戦闘操縦課程(その2)
基礎飛行訓練審査(EVA1)を終了すると、いよいよ戦技訓練へ移行します。戦技訓練の課目は、要撃戦闘、対戦闘機戦闘、空対空射撃の三つでした。
要撃戦闘は GCI(Ground Control Intercept) と呼ばれ、地上の警戒監視レーダー部隊と連携して、彼我不明機の識別や攻撃を行う訓練です。これは、いわゆる領空侵犯機に対応するスクランブル任務の基本となる行動です。
対戦闘機戦闘は ACM(Air Combat Maneuver) と呼ばれ、一般に空中戦やドッグファイトと呼ばれる戦闘機同士の機動戦闘を想定した訓練です。
空対空射撃は、T-2に装備されている20mmバルカン砲を使用し、T-33が空中で曳航する標的(バンナーターゲット)に対して射撃を行う課目です。使用するのは訓練弾ですが、実際に射撃を行うため非常に緊張する訓練でした。
要撃戦闘訓練
この課程で学ぶGCIには、シングル・オフセット・スターンアタックとダブル・オフセット・スターンアタックがあります。T-2の学生訓練では主にダブル・オフセット・スターンアタックを演練していました。
訓練では、警戒監視レーダー部隊の要撃管制官の指示を受けながら、彼我不明機(ターゲット)へ向かいます。
この要撃は、夜間や雲中を含む全天候での攻撃行動を想定しているため、旋回時のバンク角は最大60度に制限されています。
最初は要撃管制官の誘導によって機動しますが、自機のレーダーでターゲットを捕捉すると、「要撃を引き継ぐ」と宣言し、以後は自機のレーダー情報をもとに行動します。自機の針路・高度・速度を把握しながら、ターゲットとの位置関係や交角を計算し、適切な攻撃位置に占位できるよう機動します。
言葉で説明するとこのようになりますが、実際には刻々と変化する状況を瞬時に状況を把握しながら航空機を操縦しなければなりません。訓練当初はレーダー操作に集中しすぎて航空の操縦(特に高度保持)が疎かになり、高度変化によってレーダー操作が更に難しくなるとう状況でした。この訓練では適切な注意配分が必要で、一連の動作が形になるまでにはかなりの時間を要しました。
ある日の訓練では、スクランブル発進の訓練がありました。
まずはスクランブル待機のためのセットアップを行います。航空機のもとへ行き、外部点検を実施します。その後コックピットに乗り込みエンジンを始動し、プリタクシーチェックまでを終了させます。確認が終わると、いったんエンジンを停止します。
ヘルメット、酸素マスク、パラシュートはコックピットに載せたままにし、パイロットは待機場所である飛行隊前に移動してスクランブル待機に入ります。
しばらくすると、「ジリリリリ……」
と、けたたましいサイレンが鳴り響き、スクランブルが発令されました。
待機していたパイロットと整備員は、一斉に航空機へ向かって走ります。
一番早く到着するのは学生パイロットです。次に若い整備員、そして最後に教官がコックピットに収まります。おそらく年齢の差もあるのでしょう。教官がコックピットに収まる頃には、学生パイロットはすでにパラシュートの装着を終え、ヘルメットをかぶり、酸素マスクを装着するタイミングに入っています。後席の状況を確認したところで、まずインターフォンチェック(Interphone Check)を行います。後席の教官と整備員からの応答を確認すると、すぐにエンジンスタートです。訓練とはいえ失敗できない任務と考えると緊張はMAXになります。
ここまでの所要時間は、およそ1分半ほどです。
エンジン始動後は管制塔からTAXI許可を得て地上滑走し、そのまま離陸します。
訓練の場合は他の航空機との関係もあり優先権がないため、スクランブル発令から5分以内の離陸という厳密な制限はありません。しかし、実際にアラート待機に就いている戦闘機の場合は、スクランブル発令から5分以内に離陸することが求められています。
対戦闘機戦闘訓練
当時のACM(Air Combat Maneuver)では、基本機動としてヨーヨー(YO-YO)とバレルロール・アタックがありました。これらの基本機動の詳細は、文章で説明するのが難しいためここでは割愛します。
訓練は、まず基本機動の演練から始まり、次に1機対1機の対戦闘機戦闘へと進みます。ここでは優位戦と劣位戦の両方を実施しました。
優位戦では、ターゲットと自機の位置角、交角、針路角を判断し、高速YO-YO機動を行うか、あるいはバレルロール・アタックを行うかを瞬時に決定します。その際、必ず確認しなければならないのが速度です。速度は機動するためのエネルギーであり、速度が不足している場合に選択できる機動は低速YO-YOに限られます。もし実戦で速度を失えば、撃墜されるのを待つか、ベイルアウトするかという極めて厳しい状況になります。
一方の劣位戦では、相手の機動の内側に入るように最大Gで操縦桿を引き、相手との交角を大きくします。そして劣位の状態からニュートラルの位置関係に持ち込み、そこから相手の攻撃圏外へ離脱する戦法をとります。
ACMでは、自機の高度、速度、姿勢を瞬時に判断しながら機動し、最終的にターゲットの後方に占位することが求められます。もちろんターゲットも機動しているため、旋回戦闘になれば大きなGがかかります。T-2は最大7.33Gまで掛けることができ、7Gともなれば体重の約7倍の重力に耐えながら戦闘を行うことになります。このような技術は簡単に身につくものではありません。しかし、だからこそ追求したくなる技術でもありました。学生であった私にとって、ACMはとにかく楽しい訓練でした。教官から「お前たちのACMは異常接近が続いているだけで、戦闘になっていない」と厳しい指導を受けても、それほど気にならないほど夢中になっていたように思います。
ある時などは、夢の中でもACMをしていました。そして「これは使える」と思った機動があれば、目が覚めたときにノートに書き留め、実際の訓練で試してみたりもしていました。
ACMの最終段階は、2機対1機の基本機動でした。ここでも優位戦と劣位戦の両方を実施しましたが、編隊内の連携はなかなかうまくいきませんでした。お互いがどのような役割を担っているのかが明確でなく、連携が取れていない場面も多くありました。もっとも、この2機対1機のACMは大きな意味ではデモンストレーション的な位置づけであったため、教官の怒号もそれほどなく訓練は終了したと記憶しています。
ただし課題は多く残りました。編隊内の連携不足に加え、旋回中にターゲットを見失うことや、編隊機とターゲットの識別がつかなくなることなど、改善すべき点が数多くあったことを覚えています。
