見出し画像

『昭和の光景 - 激動の時代を生きた愛のかたち』 第3回『マイホーム』(1973年)

マイホーム

「ここが、私たちの家」

妻の幸子と並んで、新居の玄関に立つ。
1973年の春。
25年ローンの始まりだ。

「洗濯機、どこに置く?」
「そうねぇ…」

二人で間取りを確認する。
2DK、68平米。
新築の匂いが部屋中に漂う。

「お隣は、同じ会社の田中さんですって」
「へぇ、そうなんだ」

郊外の新興住宅地。
電車で都心まで50分。
みんな、同じような夢を見ている。

「冷蔵庫は月賦で買わない?」
「カラーテレビも欲しいね」
「あ、全自動洗濯機も!」

電化製品のカタログを広げ、二人で将来を描く。
夢は膨らむが、給料は据え置き。

「残業、増えるかな」
「私もパート探そうかな」
「でも…」
「大丈夫、家事も頑張るから」

日曜の朝、幸子が育てた朝顔が小さなベランダで咲く。
「すごく綺麗」
「でしょう?」

隣の奥さんと洗濯物を干しながら会話。
「ご主人、帰り遅いでしょ?」
「ええ。でも、これも将来のため」

休日はDIYに挑戦。
「この棚、歪んでない?」
「まあ、いいじゃない」
素人の仕事に二人で笑う。

「あなた、見て!」
ある朝、幸子が目を輝かせる。
「なに?」
「赤ちゃん…」

ローンの返済表を見つめると、あと24年と6ヶ月。
しかし、不思議と重荷には感じない。

「こっちの部屋を子供部屋に」
「早すぎない?」
「だって…」
幸子が頬を染める。

夜遅く、会社から帰ると、
リビングの明かりが消えている。
幸子はソファで眠っていた。
「ただいま」
「お帰りなさい…」

日々は静かに過ぎていく。
目覚まし時計の音、炊飯器のスイッチ、洗濯機の唸り、
すべてが新しい生活の音。

「返済、大丈夫かな」
「なんとかなるわ」
「子供の教育費も…」
「一緒に頑張りましょう」

今夜も台所から幸子の夕飯の支度の音が聞こえる。
「何作ってるの?」
「カレーよ。野菜たっぷりの」

ささやかな幸せ。それは、高度経済成長の中の、ごく普通でありながら確かな夢である。

「ねぇ」
「なに?」
「しあわせ?」
「うん、とても」

外は雨が降っている。
しかし、この家の中は温かな光に満ちている。

終わり

#1970年 #ノスタルジア #昭和時代 #1000文字小説 #高度経済成長 #学生運動 #学園紛争 #全共闘運動 #経済格差 #マイカーブーム #社会変革 #海外旅行ブーム #文化交流 #日本経済の成長 #フォークソング #ニューミュージック #グループサウンズ #フォーク喫茶 #ギター #シンガーソングライター #作詞 #音楽サークル #カラーテレビ #新幹線 #大阪万博 #月着陸 #クーラー #電卓 #ジャンボジェット #パソコン #民間航空 #自動車産業 #家族の絆 #青春の葛藤 #革命精神 (理想への熱意) #自由 #故郷との距離 #教育 #夢と現実 #家庭内の役割分担 #結婚観 #住宅ローン #残業 #OL働く女性 #都市生活 #銀座喫茶店 #デザイン #団地 #市電 #新興住宅地 #共働き #パートタイムジョブ #パスポート #スチュワーデス #添乗員 #古いアルバム #農家 #公衆電話 #ミニスカート #ベルボトム #長髪 #スーツ制服 #ヘルメット #ノーネクタイ