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あやかし宮廷モフモフ【十八】式神たちとの戦い

 おどろいた如虎にょこたちが夜空を見上げると、巨大な黒い鳥が空中を飛んでいました。

 この鳥は人間にも見えるらしく、ヒト族の彩女あやめたちも「何あれ⁉ 鳥の化け物⁉」と騒いでいます。

 巨大な鳥は、猛スピードでギューーーンと急降下きゅうこうかしてきました。

「まずい! あの鳥の狙いは、瑞穂みずほだ!」

 鳥が瑞穂めがけて急降下していることに気づいた吉事よごとが、そう叫びながら剣を抜き、高々とジャンプしました。空中で鳥を斬り伏せるつもりです。しかし、

「う、うわぁ⁉」

 敵は、巨大な鳥一羽だけではありませんでした!

 巨大な鳥より一回り小さい鳥たち十数羽が、どこからともなく飛翔してきて、吉事の腕や背中に次々と体当たりしたのです!

 服の袖がビリビリと破れ、彼のひきしまった右腕があらわになります。その手首には、空色の腕輪が――瑞穂にとって非常に非常に見覚えのある、かつて自分がはめていたお守りの腕輪がありました。

(やっぱり、そうだ! 吉事くんは……!)

 空中でバランスをくずした吉事は、地面にドスンと落ちました。

 体が地面にたたきつけられる瞬間、腕輪が青白く輝き、落下の衝撃を少し弱めてくれたようですが、それでも高いところから落ちたのにはかわりありません。吉事は痛そうに顔をゆがめています。

「よ、吉事くん⁉ だいじょうぶ⁉」

「他人の心配をしている場合か! 瑞穂、逃げるんだ!」

 吉事は、地に伏したまま叫びましたが、時すでに遅し。巨大な鳥は、グワァーっ! と不気味な鳴き声を出しながら瑞穂の眼前に舞い降りました。

「う、うわわ⁉ この鳥、わたしじゃなくて、諸食もろくいさまの魂を狙ってる⁉」

 巨大な鳥は、大きなくちばしを開けて、邪悪に穢れきった諸食の魂(鬼の下半身?)にくらいつきました。瑞穂が鬼の頭(になりつつある部分)のほうを持って一生懸命引っ張っても、絶対にはなそうとしません。

 この鳥たちは、諸食の魂が鬼に変化する決定的瞬間を見られて、鬼の正体がバレたらまずいと考えた百歳老師が呼び出した式神しきがみです。秋虫あきむしのおかげでもうバレちゃているのですが、式神たちはそんなこと知りません。必死に、瑞穂から諸食の魂をうばおうとしています。

「ぐ、ぐぎぎぃ~! はなしなさぁ~い!」

「オラも手伝おうぞぉ~! がおーっ!」

 戦闘熊民族の女の子が、瑞穂の華奢きゃしゃな腰をガシッと両手でつかみ、思いきり引っ張りました。

「おりゃ~! ぐるんぐるーん! どうだ、目が回るだろぉ~! はなさないと、気持ち悪くなって吐いちゃうぞ~! がおーっ!」

「うひゃぁ~! く、熊さん、わたしごと振り回すのやめてぇ~! は……吐きそ……おえええっ‼」

 戦闘熊民族の女の子は、瑞穂と巨大な鳥を棒切れのごとくブーンブーンと振り回します。でも、鳥は魂にしっかりと食らいつき、けっしてはなそうとしません。

「ば……馬鹿! そんなに乱暴に振り回したら、魂が真っ二つになってしまうぞ! だれか、あの熊族の彩女を止めるんだ!」

 吉事が、梅香うめかの手を借りてよろよろと立ち上がりながら、そう叫びました。

 しかし、如虎や阿雪あゆきたちは、小さな鳥の大群にはばまれて、瑞穂の元へ駆けつけることができません。

「た……魂が真っ二つ⁉ そ、それは大変ですニャン! ……おーい、熊さん! 魂を乱暴にあつかうのはやめてくださいニャン! 魂が真っ二つにちぎれたら、諸食さまがどうなるかわかりませんニャン!」

 如虎が、猫パンチで鳥たちと戦いながら、そう叫びました。しかし――。

「がおーっ! がおーっ! これが戦闘熊民族の怪力だぞーっ!」

「ひ……人の話をぜんぜん聞いていないですニャン……。ああいうヤツ、腹が立ちますニャン……」




「ひえー! 鳥の怪物たちこわーい!」

 戦闘能力が皆無な秋虫は、すっかりおびえきっています。

 他のヒト族の彩女あやめたちも、めいめい悲鳴を上げていました。

「みなさん、うろたえてはいけません。あの鳥たちは、夜行鬼やぎょうきとはちがって、人間のわたしたちにもはっきり見えます。姿が見える相手なら、鬼ほど恐れる必要はありません。足元にある石をひろって投げつけてやりなさい」

 梅香は、ヒト族の彩女たちをそうはげまし、空中を飛び回る鳥の群れめがけて投げました。

 石は思いの外の豪速球ごうそっきゅうで飛び、鳥の頭にクリーンヒット!。

 かなり痛いのでしょう。「ぎげぇ~!?」と鳴きながらジタバタしています。

 吉事は、その隙を逃さずに再びジャンプ。右手首の腕輪を青白く輝かせながら剣をふるい、真っ二つにしました。斬られた鳥の体は、ただの木の札にもどりました。

「鬼とちがって、物理攻撃がきくんだ!」

 秋虫がそう叫ぶと、他のみんなも「あれだけたくさんいたら、適当に投げても当たるかも?」と口々に言い合いました。

 おお。秋虫たちヒト族の彩女が、手に手に石を持ち始めましたよ?

「それー! どんどん投げちゃえー!」

 がんばれ、ヒト族の彩女たち!




 一方、瑞穂はというと――。

「おえええっ‼ く、熊さん、もう振り回すのはやめ……おえええっ‼」

 戦闘せんとうくま民族みんぞくの女の子にまだジャイアントスイングをされていました。

 瑞穂と巨大な鳥は、諸食の魂の引っ張り合いっこを継続中けいぞくちゅう。熊族の少女は、諸食の魂に食らいついてはなれない鳥を吹き飛ばそうと、瑞穂の体ごとジャイアントスイングをしているのですが……鳥よりも瑞穂のほうが辛そうです。振り回されすぎて気持ち悪くなり、さっきから「おえええっ‼」ばかり言っています。

「おい、熊公くまこう! 魂がちぎれるからやめなさいニャン!」

 如虎は、襲いかかってくる鳥たちに猫連続パンチをしながら、熊族の少女を叱っていますが……。

「うわははは! もっともっと振り回してやるぞー! がおーっ!」

 如虎の話をまったく聞いていません!

 戦闘になると、まわりのことが見えなくなる。これ、戦闘熊民族の豆知識です。

「おえええええぇぇぇぇぇぇーーーーーーっ‼ 」

「コラーーーっ‼ 戦闘熊民族ぅぅぅ‼ 瑞穂さんが乙女にあるまじきひどい状態じょうたいになっているから、いい加減やめなさいニャーーーン‼」

「も……もういい! わたしが何とかする! このままだと、胃の中にあるものをぜんぶ出しちゃいそうだから!」

 瑞穂は、霊剣れいけん『天上の花』を召喚しょうかんしていっきにかたをつけることを決意しました。

 天上の花をフルパワーで使えば、諸食の魂を浄化するだけでなく、なぞの黒い鳥たちもやっつけることができるはずです。

九尾きゅうびの狐姫の名のもと召喚す‼ 顕現けんげんせよ、『天上の花』‼」

 瑞穂が紅い瞳をカッと光らせると、体からすさまじい霊気オーラがわき出て、諸食の魂に食らいついていた巨大鳥をあっけなく吹っ飛ばしました。戦闘熊民族の女の子も「が、がお~⁉」と叫びながら後方にゴロゴロと転がります。

 地面にふわりと着地した瑞穂のお尻には、九つの尻尾しっぽ。パワーアップ瑞穂の再登場です!

「天上の花、降臨こうりん!」

 いつの間にか右手ににぎっていた霊剣を高々とふりかざすと、瑞穂はそう叫びました。

 彩女の仲間たちは、「ポケポケ狐の瑞穂が、何かすごいことになってる!」とおどろいているようです。

 吉事は、「あれが……天上の花。修行を積んで、召喚できるようになったんだな」とつぶやいていました。……おや? 彼の目にうっすらと涙が浮かんでいるような?

「いっきにいっちゃうよ! ……浄花じょうか繚乱りょうらんっ‼」

 瑞穂は霊剣『天上の花』を天にかかげたままそう叫び、剣の切っ先からまばゆい光をあふれさせました。その光はあたり一帯をつつみこみ、巨大なドーム――光のまゆを形成していきます。

 光の繭からは、浄化の紅い花びらが無数にふりそそぎ、鬼化しつつあった諸食の魂や黒い鳥たちは、その花の雨を浴びました。

「諸食さまの魂が、鬼っぽい形からもやもや~とした雲みたいな形に変わっていきますニャン! ふつうの魂の形にもどりましたニャン!」

「すっきり浄化されて、魂から黒い部分がなくなっていくですぅー! よかったですぅー!」

 式神の鳥たちも、瑞穂の強大な霊力によって無力化され、ただの木の札にもどっていきました。

 瑞穂は、ふぅ……と息を吐きながら霊剣を手から消します。尻尾も九つから一つにもどりました。




第十九話「倉持と百歳老師」につづく




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