずく。
「体がダルいなら」
「寝る」
「休む」
「食べる」
「生活リズムを整える」
「なるほど」
「やる気がないなら」
「気合いですか?」
「違う」
「違うんですか」
「5分だけやる」
「おお」
「作業を小さくする」
「おお」
「誰かと一緒にやる」
「おお」
「ご褒美を用意する」
「それ好きです」
恵子は笑った。
「人間は思ったより機械じゃないのよ」
「はい」
「そして思ったより根性でも動いてない」
「それは安心します」
ミライは椅子から立ち上がった。
「よし」
「元気になった?」
「いえ」
「え?」
「相変わらずダルいです」
「じゃあ帰りなさい」
「でも」
「でも?」
「北海道の古本屋ツアーの計画なら立てられます」
恵子は吹き出した。
「それは完全にやる気がある人の発言ね」
「つまり今日の結論は」
ミライは指を一本立てた。
「ダルい=体が重い」
「うん」
「やる気がない=心のエンジンがかからない」

「うん」
「そして私は」
「うん」
「体はダルいけど旅の話になると元気」
「健康診断では測れないタイプね」
放課後の図書館に、二人の笑い声が響いた。
