文学茶釜 #毎週ショートショートnote
古びた茶釜が、ある晩いきなりしゃべりだした。
「わしは“文学茶釜”と呼ばれとった名器なんじゃよ」
台所でポットを手にしていた俺は固まった。
しゃべる茶釜なんて、北海道の冬に玄関で靴下が立つより珍しい。
「文学って……読むの?」
「読むどころか、語るのも沸かすのも得意じゃ。
おぬし最近、本読んでないじゃろ」
図星だった。YouTube編集に追われ積読が雪山のように増えている。
茶釜はフチをカン、と鳴らして言う。
「文学はな、心を湧かすもんじゃ。文学湯を味わわせてやろう」
勝手にコンロへ移動し、ぼうっと湯気が立ちのぼる。甘い香りが広がり、ストーリーの匂いがした。
「飲んでみい」
一口すすると、脳内に冒険の序章、恋愛、ミステリー、ファンタジー……物語が次々と湧きあがる。
「すごい……! これ売れるって!」
興奮する俺に、茶釜は渋く言った。
「売るな。文学は味わうもので、商売の具(そなえ)ではない」
「いや絶対バズるって!」
「バズりは沸騰だけで十分じゃ」
ぷしゅー、と湯気を吐くと黙り込んだ。
翌朝、茶釜はただの金属の塊に戻っていた。
けれど文学湯の余韻だけは、胸の奥で静かに湯気を立てていた。
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