ふわっとことばあそび【溜め息】
列車のロングシートはゆるく満席だった。
左隣の女性からは、不快ではないけれど好きでもないコロンの香りが薄く漂う。右隣の女性からはロングヘアからわずかに脂っぽい香り。
真ん中の私は、どんな匂いを放っているのだろう。
つい先程までいた美容室のシャンプーの香りがしていたら良いのだけれど。
自分の匂いは分からない。
不快な匂いを放っていても、おそらくは指摘されない。
なにやら、そら恐ろしい気分になって来る。
鼻先を掠めるだけの香りのはずが、コロンの彼女の持つハンディファンに撹拌され、鼻腔の奥へと進む。
長距離じゃなかったことにほっとしながら、小さく溜め息をつく。
気分の悪さを軽く感じて、ペットボトルの水を少し口に含む。
鼻腔の奥まで到達していたらしいコロンの香りは、水に味を付ける。
息をするたび鼻腔を往復して、脳みそに、ふ・か・い 一文字ずつの刻印を刻んでゆくようだ。
好きでもなかった香りが、キライになる瞬間を味わった気分になり、いつもより長く感じた駅ホームに到着したとたん、転がり出て大きく息を吸う。
あぁ、駅の匂い。
懐かしく濃厚な気がして、ありがたい。
あまり清潔な空気ではないかもしれないけれど、深呼吸をする。
深呼吸の吐く息は、溜め息とは成分が違うんだろうか。
ふと、そんなことが頭をよぎる。
小刻みに鼻を動かす呼吸に切り替えて、エスカレーターへ向かう。
iさんの企画に参加させて頂きます。
よろしくお願いいたします🙇♀️
