隣席の富士山 #毎週ショートショートnote
朝の通勤電車で、僕の隣に座っているのは――富士山だ。
「どっしり」なんてもんじゃない。
裾野がシート三人分を占拠し、リュックを置く隙間すらない。
「おはようございます」
山頂の辺りからモクモクと雲が出て、「おう」と低い声が響いた。
息が白いのは、標高のせいだろうか。
揺れるたびに雪がハラハラと肩に落ちてくる。
隣のサラリーマンはそれを手のひらで受け止めて、ペットボトルに詰めていた。
「これ、天然水にすると売れるんだよ」なんて得意げに。
アナウンスが「次は新富士〜」と告げると、富士山はムクリと立ち上がった。車両全体がドスンと揺れる。
「ここで降ります」
裾野が人々の足をなぎ倒し、あちこちから悲鳴が上がる。
ホームに降りた富士山は、大きく伸びをして言った。
「いやぁ、たまには新幹線じゃなくて在来線もいいもんだね」
僕は思った。――あんたは絶対、立ち乗りのほうが向いてる。
(374字)
#毎週ショートショートnote
#隕石の伯父さん
#隣席の富士山
たはらかにさんの企画「#毎週ショートショートnote」に参加させていただきました!
いいなと思ったら応援しよう!
読んでくださってありがとうございます! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます。