「陰毛時計屋ポプ・サッブ」(短編小説)非おむろ──千五百字
白雪踊る受験の季節に文化祭をやるのは伊達か、酔狂か、はたまた教師の間での政争からか。まあ理由は扨置き、数年前から岐阜県立山県北高等学校では大桑祭──文化祭が一月に開催されるとのことだ。狂っている。
狂っているが商機。僕はキャンピングカーを塒(ねぐら)とする商人、商機を逃す訳にはゆかぬ。高校生達が露店や降霊や演劇やUFO呼びやアカペラで自棄糞気味に盛り上がる中、愛車からしれっと簡易セットを出して出店した。無論無許可だが、受験の季節にやっている文化祭なのだ、此程度は第一の問題たり得ない。
寒い。雪が降り積もっている真っ只中故、当然か。五十五歳には厳しい寒さだ。
「いらっしゃいませー」
「「「ぎゃー!!!」」」
雪の積もる中、僕の屋台の周辺には早くも人集りが出来た。……併し、何故か遠巻きといった塩梅で、誰も商品を買おうとしない。
「何うしたんだい兄ちゃん姉ちゃん達。近くに寄って、手に取って見て御覧よ。陰毛時計だよー」
陰毛時計。撥条仕掛けに非ず。砂時計の砂が陰毛になった時計である。要は、砂時計の亜種だ。砂時計と言って了ってもよいだろう。
屋台の上部にはでかでかと、〈陰毛時計屋ポプ・サッブ〉の字。
人集りには生徒達のみならず、保護者や近隣住民と思われる大人達も少なからず居る。
「こらーッ!!!!!」
突然、大声。人集りを掻き分けて私の前に初老の男性が登場した。
雪が強く降って来た。今にも音を立てるのではないかという位に。
男性は、肩で息をし乍ら私を睨みつけた後、息を整え、述べた。
「貴様! 陰毛時計販売罪で逮捕する!」
「そんな罪はありませんよ。何方ですか?」
「私は教頭の東海だ!」
「トウカイ?」
「東の海と書いて、東海だ!」
僕は其故郷・氷見市に多き苗字を聞き、改めて眼前の男性を注視した。
「……トーちゃんか!?」
「は!? ……え!? も、若しや君……本部君!?」
「如何にも!」
「本部三君!」
「然様!」
久闊を叙した。久し振りだと挨拶をしたのだ。氷見市の旧友と四十余年振りに山県市で邂逅うとは、人生とは解らぬものである。
トーちゃんは言う。
「本部君、な〜にが陰毛時計屋ポプ・サッブだよ、バズの運転手が足りてねえんだ、やってくれ! ぼく、斡旋するとお金貰えるんだよ、組織から」
「其は良いけど、なんだって此んな時期に文化祭なんかやっているんだい? 此高校は」
「承久の乱後に此地を治めた逸見一族の霊を鎮める為……というのは表向きの理由。実際の理由は、寒い時期に文化祭をやると、老若男女、使い捨てカイロを落とすだろう?」
「落とす……かな?」
「夏よりは、落とす確率が上がるだろう?」
「まあ、夏よりは」
「だろう!? あっしは、中古の使い捨てカイロに陰茎を擦り付けるのが大好きなんだ」
「ほう……」
会話が此処迄進んだ時、岐阜県警察が駆け付け、僕等を警棒で殴り始めた。
吹雪。
一年半後。
服役の後、僕等二人はバスの運転手として活躍している。本当の本当に人手不足だったらしい。結果としてはトーちゃんも懲戒免職になって良かった訳だ。教頭にはもっと教頭っぽい者が成ればよい。
お釣りがぴったりでない乗客には無論、八百五十円で陰毛時計を売っている。小銭を作る必要が有ると気が付いた乗客が、何とも言えない渋い笑みを浮かべ乍ら、陰毛時計を購う。
ふさり、ふさりと黒き縮れ毛達は、今日も山道で時を刻む。
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