見出し画像

奇跡のような一日 奈良女子大と洋傘店

その日は、朝からやや強い雨が降っていました。
あまり外へでたくないけど、そうもいかない。だってゴミの日だから。
満杯になった30Lのゴミ袋を抱えながらしぶしぶ傘を開いたそのとき、


バキッ


いや~な破壊音がしました。

あ・・・

それなりに気に入っていた花柄のビニール傘はみごとに歪み、見るも無残な姿に。横着したわたしが悪いんです。
でも、


思い出がある傘なのに。
長傘はこれ一本しか持ってないのに。
これから梅雨の季節がやってくるというのに~。


ショックです。
仕方ない、晴雨兼用のちょっといい折り畳み傘を使おうかな。でもね、実はこの折り畳み傘も一箇所軽く破損してる。

いよいよ修理に出すしかないか。
長傘も新しいのを一本買おう。



♪ ♪ ♪



ならまちで友とお茶した帰り道、雨はあがっていました。

アーケード街でお団子と天ぷらを買い求めたあと、”きたまち”へ自然と足が向かいます。

奈良へ引越してまだ間もない頃、とくにあてもなくぶらぶらと散歩をしていたとき、偶然にも「洋傘店」を見つけました。いまどき珍しい傘の仕立て屋さん。ぱっと見普通の民家で中の様子を窺い知ることはできませんでしたが、仕立てができるなら修理もできるはず。


よし、これから行ってみようか。


洋傘店へ向かうために、いつもと違う道をてくてく歩いていると、


奈良女子大 正門


奈良女子大学といえば、東京のお茶の水女子大と並ぶ国立女子大。ここにあることはもちろん知っていましたが、正門に来たのは初めてでした。しかも、ちょうど一般公開をしているようです。



なんですか?!この素敵空間は!


改修工事前、最後の一般公開?
今しか見られない。
先を急ぐわけでもないし・・・

よし、寄ってこ!



美しい~



すー、は~~



明治42年建築ですって



照明がまた素敵!


一階は4つの展示室、二階は講堂。

ほの暗い館内に入ると、どこからかピアノの音がします。
曲は、ショパンのノクターン。

雨上がりによく似合うその曲に吸い寄せられて、赤い絨毯が敷かれた階段をゆっくりと上ります。一歩また一歩ピアノの音に近づくたびに期待と好奇心がふくらんで、溢れそうなほど。

そして、講堂に足を踏み入れました。



講堂


まるで映画のセットに迷い込んだようなノスタルジックな空間に、グランドピアノが二台。「自由に弾いてください」という案内をみて、見学に訪れた人々が興味深そうにピアノに触れています。

若いいのちを奏でる人、思い出を奏でる人、それぞれの思いを乗せて講堂に響く音色は、とても100年前のピアノとは思えない膨らみのある豊かな音に聞こえました。

そして、隅に置かれたもう一台も、本来なら主役をはれるほどの逸品。


STEINWAY&SONS
超高級ピアノ


素敵空間に、素敵ピアノ。

100年ピアノの人が途切れるのを待ちながら窓の外を眺めると、雨上がり徐々に広がる青空とみどり輝く若草山を背に、ひときわ大きな屋根が見えます。東大寺の大仏殿でしょう。

あぁ、ずっとここにいたいなぁ。
たぶん、二時間くらい平気でいられる。



ふいに人が途切れた気配がしました。
よし、いまがチャンス!

「国産最古級の100年ピアノ」見聞録、はじめましょう!


透かし彫りの譜面台



これはなんの意匠?パイナップル?



ペダルにもトゲトゲ
やっぱり、パイナップル??



真ん中のロゴが剥落しているのが残念
”神武天皇即位紀元”と皇紀表記が見えますね


黒鍵は、高級ピアノらしく黒檀こくたん
白鍵は変色した象牙でなかったのが意外でしたが、ひょっとしたら傷みが激しかったか何かの原因で取り換えたのかもしれません。

あとは・・・
あ、鍵盤数もちがいますね。最高音のキーが少ない。

ふ~む。
明治の職人たちが作り上げたピアノ、重厚感ある装飾と存在感に圧倒されます。

ほんとうは弾きたいけど、楽譜の持ち合わせもないし、それなりに人がいたので断念。きょうはこのピアノに出会えただけで十分幸せ。



まるで北欧のような



♪ ♪ ♪


さてと、
思わぬ寄り道でるんるん気分。足取りも軽く洋傘店へ。

チャイムを押してから玄関へ入ると、人のよさそうなお母さん(店主さん)が出てきてくれました。傘を見せながら修理できるかどうか尋ねると、

「あぁ、こんなんすぐできるよ。ちょっと待っとって」

驚きました。修理できるとしても、数日預けて・・・かなと思っていたので。そして10分も待たずに戻ってきた店主さん。

「これ、ええ傘やね」
「はい、ここね、ちょっと糸の色が違うけど直しといたよ」

うわ~、ありがとうございます!
こんなにすぐに直していただけて助かりました。お代は・・・?

「そんなら、100円もらっとこか」

え?
ひ、ひゃくえん??
それだけでいいんですか???

親切なうえに気前がいい店主さん。
聞けばこれまでに新聞やテレビなどいろんなメディアで取り上げられているらしく、全国から注文がくるのだとか。

わたしはテレビも新聞も縁がないので、たまたま見つけられて運が良かった!


それにしても100円だけお支払いして去るのもなんだか心苦しく・・・
あ、そうだ、こちらで長傘販売してるかな?


「長傘?あるよ。こっち上がって見ていって」


店主さんが段ボールから取り出して広げてくれた傘は、どれもこれも美しい!

うわ~、きれいですね~
見ているだけで幸せな気持ちになります~


「あんた、ええもんわかるね。これはどれも日本製。甲州織や」
「この仕入屋さんはもうなくなってしまって。いまやったらもっと高いだろうけど」


聞いたお値段に、再びびっくりしました。
たぶん、いま普通に買ったら3倍はすると思います。

ピンク系、ベージュ系、青系、紫系
いくつか広げてみて、これ!という色に決めました。



修理してもらったコ
これも(たぶん)甲州織



今回迎えたコ
かわいい!


思わぬラッキーがいくつも続いた、奇跡のような一日。

目に見えない存在から「さあ、どうぞどうぞ」と言わんばかりのギフトに、しばらく興奮冷めやらずでした。奈良の神さま仏さまがちゃんと見守ってくれてるんだなぁ。どれもこれもありがとうございます。

これで雨の日もご機嫌☺


♪ ♪ ♪


そっか、ピアノ・・・忘れてた。
そろそろどこかの街角ピアノに、会いに行こうかな。






いいなと思ったら応援しよう!

つきふね お気持ちありがとうございます。大切に使わせていただきます。