急性カーテンコール中毒 #毎週ショートショートnote
──拍手が、止まらない。
舞台の上、スポットライトに包まれた瞬間、彼は確かに感じた。
「これが、生きているってことか」と。
演劇サークルの仲間たちは、終演後すぐに打ち上げに向かったが、彼だけは舞台袖から離れなかった。
客席の余韻、拍手の残響、幕の揺れ。
そのすべてが彼の脳を甘く痺れさせた。
翌日。
職場でも、彼は同僚の「お疲れ様」に無意識で深々と一礼していた。
「どうも! 本日はご来場ありがとうございます!」
──ざわめくオフィス。
上司が苦笑いを浮かべる中、彼は頬を赤らめて「すみません、クセで…」と呟いた。
それからというもの、彼の症状は悪化の一途をたどる。
コンビニのレジでも、会計を終えるたびに深々と頭を下げ、
「本日はご観劇、誠にありがとうございました!」
と声を張り上げる。
そして周囲の視線を浴びると──恍惚の笑み。
医師の診断はこうだった。
「急性カーテンコール中毒。拍手と注目がないと精神が安定しません」
今、彼は自宅のカーテンの前に立っている。
手を掲げ、一礼し、もう一度、一礼。
見えない観客の拍手を浴びながら、静かに微笑んだ。
──その夜、近所からの通報が入った。
「隣の部屋からずっと拍手の音が聞こえるんです…ひとりなのに。」
(506字)
たはらかにさんの企画「#毎週ショートショートnote」に参加させていただきました!
いいなと思ったら応援しよう!
読んでくださってありがとうございます! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます。