【第16回】在宅避難を可能にする部屋づくりの考え方
「避難=避難所に行くこと」ではない
災害が起きたとき、多くの人が「避難所に行かなければ」と考えがちです。
しかし、避難とは「難を避ける」ことであり、必ずしも避難所へ移動することだけを意味するわけではありません。
在宅避難とは、地震などの災害が起きたときに、今いる場所に火災や爆発、建物の倒壊等の危険がなく、自宅で身の安全が確保され、引き続き住める場合に、自宅で避難生活を送ることです。
実際、過去の大規模災害でも在宅避難は多くの人が選択してきた現実的な選択肢です。
阪神・淡路大震災の被災地のうち、被害が大きかった地域では、約6割の被災者が在宅避難生活を余儀なくされていました。
今回は、在宅避難を可能にするために、部屋づくりの観点から何を準備しておくべきかを解説します。
なぜ在宅避難という選択肢が重要なのか?
避難所での生活は、慣れない集団生活や環境の変化によって心身共に負担がかかりやすく、多くの避難者が集まると感染症拡大のリスクも高まります。
避難所では、プライベートの確保が難しく、隣の会話も聞こえてしまう環境になりがちです。
一人あたりの生活スペースは1.65平方メートル程度とされ、食事時間や消灯時間などの共同生活のルールにも従う必要があります。
在宅避難であれば、こうした集団生活特有のストレスを避けながら、住み慣れた環境で過ごすことができます。
特に乳幼児や要介護者、ペットがいる家庭にとっては、大きなメリットになります。
在宅避難できるかどうかの判断基準
在宅避難は「したいから選ぶ」ものではなく、「自宅が住み続けられる状態であるかどうか」で判断すべきものです。
在宅避難をするためには、自宅が住み続けられる状態であることが重要です。
大きな地震の後、電力が復旧した際に起こる通電火災を防ぐための感震ブレーカーの設置や、建物の耐震化、家具の転倒防止などを行い、安全な環境づくりを心がける必要があります。
日常生活をするうえで他人のサポートが必要かどうか、また大地震発生時は断水や配水管の破損によりトイレが使えなくなる可能性が高いため、自宅のトイレが使用できるかどうかを事前に確認しておくことも重要な判断材料になります。
自治体によっては、在宅避難が可能かどうかを判定するチェックリストやフローチャートを公開している場合もあります。
事前に確認しておくと、実際の災害時に迷わず判断できます。
部屋づくりの3つの視点
視点1:安全な空間を確保する
前回解説した家具の転倒防止対策は、在宅避難を可能にするための大前提です。
寝室や普段長く過ごす部屋の安全性を確保しておかなければ、そもそも「住み続けられる」状態にはなりません。
視点2:ライフラインが止まっても機能する部屋にする
在宅避難をするためには、あらかじめ備蓄や、電気・水・情報などのライフラインが途絶えない住まいを確保する必要があります。
水や食料などの備蓄を用意するだけでは、在宅避難中の生活を続けることはできません。
これはまさに、これまでPart2で解説してきたポータブル電源・ソーラーパネル・携帯浄水器・カセットコンロなどが実際に活きる場面です。
部屋の中に、これらの道具をすぐ使える状態で配置しておくことが重要になります。
視点3:物資を集約する「防災拠点」を部屋の中に作る
内閣府や各自治体は、在宅避難について最低3日分、できれば1週間分の備蓄を推奨しています。
水や食料などの必需品はもちろん、カセットコンロや携帯トイレなど、ライフラインが止まったときのことも想定した備蓄が必要です。
備蓄品が家じゅうに分散していると、いざというときに何がどこにあるか分からなくなります。
一つの部屋、あるいはクローゼットの一角を「防災拠点」として決めておき、水・食料・電源・照明・衛生用品をまとめて配置しておくと、非常時にスムーズに対応できます。
具体的な部屋づくりのポイント
寝室:最優先で安全性を確保する
就寝中は無防備な状態のため、前回解説した家具の転倒防止対策を最優先で行います。
背の高い家具は寝床の近くに置かない、あるいは倒れる方向を変えることが基本です。
リビング・居間:家族が集まる場所に電源とライトを
停電時、家族が集まって過ごす場所には、ポータブル電源とランタンをすぐに使える状態で配置しておきます。
日頃からこの場所で充電・点検を行う習慣をつけておくと、非常時の動作確認にもなります。
トイレまわり:断水を想定した備え
大地震発生時は、断水や配水管の破損によりトイレが使えない可能性が高くなります。
トイレの使用可否を確認する方法をあらかじめ把握し、携帯トイレをトイレの近くに常備しておくことが重要です。
この点については、Part4で詳しく取り上げます。
玄関・避難経路:常に物を置かない
前回触れた通り、玄関や廊下は避難経路として常に物を置かない状態を維持することが重要です。
一次持ち出し袋も、この動線上のすぐ取り出せる場所に置いておきましょう。
情報収集の手段も部屋づくりに組み込む
災害時の情報発信には、防災無線放送、自治体のホームページ、SNS、防災地図アプリ、防災気象情報メールなど複数の手段があります。
どの媒体で情報を受け取れるか、普段から確認しておくことが大切です。
停電時にはスマートフォンの充電が制約されるため、携帯ラジオを備蓄拠点に置いておくことも有効です。
ポータブル電源があれば、スマートフォンの充電を継続しながら情報収集を続けられます。
まとめ:「在宅避難できる部屋」は事前準備で決まる
在宅避難は、避難所生活のストレスを避けられる有効な選択肢である一方、「自宅が安全であること」「ライフラインが止まっても一定期間過ごせること」という条件が揃って初めて可能になります。
家具の固定、備蓄品の集約、電源・照明・トイレ対策を部屋単位で整理しておくことが、いざというときに落ち着いて在宅避難を選択できる備えにつながります。
次回は、感震ブレーカー・ガス遮断の仕組みと設置について解説していきます。
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