蟒蛇に…
お師匠さんから「お茶のお稽古をいたしましょう」と誘われて、むっちゃんと喜んで、お稽古をして頂いた日
同じお部屋の片隅にお師匠さんのご主人のタツ先生から教えを乞う炭点前をしている姉弟子さんがいた
この姉弟子マルコさんはずっとお茶をやっている
しかもお茶菓子の勉強までして、週に一度週末には社中へお菓子を届けられる
お師匠さんは彼女の名前を取ってそのお菓子のことを「マルコ庵のお菓子」と呼んでいる
マルコさんも最初はお菓子に釣られてお茶を始めたという
それからはかなりの歳月、お茶に関わっているようである
私はまだまだ齧ったばかり
はっきり言うけど何にも分かっていない新参者
一年なんてお茶をやっているうちには入らない
今日は初めての棚点前のお稽古だ
いつものように抹茶茶碗、茶巾、茶筅を用意する
棗は最初から棚の上
建水に蓋置きと柄杓を持って立ち上がる
相変わらず私は柄杓に遊ばれる
むっちゃんも自分のお点前だけど
「姉弟子、お願い」と私に準備を頼んで来る
私も「はい、はい」と安請け合い
水屋で準備をしていると炭点前をお稽古の終わった姉弟子マルコさんからチェックが入る
茶巾の畳み方、棚点前では蓋置きは陶器のもの、建水も金物が良いと教えられる
なんとなく茶巾の畳み方も我流になっていた
お茶の世界は奥が深いと再び実感する
私はどうして縁もゆかりもない世界に首を突っ込んでいるのだろう…
そうだ、初めはお茶会である
母の新盆に「お茶を飲みにいらっしゃい」とお社さんに誘われて
私はホイホイとコーヒーでも飲みに行くように気軽に参加をするが…
場違いなところに放り込まれた
懐紙もない、扇子もない
喉にモソモソと押し込むのは堅い虎屋の焼き菓子
頼りにしていたお師匠さんもいない
一度だけかと思っていたが、次は正式なお茶会に行くことになる
私には今のお師匠さんしか頼る人はいない
「お客さんだけなら」と教えを乞う
それから暫くして母の帛紗が出て来て
お点前の練習を始めることに
右も左も分からない不器用者の上に左利き
お師匠さんもとんでもない者を数年ぶりに弟子にしたという
私は私でお師匠さんの人柄とお茶が好きかも知れないと辞めようとは決して思わずにお稽古は淡々と続いている
お師匠さんは私がいつ辞めると言い出すかとハラハラしていた
そんな時にむっちゃんがやって来る
むっちゃんも最初は「お客さん」(お茶を飲む作法)だけでいいと頑なだった
カチコチだった私のお点前をずっと見ていたむっちゃんがある時
「かなちゃん、上手くなったよね」と言い始め
「私もお点前をやろうかな」とポツリとつぶやく
でもむっちゃんは昔々にお茶を習っていた
だから所作はとても綺麗である
「私たちはお猿だから…」
いつの間にかむっちゃんがそんなことを言い始める
(えぇ私もか?)
ちょっとだけ内心は反発するものの
私はむっちゃんに飲み込まれてゆく
まぁいいか…
そんなお猿な妹弟子たちを見てお菓子を作る姉弟子マルコさんはタツ先生にこっそりと
「あの人達はなんなのですか」と尋ねてきたという
やっぱりそうか、訳の分からない変なおばさんが二人でお稽古紛いのことをやっていると思われたに違いない
タツ先生はいつもお稽古のない日の私たち秘密兵器の特訓を隣りの部屋から聞いていて、「君たちのはお稽古じゃない」とお師匠さんにも言われている
まだまだお茶の世界は分からない
まるで蟒蛇のようなもの
さてどっちが蟒蛇なのだろう…
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