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少しずつ

しばらくぶりのお稽古だった

むっちゃんは昔お茶を習っていたからが空いても忘れていないけど、進まないとお師匠さんはコッソリと教えてくれる

どうやら身体が覚えているらしい

私はといえば間が空くと…お師匠さんに心配される
「がたがたになってはいないかと」

私はまだまだお子様だ
今までは赤ん坊のようにお師匠さんから扱われるものの、最近は少しだけ自分でよちよちと歩けるようになったらしい

お師匠さんに放って置かれても大丈夫

忙しいお師匠さんは今年に入ってから一中節も習い出す

お茶会や篠笛につづみ、源氏物語の解読会と歌舞伎、美術館へとマグロのように動き回る

昔からお師匠さんを知っている姉弟子さんは「最近は以前より家にいる」と話される

そうか…もうお茶のお弟子は取らないと言っていたところにお師匠さんは親さまからのご縁で私を託されたんだ

忘れもしない…
二年前の今頃に「お友達はお弟子にしない」と断られた

それは私だけではないと後から分かる
他の友達にも同じことを話されているようである

親さまという縁ある方からのお願いされ、お社さんにも後押しをされる

お師匠さんは私をお弟子にしてくださったのはそれから少し経ってから

最初のうちは仕方がないとさわりだけの「なんちゃって」茶道を教えてもらう

付け焼き刃でもいい、お茶のおの字も知らない私にはお茶会に出なければならないというミッションがあったから

「なんちゃって」で終わるのかと思っていたが、母の帛紗が見つかってお点前のお稽古をすることになる

最初の頃は姿のない母も一緒に付いてきたとお師匠さんは感じたようだ

とっても不器用者の私にはお茶は不向きと良く分かり、もう五十年以上もお茶と関わっているお師匠さんもいつも心の底では私からいつ辞めると言い出すかとハラハラして見ていたらしい

ところが一向に私には辞めるそぶりがみえて来ない
メクラ滅法、呼ばれるとお稽古場にやっては不器用を晒していた

そのうちにむっちゃんが「お客さんだけでいいから、かなちゃんのお稽古に入れさせて」と言ってくる

私はむっちゃんのことを良く知らなかった
むっちゃんはお師匠さんと同じマチコ先生に篠笛を習っているという、昔からお師匠さんとも顔馴染みのとても人懐っこい人である

精神世界の話しも詳しくて、ものすごく個性的な人
グイグイ、グイグイとやってくる

私はずっと母と二人でお友達の要らない井の中の蛙で生きて来た
人の中にいても余り関わらないでいられたのだった

ところが母がいなくなり、私にも小さな世界が開けてくる

私は母以外の人に身を委ねることを知るようになる

身を委ねると言ってもそこは母との関係とは全く違うが、お師匠さんやむっちゃんは私のことをまるで子供のように扱う

「この人がちゃんと一人前に子供を育てたなんて」
いつでもそう言われている

むっちゃんは一人暮らしの私が「具合が悪くて食べられない」と告げると、私のことを心配して、いつも自分で作ったおかずや玄米ご飯を持って来てくれる

お師匠さんには「むっちゃんはかなちゃんを甘やかしている」と言われている

本当はむっちゃんだって甘えん坊だけど、私にとっては年の離れたお姉さん
それでもお茶のお稽古では「姉弟子、姉弟子」と私を持ち上げる

むっちゃんもみんなから可愛がれる存在なんだ
放って置けないものを持っている

私とむっちゃんはどこか似ているのだろうか

やっぱり二人はお師匠さんの秘密兵器のおさるさん


私には自分では強い信念なんかあるとは思っていなかったが、そこはもう四十年近く親さまの教えを学んでいる
どこかでいつも親さまの教えが入っているようだ

不思議だけどお茶もやめようとは思わない

今日は約一か月ぶりのお稽古になる
家では気まぐれにお茶を点てる時もある

行く前にYouTubeで薄茶点前の稽古を流す
予習にもならないけれど

私なりに努力する

雨の中、むっちゃんよりも少し早めに稽古場に行くとお師匠さんは待っていた

むっちゃんが来る前にお稽古を始めようとするが、お師匠さんと長話しをしていたら、むっちゃんはすぐに来た

棚点前のお稽古だった
私からのお点前でむっちゃんはお客さん
私は二回すると二回目にはどうにか形になるとお師匠さんから言葉をかけられた

すぐに忘れてしまうけど、本当に少しずつ進んでいるらしい


二回目のお点前を終え、私は母の月命日の花を買いに行くために、これから二回目のお点前の代わりに篠笛の稽古を見てもらうむっちゃんは置いて帰って来た

お師匠さんの家を出ると帰り道は土砂降りの雨が降っていたのである


今日は不思議なことにお茶を茶筅で点てる時にふっと茶筅を軽く持ち上げた感覚を掴んでいた

ちょっと肩の力が抜けていた

こうして少しずつ少しずつお茶を点てることに慣れてゆくのか

毎日とはいかないけれどお茶を点てる練習をしたいと思えた
(ただ思うだけで実際にはほとんどしていないが…)

その場で感覚を掴めたことをお師匠さん伝えると優しく微笑んでくれる

不器用な弟子が少しずつ進んでいることを喜んでもらえたことは私とっても嬉しかった





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