こざかしい落下 #毎週ショートショートnote
「重力なんて、もう古い」
そう言って、僕はベランダの手すりに立った。
天才発明家を自称する僕は、ついに「反重力スニーカー」を完成させたのだ。
――靴底に内蔵されたマイクロ磁場制御装置が、地球の引力を相殺する。理論上、落ちることはない。
SNSでライブ配信も開始。コメント欄はざわついている。
「ほんとに飛べるの?」「フラグ立てんな」
僕は勝ち誇った笑みを浮かべ、叫んだ。
「見てろよ、愚民ども! これが人類の――」
ドンッ。
背中を押された。
誰だ!? と振り向く間もなく、僕の身体は宙を舞った。
――だが、落ちない。浮いている! 本当に浮いている!
「ははは! 見たか! 俺は空を――」
靴が、スルッと抜けた。
足首のバックルを締め忘れていたのだ。
世界が逆さまに回転し、視界がぐんぐん落ちていく。
僕の叫びが風に消える。
上空では、宙にぷかぷかと浮かぶ“スニーカーだけ”が、誇らしげに輝いていた。
地面に叩きつけられる寸前、僕は思った。
――重力をなめるんじゃなかった。
そして翌日のニュースにはこうあった。
「反重力スニーカー、販売開始は未定。発明者は軽傷」
まったく、こざかしいのは重力のほうだ。
(480字)
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