なぜコーナリング中に「トラクションを掛けろ」と言われるのか
はじめに
バイクに乗っていると、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
「コーナリング中はトラクションを掛けろ」
――そう言われて、なんとなく分かった気になっているのかもしれません。
まずは、身近なもので確かめてみましょう。
机の上に消しゴムを置いて、軽く指を乗せてみてください。
そのまま横に押してみる。
たいした力もいらず、スーッと動いてしまいます。
次に、同じ消しゴムを、今度は上からグッと押さえつけてみてください。
そのまま横に押すと――さっきよりずっと動かしにくいはずです。
同じ消しゴム、同じ机なのに、押さえつける力の強さだけで、動きにくさがまるで変わります。
これが、トラクションの正体である。
面と面が、どれだけ強く押し合っているのか。
それだけで、横方向へのズレやすさが決まってしまいます。
スキーで言えば、これがエッジングにあたります。
板を雪面に押し付けて食い込ませるからこそ、板はズレずに雪を捉える。
逆に押し付けが弱いと、板はただ雪の上に乗っているだけになり、アイスバーンのような滑りやすい路面では、あっさりツルンと流れていってしまいます。
では、バイクの場合はどうやってこの「押し付け」を生み出しているのでしょうか。
答えは、スロットルにある。
アクセルを開けると、後輪が回転しようとする。
その力はチェーンを通じてスイングアームに伝わるのだが、ここに面白い仕掛けがあります。
スポーツバイクの多くは、前後のスプロケット軸を結んだ線よりも、スイングアームの取付位置(ピボット)が上にある構造になっています。

「伸びる」と聞くと、タイヤが路面から浮くようなイメージを持つかもしれない。
ですが実際には逆で、伸びながら突っ張ることで、リアタイヤは路面へと押し付けられます。
さっきの消しゴムを、指ではなく、サスペンションという仕組みで押さえつけていることになります。
そしてコーナリング中は、タイヤに横方向の力がかかり続けている。
ただ乗っているだけの押し付けでは、この横の力に負けてズレてしまいます。
だからこそ、駆動力を掛けて意図的にリアタイヤを押し付け、面と面の食いつきを強くしてやる必要があるのです。
これが、「コーナリング中はトラクションを掛けろ」と言われる理由です。
難しい理屈は、実はどこにもない。
消しゴムを指で押さえつけたときの、あの感覚。
それがそのまま、二輪の後輪の下で起きていることなのです。
