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会社には「ちょうどいい大きさ」がある― 100人の会社を率いた私が、拡大の先で失ったもの



はじめに

「会社は成長し続けなければならない」

経営者になってから、私は何度この言葉を聞いてきたでしょうか。

売上を伸ばす。
社員を増やす。
事業を拡大する。
地域を広げる。

大きくすること、それが経営者の使命だと思っていました。実際、世の中には大企業が数多く存在します。だから正しいことだと。

何千人もの社員を抱え、何十年、何百年と続いている会社もあります。だから大きくなることに何の疑いもなく信じていたのです。

しかし、後々気がついたのは、大きくなることではない。自分の会社が、どの程度の大きさで最も生き生きと存在できるのか知ることだと。

問題は知らないまま、拡大だけを追い求めてしまったということです。

私は50年以上経営をしてきました。

数名で始めた会社は、20年目で社員100名近くの組織になりました。数字だけを見れば、順調な成長だったと言えるかもしれません。

しかし、その過程で私は大切なものを失いました。

創業当初に大切にしていた、「楽しく、自由に、気軽に」という空気です。

今振り返ると、私は会社を成長させることには一生懸命でしたが、会社を成熟させることを知らなかったのだと思います。


数名の会社は「心」で動いていた

創業した頃の会社は、本当に単純でした。社員の人数も少ない。仕事の内容も、そんなに複雑ではない。

何か問題が起きれば、すぐに全員で話し合うことができました。皆、心が通じあえたのです。

私自身も、社員一人ひとりの性格や家庭の事情まで把握していました。

経営理念を紙に書いて掲げなくても、毎日の会話の中で自然に伝わっていました。

「お客様に喜んでもらおう」
「仲間を大切にしよう」
「仕事を楽しもう」

そんな思いだけで会社は動いていたのです。

当時、私は「管理」というものをほとんど必要としていませんでした。社員を疑う必要もない。細かな規則を作る必要もない。

信頼関係が会社の土台になっていました。しかし、社員が増えるにつれて状況は変わっていきました。


100人になった時、昔のやり方は通用しなくなった

20年の間に、会社は少しずつ大きくなりました。社員数は100名近くになりました。

そこで私は初めて壁にぶつかりました。もう、自分一人ですべてを見ることはできない。全員と毎日話すこともできない。

一人ひとりに直接理念を伝えることもできない。そこで私は組織を作りました。部門を分け、それぞれに責任者を置きました。

さらに大手企業を参考にして、二人の副社長を任命しました。会社を二つの大きな組織のように分け、それぞれが責任を持って動く体制にしたのです。

当時の私は、これが正しい経営だと思っていました。大きな会社には大きな会社のやり方がある。組織化しなければ成長できない。そう信じていました。

また、創業3年目頃からコンサルタントを入れ、高額な費用を払いながら経営について学んできました。コンサルタントも大賛成でした。

また、2人の副社長と、古参社員たちと一緒に勉強会へ行き、成功している会社の仕組みを学びました。

「もっと良い会社にしたい」その気持ちは本物でした。しかし、いつの間にか私は大切な方向を見失っていました。


競争を入れた瞬間、仲間がライバルになった

私が導入した仕組みの中に、「競争」がありました。部門ごとに成果を競う。責任者同士が競う。数字を追いかける。

特に2人の副社長はよく頑張ってくれました。今思えば競争させて、申し訳ない気持ちです。

当時は、それが会社を強くすると信じていました。確かに短期的には効果がありました。

売上は伸び、社員もよく働くようになり、会社の内容も良くなりました。

しかし、その裏側で少しずつ何かが壊れ始めていました。仲間だった社員同士が、いつしか競争相手になっていました。

「あの部署には負けるな」「あの人には数字で勝たなければならない」そんな空気が生まれていたのです。

以前なら、お互い助け合っていた人たちが、自分の立場を守ることを優先するようになりました。

相手の失敗を笑う。情報を共有しない。私は、その変化にすぐ気づくことができませんでした。

経営者である私自身が、競争という仕組みを会社に持ち込んだからです。今考えると、問題は社員ではありませんでした。

問題は、私が作った環境でした。組織は人というのを無視していたのです。


会社にも「成熟する時期」がある

日本庭園の庭師は、木を自由に伸ばし続けないそうです。その木が最も美しく見える形を考え、枝を整えるとのことです。

伸ばすことだけが成長ではない。整えることが成長だと。そうか、会社も同じではないかと気づきました。

整えるには社員同志が信頼する必要があります。信頼してこそ、人は石垣、人は城になり得るのだと思いました。

社員10人の会社には、10人だからできる経営がある。社員50人の会社には、50人だからできる温かさがあります。

どれが正しいということではありません。

大切なのは、「自分たちにとって最も良い形は何か」を知ることだったのです。


社長の器とは、拡大する力だけではない

経営者は、会社を大きくする力を求められます。しかし、それだけではないと思います。

本当の社長の器とは、「どこまで大きくできるか」ではなく、「どこで止めるべきか判断できる力」なのではないでしょうか。

成長には二種類あります。

一つは、売上や社員数を増やす「拡大の成長」。もう一つは、人を育て、理念を深め、会社の質を高める「成熟の成長」。

私は前者ばかりを追いかけ、後者を忘れていました。会社を大きくすることに夢中になり、会社を良くすることを後回しにしていたのです。


経営者に必要なのは「止まる勇気」

資本主義の社会では、成長への圧力があります。競合が大きくなれば、自分たちも大きくならなければならない。

売上が前年割れすれば、経営者は不安になる。銀行が離れる。「もっと」という気持ちは、簡単には消えません。

しかし、経営者にはもう一つの勇気が必要だと気づきました。それは、「これで十分だ」と言える勇気だと思います。

満足することではありません。諦めることでもありません。今あるものを大切にし、さらに磨いていくという覚悟です。


おわりに

私は100人規模の会社を経験しました。その経験から学んだことがあります。

会社は、大きければ成功なのではありません。売上が増えれば幸せになるわけでもありません。

本当に大切なのは、その会社で働く人たちが幸せかどうか。お客様から必要とされているかどうか。会社の理念が生きているかどうかです。

もし、もう一度経営をやり直せるなら、私は「100人の会社を作る」という目標は掲げないと思います。

その代わり、「この会社が最も美しく存在できる大きさはどこなのか」を問い続けるでしょう。

会社には、それぞれの「ちょうどいい大きさ」があります。

そして、その大きさを見極めることこそ、経営者に与えられた大きな役割なのだと思います。

今頃では遅すぎの、なし得なかった者の懺悔です。



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